プロローグ
私の彼に対する第一印象は、なんてきれいな人なんだろう、だった。
彼はいつだって私に冷たい。
私が彼におはようって言うと、思いっきり嫌な顔をする。整った眉をこれでもかというくらいに寄せ、茶色がかったアーモンド型の瞳を細める。そして、桃色の唇をへの字型にして言うのだ。
「うるさいんだけど」
私は彼に嫌われるようなことをした覚えがない。だから最初はちょっと人づきあいが苦手な人なのかなーなんて思っていたのだけれど、どうやらそうでもないらしい。マンモス校といわれている程の生徒数を誇る私と彼の通っている高校で何度も彼の噂を聞いた。かっこよくて、優しくて、明るくて――。つまり、学校の人気者なのである。
どうしてわたしだけが……っ、と、まあ最初は落ち込んだりもしたけれど元来楽天的である私は、特に気にしていなかった。きれいな男の子に嫌われるっていうのは女の子としてどーなのよって思うこともあったけど、クラスで孤立気味である私と、学校中で人気者な彼が接する機会なんてたかが知れている。だからなんの問題もない。
筈だった。
筈だったのに……!どうして、どうして今私は彼に今にも殺されそうな勢いでのしかかられているのだろうか。重い、うら若き乙女になんてことをするんだ!と憤慨するわたし。いくらお前がかっこよくて人気者だからってやっていいことと悪いことがあるだろう!そう文句を言ってやろうと、彼の方へ視線を向ける。
――――彼は今まででみたことのないような真っ赤な顔で、思いっきり私を睨んでいた。