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2 内裏へ行こう!②

「そうそう内裏、内裏が問題だよね」


 主題の転換と軌道修正をありがとう!と、心の中で礼をしながら、当面の問題に戻るけど名案が出るわけでない。

 どうしてもついてくると主張しそうな皆を止めて、いや、できるならあたしも行かない方向で話を進められないものか。

 そう首を捻っていて、至極真っ当な疑問に今更行き着いた。


「どうしてあたしみたいに素性不明で怪しさしかないような小娘を、最高権力者に会わせようなんて無謀な話になったわけ?」


 確かに有名人だという自覚は、最近出てきた。

 あたしに爪の先ほどの興味もなかった泰紀さんの兄が、街の噂を耳にしてわざわざ会いに来るくらいなんだから、実力のある妖のネームバリューは侮れない。己で思っている以上に、周囲の注目度は上がっているんだろう。

 だからといって帝がわざわざあたし・・・と会う理由はない。

 利用しようとするなら泰紀さんを懐柔した方がリスクも手間もないし、排除しようとするなら尚のこと危険人物との接触は避けるのが普通だ。

 とすれば。


「ご想像の通りですよ」


 にこりと邪気のない笑顔で、家主が肯定する。

 口に出してないのに考えを読むとは、スケベ…と冗談を飛ばせる心境にはならなかった。

 想像したのは、権力者の傲慢。

 滅多なことでは目にすることも叶わない鏡の姫を見てみたい。

 誓約を結んでいても反抗的で、ことあるごとに逃げ出そうと画策している青鬼と赤鬼が、従順に使役されている様を観察したい。

 おおよそ退屈と金を持て余してるお偉いさんの、考えそうなことである。


「…坊や、内裏が燃えたら美しいとは思わぬか?」

「思いますが、面倒事が増えるのでやめてくださいね。やるならあの方だけ燃やしてください」


 笑顔の応酬のくせに言ってることが何とも殺伐としてて、いい感じの会話じゃないですか。とくに泰紀さん、帝なら燃やしていいとか、すごいこと言ってるし。そんなに嫌な人なのか、帝は。


「あ、抹殺なら得意!」

「お前は隠密行動に向かないだろうが」

「あなたも向かないわよ?」


 すでに漫才トリオの様相を呈してきた鬼さん達は、少し黙っていていただけるとありがたい。

 きゃっきゃと女子高生のようにはしゃいでいるけど、殺しちゃだめだから。ふざけた理由で呼び出されたとかでいちいち殺人してると、そのうち人類がいなくなる。断言できる。


「物騒なことばかり言うな、お前の友人たちは」

「自分だけその枠の外にいるような顔しないの。あんたも仲間でしょ」


 ため息交じりの呟きに、睨みつけるおまけつきで答えてやったら鴉は静かになった。

 ちょっと狼狽しているように見えるのは、きっと同じくくりの中に入っていることを嬉しく思ったりなんかしているせいだろう。

 付き合いが長くなってきたせいか、だんだん鴉の属性が理解できるようになったんだよね。

 奴はツンデレ。間違いなくツンデレ。おかんでツンデレとかもう、マンガのキャラかってくらいありきたりで嫌になる。

 だけど、おかげで付き合い方がわかりやすくっていいよ。イジんなきゃいいんだから。さっきの泰紀さんの時と同じく、スルーするのが大事です。おかしなフラグは立てません。


「あたしの考えが正解なら、是非とも呼び出しは拒否したいんだけど?」


 やかましい外野の思惑はともかく、第一の可能性として”行かない”を実行できるかどうかが大事だと、ダメもとで確認を取ったら泰紀さんがそれはできませんと苦笑い。


「今後の貴女のことを考えると、やはり帝に逆らうのはあまりよろしくないですから」

「今後のあたし?」

「はい。ここで貴族の姫として暮らされるのに、一番敵にしてはならない方ですので」

「…あー、まだ生きてたんだ、その設定」

「?」


 首をかしげる泰紀さんに、頭を抱えて応じたあたしは、あの混乱の出会いの日に彼が”田舎から預かった姫”的なことを言ってたことを覚えていた自分の脳を褒めていた。

 どこをどうとったってあたしなんかが『姫』足り得るわけがない。そんなものは誰に言われるまでもなく重々承知しているんだけど、貴族である泰紀さんの屋敷でお客様扱いされるには、それ相応の身分がないとまずいことも理解できる。

 だからあの時、面倒を見ると言った泰紀さんが咄嗟にあたしの素性を偽ったのは、当然の措置だったんだと納得はしていたけれど、今後一生その設定で通すとは思いもしなかった。


「姫ったって、この世にいた記録が全くない人間がなれないでしょ?」


 怪しすぎる存在を高貴な身分の人たちの中に紛れ込ませちゃまずいと思う。

 眩暈がしそうな状況にこめかみを押さえつつ、身分詐称はやめましょうと暗に伝えてみたんだけど、泰紀さんはとってもいい笑顔で心配ありませんと請け合った。


「兄が、貴女を適当な受領の養女にしていますから。貴いと言い切るには些か語弊のある出自ですが、貴族の姫として十分通じる位ですのでご安心ください」


 ドライアイになるんじゃないかってくらい、目を見開いちゃった瞬間だった。びっくり通り越して呆然としちゃう内容だったから。

 兄って、あの兄ですか。とっても貴族らしい性格をしている、全ての元凶。

 あの男のことだから親切心からした行動じゃないのはわかる。きっと自分がやらかした問題行動を隠すため、慌ててあたしがここにいた・・・・・証拠を作ったんでしょうよ。

 それでも驚くじゃない。あたしなんかの為には指一本動かしそうもない奴が、根回ししてたとか言われると。

 おかげで姫なのか…非常に似合わないし不本意だけど、へぇ…。


「嬉しいような嬉しくないような…微妙」


 ここで暮らすしかない以上、足元が固まるのは非常にありがたい。

 だけど、と。ついさっき至近距離で見た姫の美貌を思い出し、更に現在目の前で微笑んでいる存在に目をやって、呼称だけとはいえあの人と同じ土俵におかれる不幸にしみじみ溜息を零した。

 世の中って、理不尽だな。


「安心しろ、誰もお前を姫とは呼ばん」

「…そうだけどさ、そんなん当たり前だけどさ、なんで鴉に言われると腹立つんだろう?」

「お嫌いなんじゃありません?鴉殿のことが」

「そうですわね、お嫌いなんですわね、鴉殿のことが」

「ああ、嫌われていたんですね、鴉殿」


 慰めと揶揄と、鴉はとっても軽い気持ちであたしをからかったんだろうに、何故か桃ちゃん鶸ちゃんに泰紀さんまで加わってボロカス言うもんだから、ちょっと可哀想なくらいにへこんでしまった。対照的に攻撃した三人は上機嫌でさ…なんかあったんか、あそこ。

 ともあれ肩を落とした大男とか見てるだけも憐れなんで、さり気にその辺スルーしてあげる優しさを発動してあげることにした。


「んじゃ、内裏には行く方向だね」

「おい朝霞、お前が否定しなかったら鴉が本当に嫌われてるみたいだぞ」

「ええ、とっても可哀想」


 折角なけなしの気を使ってやったというのに、青さん夫妻に割と本気で窘められた。

 そんな非道な事したかと、振り返った先には沈んだ表情の鴉と眉を顰める御夫妻がいる。

 …んー、ちょっとまずった?嫌ってないことはちゃんと口にしといた方がいいのか。


「あのね、から…」

「では、三日後に内裏に参りましょう」

「はぁぁ?!」


 フォローは結局できずに終わった。

 泰紀さん、爆弾落とすときはちょっと空気読もう。この後の対応がすっごい面倒くさそうだからさ…。

 

まとまりのない文章ですいません…

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