表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/59

20 押し売りお断り

 泣き虫な赤鬼に面倒だと匙を投げたら、優しい女性陣が彼を慰め始めた。

 …身も世もなく泣いている大の男をよしよししてやれるなんて、皆さん母性の塊だねぇ。


「男がこの程度のことで泣くでない。それではこの先朝霞と付き合ってゆけぬぞ」

「付き合うつもりはないからね、姫」

「そうですわ。朝霞の君は少々口がお悪いですが、一度懐に入れてしまえばお優しいのですよ」

「桃ちゃん、その子は仲間に入れる気ないよ」

「私達親子ともなし崩しで契約してしまう人だから、取り入り方次第なのよ」

「おかしいから、奥さん。堂々と取り入るとかいったら、悪役みたいだから」

「鴉様など嫌っていたはずですのに、すっかり仲良くおなりですもの」

「いやいやいや、どこをどう取ったら仲良く見えるのさ、桃ちゃん」


 母性なんかじゃ、ないじゃない。ただただ、楽しんでるだけじゃない。

 円陣組んで赤鬼に余計なことを吹き込んでる彼女達に対して、何を言っても無駄な空気が漂う中、あたしができたことは酷く少ない。


「青さん、せめて自分の嫁くらい回収しないさいよ」

「無理だな」

「なんで即答よ」

「だってお前、徒党を組んだ女に勝てる気なんて、全くしないじゃないか」

「…正論だわ」


 ちょいちょいつついて現状打破のため青さんをけしかけたんだけど、見事な切り返しにあって引き下がらざるをえなかった。

 そうだ、確かにグループ化した女子はやたら強力だ。こうなったら男子に勝ち目はない。ないんだけども。


「鴉もなんか言ってよ。あたしなんかと仲良いとか言われて、イヤでしょ?」


 無駄な抵抗とは思いつつ背後の男に援護を求めると、奴はいつものように即答せずなんとも複雑な表情を浮かべた後、ゆるやかに首を振る。


「…構わない。お前は人間にしては、まともだからな」

「耳の調子がおかしくなったのかな。鴉の言ってることが聞こえな~い」


 初対面で人を斬り殺そうとした奴が数日で方針転換するとか、やーめーてー。

 あんまり不気味なことほざくもんだから、思わず聞かなかったことにして視線逸らしてやった。

 それについてなんかブツブツ言ってるようだけど、雑音は耳に入りませ~ん。しばらく鴉はいない方向で話しを進めようと思いま~す。

 ただでさえ赤鬼が面倒くさいのに、鴉の似合わない発言になんか付き合ってられるかと、さっさと話題の中心に視線を戻すと、いつの間にやら泣き止んでいた件の人物は、でっかい体を丸めるように姫の影に押し込んで、怯えた視線をあたしに据えていた。


「…本当に、恐くない?人間なのに、カラス天狗にすごいこと言ってるよ?」

「恐くなどないよ。救いようのないほど口は悪いが、性根は真っ直ぐじゃ」

「うーわー、なにげに失礼だよね、姫」


 確かに上品ではないし、丁寧語も謙譲語も得意じゃないけど、救いようがないって…微妙に傷つくんですけど?

 ちょっといじけていると、追い打ちをかけるように桃ちゃん鶸ちゃんもうんうんと頷いてるのが見えた。

 …今後は言動改めてみようかなぁ…でもなぁ、今更このメンツに丁寧に対応とか寧ろ変だしなぁ。

 スタートをイロイロ間違えたよねと自己反省してたら、何事かをまた女性陣に吹き込まれたらしい赤鬼が、するすると子供の姿に戻って上目遣いにあたしを見ながら言ったもんだ。


「お姉さん、ボクお腹がすいたの…少し食べさせて?」


 想像してみようか。

 とても可愛らしい少年(小学生レベル)が自分を一心に見つめて、潤目でおねだり。

 あなたなら、抵抗できますか?あたしはできません。美人でもでっかいお兄さんならざっくり切って捨てますが、小さい子には弱いんです。これが育って人に脅しをかけるんだとわかっていても、あのなりで空腹を訴えられたら、負けます。ええ、負け負けですとも!


「…いーよ。食べな」


 盛大な溜息と共に許可を出すと、しょぼくれていた赤鬼の顔がみるみるうちに綻んで、何考えてるのかいきなり飛びついてきた。


「ありがとう!!」

「うおおぉ!」


 色気のない悲鳴を零しながら、必死に抱き留めようと踏ん張るけどそうもいかない。胸の辺りまで頭が来るような子供が全体重をかけてきたら、非力な女の子(ここ重要)にはどうしようもないんだって。自然の流れで後ろへひっくり返っちゃうんだって!

 せめて履いてるのが草履じゃなくスニーカーだったらなぁとか考えながら、重力に引っ張られる事への抵抗をやめたところで、背中と右の二の腕が鴉と青さんに支えられて落下が止まる。


「気をつけろ。お前が飛びついたら、朝霞では支えられない」

「そうそう。食事の前に、力の限り殴られるぞ」


 鴉はともかく、青さんは後で締めよう。何誤解を招く発言をしてるんだか。まるであたしが暴力女みたいじゃないか。

 ひと睨みすると大人しくなった青鬼と、冷静に諭した鴉に反省したのか、またまた上目遣いでごめんなさい、とか言っちゃう赤鬼にくらくらしながら、気がついた。

 このくらくら、可愛さにやられて精神的にっていうのもあるけど、マジもんじゃない?本気で貧血?何これ?


「これ、一息に喰らうでない」


 鴉たちに支えて貰ってなきゃ倒れちゃいそうなあたしから、いつの間に来てたのか姫が赤鬼を引っぺがす。

 なんとうか…あの見かけなのにすごい力だよね、姫。片腕で赤鬼をぶら下げてるし…ところで、喰らうって何?もしかしてくらくらって、その子が妖力を食べてたの?どうやって?!


「ごめんなさい。すっごくおなかが空いてたから」

「それはわかるが、極限まで腹を空かせたお主が加減なく喰らえば、いかに朝霞といえど倒れるではないか。見よ、既に妖力が半分ほどになってしもうた」

「だね。でもすごいよ、これまでの妖術師達はこの時点で死んでたんだから」

「殺す気だったんかいっ」


 物騒なこと言う赤鬼を、勢いで殴ってしまった。これじゃあ図らずも青鬼の言葉を、実践したみたいじゃないか。

 しくじったと歯がみしていると、案の定青さんがニヤニヤ笑っている。口には出してないけど、何言いたいのかは一目瞭然だ。

 折檻、決定だから。さっきの暴言と合わせて、キッツイの覚悟しとけよ。

 誠にもってむしゃくしゃするが、ここは何より教育的指導を優先させなくちゃなんない。

 大げさにも痛い痛いとほざく赤鬼を一括して黙らせると、仁王立ちした勢いのまま食事ルールを教えてやる。


「あのね、人の親切を仇で返すような真似、するんじゃないのっ。ここまで食べて他の人が死んでるなら、その前で止めなきゃダメでしょ?あたしが死んだらあんた2度と食事にありつけないんだから、ちっとは頭使いなさいよ」

「え、また食べても良いの?それってボクと契約してくれるって事?」

「するかっ!言葉の綾でしょうが!」


 まったく、ひとの揚げ足とってんじゃない!

 喜々として都合のいいように話しを持って行こうとするのを止めて、ひとが怒ってる理由を少しもわかっていない赤鬼に更に説教しようとして、気付いた。

 …これって、フラグ?いきなり登場したウザイキャラにぐだぐだ絡んでる内に情が湧いて、気付いたらなし崩しに契約しているっていう、ラノベとかティーンズノベルに多い、フラグ?フラグなの?!

 嫌な予感にこっそり女性陣を見やると、生暖かい目でひとのこと見てるし。鴉の顔は見えないけど、青さんはあからさまに残念そうな表情だし、そう言うことか。ならばそんなもん、へし折ってくれる!


「…あー、そこそこお腹いっぱいになったら、さっさとここを離れるように」


 ともかくこれ以上関わらないのが得策だとクールダウンして平静を装い、まだ姫にぶら下げられてる赤鬼に背中を向けた、まではよかったんだけど。


「やだっ!ボク、お姉さんが契約してくれるまで付きまとうからっ!」

「うぎゃっ!!」


 勢いよく背中に飛びつかれて、顔面から地面に倒れ込んだ。

 不意打ちで手は出ないし、鴉や青さんのフォローも間に合わないし、本気で高くもない鼻を強打して涙が出てんですけど?あ、無視なのね、気にしない訳ね、ご機嫌でやだやだ連呼しちゃう訳ね。へー。


「一生しない!どんだけストーカーされても断るっ!!」


 お前みたいな自己中小僧、年中傍にいたらあたしの神経がすり減るわ!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ