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17 お買い物は計画的に

 騒々しい朝食後、鬱陶しい自称保護者が、あたしが市に行くための条件とやらを姫達に提示して、双方合意を得られたらしい。

 面倒なんで細かいことは端折って、現状だけを説明しよう。

 姫は得意の結界で(彼女の力はオフェンスよりディフェンス向きなんだと)身内をすっぽり包んでいる。

 青鬼は奥さん共々(男女関係なく彼等の一族は強いらしい)、護衛。

 鴉は監視といいながら、あたしの後ろにべったりくっついている(マジ邪魔)。

 穏便を好む(ほんとか?)泰紀さんは、面倒ごとを避けるためにこの布陣を敷いたらしいんだが、


「寧ろ目立つっ」


 ひそひそぼそぼそやりながら、こっちを遠巻きに見ている青空市場の店主たちとその客に、あたしゃ思わず絶望を叫んだね。

 大人しくしていろ、狙われてるぞとかいいながら、このメンツで外出させるか?普通させないよ、だって呼吸してるだけで他人様の目につく集団なんて、隠れようがないんだからさ。

 6人と赤ん坊1人の組み合わせに、人間が1人。もっというなら美しき7人の妖と、可もなく不可もない人間1人、だ。

 目立っていないと言いきる奴がいたら、そいつは希代の嘘つきにちがいない。

 ぶっちぶっちと不満を並べ立てるあたしを面倒くさげに見た鴉は、それでも静かにさせるためと、いやいや言葉を紡ぎ始める。


「主殿の策は間違っていない。姫様と桃、鶸は楽しむためには人の目につこうと気にしないし、青鬼等は放っておいてもその外見が目立つ。加えて本来それを抑え込める力を持つお前が、使いこなせず巻き込まれるだけとあれば、多少の犠牲を払っても身の安全を図るのが当然だろう」

「うわぁ…むかつくけど正論過ぎて反論できないわ」


 事実、出かけないでおこうと思ったのに、自由気ままな妖様に押し切られて、あたしここを歩いてるしね。

 鴉が言うには、奔放すぎる彼女達を上手にコントロールして、別種族である人間との付き合いを教えるのが、本来契約者になったあたしの役目なんだって。

 ………無理だから。自分がこの似非平安京になれるんでいっぱいいっぱいなのに、人の世話まで焼けません。

 当然、異邦人にそんなことまで求めてはいけないと知っている泰紀さんなら、今回みたいに命を優先させるに決まってるよね。

 ありがとう、フォローしてくれて!


 遠くのお空の家主に手を合わせて(縁起が悪い真似するなと小突かれた)、開き直ったあたしはとことん目立って買い物を楽しんでやろうと決めた。

 狙われるってんならどんと来いだ。こっちには妖界の実力者が揃ってるんだから、返り討ちにしてくれるわ!他力本願バンザイさ。


「ごらん、朝霞。美しいと思わぬか?」


 タイミングよく姫が差しだしたのは、手近な露天に並べられていた麻の布だ。呉服屋に置いてあるような筒状のそれは、朱に近い綺麗な赤色をしている。


「うん、いい色だね。優しい赤だ」


 現代にあったような複雑な模様や、可愛らしいプリントのない単色の布だけど、だからこそ浮かび上がった色こそが個性として目に鮮やかに飛び込んでくる。当然手紡ぎの手織りであるから、所々生地に凹凸もあって非常に味のある反物になっていた。


「あ、茜の染物でございますぅ~」


 店主は、引きつった笑顔を浮かべながらもそう説明する。

 うん、いい度胸だ。立派な商売人だね。街中で細長ほそなが姿、さらには地面から10センチ近く浮いているドラ○もんも真っ青な妖の姫に、ビビりながらも自分の商品を売り込めるとは偉い。

 きっと良いことがあるよ!


「ほう。気に入った、あるだけもらおう」

「あ、ありがとうございますっ!」


 ほら、あった。

 経済観念なんて全くない姫が、10本はある同じ布を買っちゃったよ。

 

「麻とか着ないでしょうに」

「妾はな。しかし、朝霞は着よう?」

「…はいはい。着ます、着ますとも」


 豪奢な着物以外がどうしたって似合わない姫が、庶民の生地である麻をそんなにどうするんだと突っ込んだら、藪だった。文字通り、やぶ蛇。

 唇を人の悪い笑みで飾った姫と何故か楽しそうな桃ちゃん鶸ちゃんまで、あたしの肩に茜の反物を乗せている。


「朝霞の君は常々、動きやすくて汚れてもよいお召し物をお望みでしたものね」

「ご安心下さい、わたくし共がすぐにも縫い上げてしまいますから」

「いいですね、このお色」

「気に入ったのなら朝霞と揃いで着たらいい。桃、青の奥の分も、縫うてお上げ」

「かしこまりました」

「よかったな」

「はい、あなた」


 …なんなんだ、この疎外感。どうしてこいつらは度々、当事者をおいてけぼりにして話しを進めるんだ。

 怒っていいんだか脱力していいんだか分からないやるせなさの中、偶然巡らせた視線の先で鴉がニヤリと笑ってみせる。


「よかった…うぉっ!」


 皆まで言わせるかっての。

 一歩の距離をミドルキックで詰めてやると、すんでの所で避けた鴉が憎々しげに顔を歪めていた。


「男なら大人しく蹴られてろ」

「どんな理屈だっ。何よりもお前、着物の裾がめくれ上がることを少しも気にしないのか」

「しない。現代女子高生をなめんなよ。見せパンはいてまでミニスカにこだわってんのは伊達じゃないんだ。ふくらはぎ見えたがどうした」

「何を言っているのかほとんど分からん。”みせぱん”とはなんだ?”だて”とはどんな意味だ」

「おおう、カルチャーショック。伊達は平安時代じゃ通じないのか…」

「だから分からぬ言葉を使うなと言うのに」


 まだブツブツ言ってる鴉は取り敢えず置いておいて、鶸ちゃんの払ったお金(スポンサーは泰紀さん)と引き替えにした反物は、見かけ通り力持ちな青鬼が持っている。

 あ、因みに名前が呼べない青鬼の旦那は『あおさん』、妻はそのまんま『奥さん』で呼び名が固定した。今、奥さんの腕の中ですやすや眠ってるのは赤ん坊の『なつ』は、名前じゃないからね。仲間内では大抵、そんなのがついていて便宜上の呼称になってるんだとか。

 たださ、『夏』が夏なのは、夏生まれだからって理由だけはどうにかなんないかね?犬や猫でももう少しひねりの利いた名前になってると思うんだ、あたし。


 ああ、脱線した。そんなことはどうでもよかった。

 取り敢えず放っておくと目についたって理由だけであれこれ買い集める姫を、なんとかしないと。

 生地をあれだけ手に入れたら、今日は既に予算オーバーじゃない?


「はいはいは。これからはお店を見て楽しむだけにしよう」

「何故じゃ。手に入れねば、楽しくなかろうが」


 宣言すると目を眇めた姫が面白くなさそうに言うけれど、知ったことではない。この迫力に負けると、折角余計なもののないすっきりした部屋が、生活必需品で埋まっちゃうんだって。


「そうねぇ~買い物の醍醐味は欲しい物をゲットすることだけど、同じ色の反物十数本とか、ゴザが十数枚とか、灯台が数個とか、大根が十数本とか、シカ肉一頭分とか、処分に困る量をゲットするのは更に困るんだよ。だから、買わない方向で」

「いやじゃ」

「いやじゃないから」


 いい大人のくせにっ(年齢聞いたら、あたしのおばあちゃんより年上なんだよ)駄々こねるんじゃないと、がっつり腕組んで露店から引き離しにかかると、ケタケタ陽気な笑い声が背後から響く。


「すごいね、あんた。鏡の姫にそんなまねできる人間がいるなんて、驚いたよ!」


 振り向いた先で小学生が笑ってた。

 髪も肌も全身真っ赤でなけりゃ、生意気な口をきくなと言ってたとこよ。

 妖か、また妖なのか…。 

 

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