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14 禁じられた遊びは怪我じゃすまない

今回主人公が人でなしですが、仕様です。今後も彼女はこんな性格のまま爆走します。

馴染めなさそうだと思われる方は、速攻で回れ右をお願いします。


 強制的に名前をつけられた青鬼は、その後わりと直ぐに目を覚ました。

 妖の回復力は人間からすると驚異的で、彼の体にあった傷はほとんど残っていない。姫に言わせると力の強い妖だからこそ、肉体も強靱なんだって事らしいけど、とにかく元気になったのなら何よりよね。


「やっとの思いで人間から逃れたのに、また人間に真名を取られたのか」


 だけど、青鬼は浮かない顔だ。あたしが名前つけたことが、心底お気に召さないらしい。

 荒削りな美貌の中、濃紺の瞳を曇らせて深い深い溜息をつく。


「取ってない。あたし妖術師じゃないから妖の名前もっててもいいことないし、姫にすぐに記憶を消して貰ったから、今のとこ貴方の名前を知ってるのは貴方だけ」


 全く、好きでしたことじゃないのにあんなに不機嫌そうな顔されるとか、納得いかないってのさ。

 投げやりに言って、事の顛末の責任者である姫に視線を送ると、楽しげに笑った彼女は疑わしげな表情の青鬼に請け合ってやった。


「朝霞の言葉に嘘はないよ。そなたの名は、そなただけのもの。この子の記憶は封じたわけでなく完全に消してあるから、何かの拍子に思い出して呼ぶこともない」

「…あなたは、鏡の姫…?」

「妾を知っておるなら話が早い。鏡は嘘をつかぬ。真実だけを写すからな」


 尊大な姫の態度が、その実力に裏付けられての物だって、今日は嫌と言うほど実感させられたわ。

 何しろいきなり青鬼の態度が変わったからね。寝具の上でだったけど、できる限りで居住まいを正した彼は不機嫌をふっとばして、きちんと姫の話を聞く体制ですよ。

 自分との扱いの差があんまり著しくて、分かっちゃいるけど少々ふて腐れ気味だったあたしは、そろりと顔を上げた青鬼が零した小声に途端、機嫌を直した。


「助かった」


 お礼?!今の、お礼だよね?

 あまりのびっくりと嬉しいのとで、確認するよう泰紀さんと桃ちゃん鶸ちゃんを見ると、3人とも頷いていた。

 聞き間違いじゃなかったらしい。端から嫌われてるよな空気を醸されるより、こういう友好的な態度とか示される方が良いに決まってるもん。


「いやいや、大したことしてないから、全然気にしないでっ。それより自由になれてよかったね」

「…妖術師の館にいるくせに、妖が支配から逃れたことを喜ぶのか」


 陽気なあたしの声に被った青鬼の声が、あんまり陰湿だったもんだから思わず眉根が寄る。

 なんかおかしいこと言った?

 意味がわかんないんだけどと、妖術師である家主に首を傾げるてみせると、苦笑いを浮かべた彼は青鬼の真意を教えてくれた。


「私達の仕事は、強き妖を従えてこそ、なのです。なので青鬼や天狗を手中に収めることのできた妖術師は、彼等を逃がすまいと躍起になる。けれど貴女は私の館に住まいながら、彼の自由を喜んだ。常識からはあまりに外れた言動だと思いませんか?」

「なにその胸くそ悪い常識」


 つくづく現代人でよかったと安堵しちゃう程度に、反吐の出る理屈だよね。そう態度で示してやれば、笑ったのは女性達だ。


「やはり朝霞は長生きが難しそうじゃ。妖の手にかからずとも、人の手で命を落とすのではないかえ?」

「お仕えしがいがありますわ」

「全力でお守りしますわね」


 あんまり嬉しくない予言と、そんなに敵がいるのかと突っ込みたくなる保護宣言ではあったけれど、悪い気分ではなかったので微笑んでおく。

 対して泰紀さんは苦い表情のまま困った人だとかなんとか扇の影で溜め息吐いてるし、鴉と青鬼に至っちゃ盛大に呆れた表情を隠しもしない。

 だから、なんかおかしな事言いましたか、あたし。


「本気で言っているのだとしたら、人間かどうか疑いたくなるところだ」

「人間だっての。だからあたしを嫌いなんでしょうが」


 しばらくぶりに口を開いたと思ったら、この鴉は…いっぺん焼き鳥にしてやろうか。


「今のオレは力を大きく削がれ、お前達人間に容易く捕らえられることだろう。それでも見逃すというのか」

「だーかーらー!1度でも泰紀さんやあたしが貴方を捕まえましたかって言うの。助けただけでしょうが、すっごい自由でしょうが!フリーダム!理解できる?」


 馬鹿なのか。馬鹿なんだな、妖族の男って種族は!揃いも揃ってどうしたってあたしを敵に仕立て上げないと生きていけないとか?!

 連中の呆れを上回る怒りで畳みかけると、その迫力に押されたのかさすがの彼等も渋々とはいえ負けを認め(いつ勝負になったんだろう??)、あたしや泰紀さんに疚しいことがないことを理解してくれた(遅い)。


 そんなわけでこの無益なやりとりは終了となり、ようやく本題へと会話が戻ったわけ。


「してそなた、どこの里へ帰るのじゃ。体が充分休まるまでここにおってもよいし、早う家族に無事な顔を見せたいと申すならば、妾の鏡の道で送ってやるもやぶさかではないが?」


 姫のありがたい提案に青鬼が弾かれたように顔を上げると、是非と詰め寄る。


「里へ、すぐにも里へ戻していただけますか?子が産まれるのです。いえ、きっともう産まれてしまっている…オレは知らせを受けて家へ戻る所をあの忌々しい妖術師に捕らわれたのです」

「なんと、そうであったか」


 切羽詰まった青鬼の声に反応したのは、鶸ちゃんと桃ちゃんだった。

 すぐにも行動を起こすであろう姫の先を読んで、彼女達は音もなく部屋を出て行く。

 つくづく優秀な小学生だよね、2人とも。少し見習わなくちゃなぁ。


「では急いた心の隙を突いて、貴方は捕らわれたのですね」

「ああ。だがそれだけであの程度の者に遅れは取らん。奴らは5人がかりでオレを縛したのだ」

「それは…禁呪法ではありませんか」


 さて、困った。いつもなら無知なあたしに説明を入れてくれるはずの子達がいませんよ?

 会話の腰を折って泰紀さんに聞くわけにもいかないし、一緒に難しい顔してる姫に聞くわけにもいかない。

 となれば。


「ねえねえ、禁呪法って何?5人がかりで妖を捕まえたりしていいわけ?」

「何故私に聞く」

「他に手が空いてる人がいないから」

「私だって」

「早く教えてっ」


 不満そうな鴉を気合いで黙らせて説明プリーズと睨み付けると、根負けした奴が嫌々教えてくれた。

 力ある妖を数人がかりで捕らえ誓約を結ぶのは、文字通り禁じられた呪法なのだそうだ。

 名を奪ったとはいえ、本来の実力であれば決して1人で押さえきれない者を従えようというのだから、歪が生まれるのは当然。しかもそれは術を共有する人数が多くなれば成る程、危険が増すのだという。


 だって妖力が足りないから、人数を増やすんだよ?バズーカの撃ち方を知らない子供が自分の体より大きいバズーカを抱えて、よろよろ歩いててみなよ。怖くて近寄れないからさ。


 理解しちゃうと青鬼を捕まえてたおバカさんが達がどうなったか、想像するだに恐ろしい。

 彼は力ずくで名前を捨ててきたって言ってたよね。それってすごく危険で、だから怪我とかして動けなくなってたわけだけど、もしかしてもしかすると、やられた方も酷い目に遭ってない?ほら、銃が暴発した的な、自爆コースがちらつくじゃない。


「…その顔を見るとだいたい想像がついているようだな。青鬼を縛していた妖術師共は、皆死んでいるだろう。1人であれば、お前が宣言したように殴ることも可能だったろうに、残念だな」

「にんまり笑って残念とか言っても、全く真実味がないし」


 嬉しそうな鴉にうんざりしながら、予想通りのオチにほんのり気分が悪くなったわけだけど、よくよく考えれば妖術師達は自業自得。できたのがたんこぶじゃなくてお墓だって違いだけだから、良しって事でスルーしよう。

 ざっくり思考を切り替えて、姫と共に鏡に消えていく青鬼を見送ったあたしは、取り敢えず機会があったら赤ちゃんを見せてねってお願いしておいた。

 おっさんの死体より、生まれたての赤ん坊を見る方が精神衛生にはいいはずだからさ。

 


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