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聖女の宿命  作者:
15/32

※物語1




「だから言っただろう?」

 含み笑う声がする。


 薄暗い部屋の中で、少女は息を潜めている。じっと身を縮めて、五感を研ぎ澄ませている。


「知らないってのは素敵なことだな。おかしいとは思わなかったのか? お前は頭は悪くないだろう。なあ、考えてもみろ。お前は向こうでどうだった? だれかがお前を気に掛けてくれたのか? 少しでも哀れに思ってくれたのか? 考えろよ。脳味噌ってのはそのためにあるんだぜ?」


 窓枠に影が腰掛けている。男の影だ。それはゆらゆらと恐ろしげに揺れる。少女は一層、身体を竦める。


「国が命じたんだよ。国王の勅命だ。逆らうなんてできないさ。お前が見ているのは、全てまやかしだ。なあ、本当は、分かっているんだろう? あいつらは笑顔の裏でなにを考えている? 優しい言葉を吐きながら、なにを思っている? な、分かるだろう? お前は知っているはずだ。生まれた時から、それはお前の傍らにあっただろう?」


 温かなランプの光は少女の元まで届かない。少女は胸元を掴んだ。


(助けて)


 はあ、と息を吸い込む。何度も、何度も。


(助けて、助けて、息ができないの)


「だれもお前を愛さない。可哀想なニゲリア。可哀想になあ。――ああ、そうだ、その顔だよ。お前のその絶望に染まる顔が、俺にはなにより好ましい」


 少女は息を吸い込み続ける。そうして深く深く溺れてゆく。

 その苦しさは、呪わしくも懐かしく、なによりも彼女に馴染むのだ。


「……ああ、そろそろ頃あいか。また来る。良い子で待ってなよ」


 甘く甘く、睦言のように囁いた。その一瞬のちに、男の姿は掻き消えていた。

 少女の膝ががくりと折れる。


 少女は顔を覆った。彼女の啜り泣く声は酷く小さい。だれにも聞こえぬよう、身を小さく縮めて少女は呻く。それは彼女の癖だった。


 ――そんな風に泣かないで下さい。

 ――あなたが泣いている時は、傍にいたいのです。どうか、呼んで下さい。どんな時でも駆けつけますから。


 優しい記憶も、今の彼女には響かない。


 少女は這うようにして窓辺へと向かう。月すら見えない闇夜に、彼女は手を伸ばした。


(助けて)




最後の部分、改稿しました。すみません!

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