*落胆
「処で」
「はいっ」
硬直して声がうわずる。
「マイクロSDはちゃんと相手に渡せたかね?」
「へ……?」
ニヤリと笑ったベリルに血の気が引いた。
「ま、まさか。初めから解ってて……」
引きつった彼の顔を一瞥しデスクに腰を落とす。
「この組織が偽札まで手を出すものではないと解っていた。ならば答えは1つだ」
もっと大きな組織の運び屋をしていた……目を据わらせて言い放つとイワンはガタガタと体を震わせた。
「仲間がすでに向かっている」
「!? なんだって?」
「逃げるなら今の内だぞ」
男に顔を向けて静かに発する。
「う……」
目を見開き恐怖におののいている男を確認し部屋を後にした。
一方──組織のビルに入っていったベリルを待つライカたち。
「……」
一体なんの話をしに来たんだろう? とライカはベリルのピックアップトラックに背を預けピルを見上げる。
「あ、そうだ。ケビン」
ポケットからペンダントを取り出して少年に手渡す。
実はマイクロSDの入ったペンダントはベリルが用意した偽物だったのだ。彼らが奪ったその中には発信器が取り付けられていて、仲間たちはそれを追跡している最中である。
「!」
しばらくしてビルから出てきたベリルを確認する。
「何の話をしてたんだ?」
それには答えず車に乗り込み、発進せずにヘッドセットを取り出して左耳に装着し会話を始めた。
「ムサファ、そちらの様子は……そうか。引き続きよろしく頼む」
会話を終えるとヘッドセットを外しハンドルに両手を置いて話を切り出した。
「マーフィと言ったかな」
「あ、ああ」
ミラー越しに後部座席に座っているケビンの父親を一瞥する。
「彼のためにも、今の仕事は辞めるべきだとは思わないかね」
「!?」
3人はそれぞれに驚いてベリルを見やった。
「ベリル、なに言って……」
聞き返したライカに見向きもせず続ける。
「お前はケビンが身を滅ぼす事を望むか」
「だからどういう意味だよ!」
意味の解らないライカは声を張り上げた。
「運び屋という仕事は大金と命を交換するものだ」
ベリルは声を低くして険しい表情を浮かべる。
「運び屋!?」
ライカは目を丸くしてマーフィを見つめた。
「……」
男はケビンをギュッと強く抱きしめる。
「彼が運んでいたのは小麦粉ではない。マイクロSDもその中にあったのだろう」
「……君の言う通りだ」
「! 父さん?」
「俺は、奴らから金をもっとむしり取るためにSDカードを盗んだ。それがこんな事に……」
「お前が運んだ薬で何人の命が消えただろうね。命と金を引き替えにした」
「それは……っ」
眉間にしわを寄せる。
「これ以上お前を責めるつもりは無いよ。決めるのはお前自身だ」
「こんなこと……いけないと解ってはいたのに抜け出せなかったんだ。俺は弱い人間だ」
「父さん……」
「では、これを機に足を洗う事だ」
「そうだな。そうしたい」
深い溜息を吐く彼にベリルはイタズラっぽく笑った。
「どのみち、この組織の運び屋はもう出来ないがね」
「……え?」
「私が脅しをかけたのだ。ボスは田舎にでも帰って農業でもするだろう」
「……」
ニコニコと言い放つ彼に一同は二の句が継げなかった。