*本格始動
考えてそのまま電話をかけた。
<どうした>
「マイクロSDなんだけどさ……」
ベリルの声に泣きつくように発する。
<待て、今行く>
電話が切れると同時に側の茂みから出てきたベリルに目を据わらて見つめた。
「……そんなトコで何してたんだ」
「イチャついてる恋人を覗いていた」
「マジか」
「ウソだ」
殴ってやりたい……拳をふるわせる。
そんな彼にさして反応するでもなく、ベリルはジーンズのバックポケットから携帯よりも大きな機械を取り出した。
「モバイルパソコン……用意がいいな」
「ペンダントに入るほどのサイズならマイクロSDが限界だと思っていた」
「……」
初めから気付いてたならそのときに取れよな……相手の行動を眺めて遊ぶ処は相変わらずか……眉をひそめた。
「ドル札?」
ディスプレイに映されたものに怪訝な表情を浮かべる。
「かなり精巧だ」
「これってもしかして……」
「偽札の原盤だろう。作成するプログラムも入っている」
ケビンの父親は小麦粉の中にこれを見つけて抜き取ったのだ。どういう理由で抜き取ったのかは本人に聞く他は無いが……確認したベリルはモバイルパソコンを閉じて口を開く。
「これは私が何とかしよう。2人はこのまま移動してくれ」
「え?」
呆然とする2人に彼は続けた。
「情報が漏れていないように装うためだ」
「そうか、それなら仕方ないな」
「それで父さんが助かるんだね!」
少年に応えるように微笑む。すると少年は鼻息荒くズンズンと歩き出した。
やる気満々だ。
「彼を頼むよ」
ライカにそう言ってどこかへ行ってしまった。
2人がしばらく歩いていると──
「疲れたよ~」
「またかよ……」
どこか公園のベンチを探すか……とキョロキョロしたとき背後から敵意を感じて振り返ると、3人の男がハンドガンを手にこちらに歩いてきていた。
「!?」
こいつらなりふり構わず襲ってきやがった! ライカは腰の銃に手をかけるが、間に合わないと瞬時に理解する。
相手は3人、こちらが一発撃つ間に3発返ってくる。だめか!?
その時──ライカの後ろから影さらりと出てきた。
影はライカのベストからスッと殺虫剤を抜き取りジッポライターに火を灯して男たちに向かって噴射した。
「ベリル?」
「うわっ!?」
さながら火炎噴射のような炎にたじろいだ男たちをすかさず叩き伏せる。
「……」
なるほど、それで殺虫剤か……ライカは感心して小さく溜息を吐き出すベリルを見つめた。
「凄い」
ホントに強いんだこの人……爽やかな笑顔を向けたベリルを少年は凝視した。
手錠で3人の男たちを拘束したあとゴソゴソと物色し始める。
「結構持ってるな」
「それやめろよ……」
ライカは頭を抱えた。
「泥棒だよね……」
「相手は悪者なのだ。構わん」
しれっと応える彼に眉をひそめる。
「ベリルのは半分いやがらせだ」
「さてと。とりあえず……」
立ち上がり話題を変えるように発して男たちの1人に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「ボスに私の名前を言ってみるがいい」
「! なに?」
「顔色を変えたらお前たちの組織は終わりだろう」
「何を言ってる……?」
「ベリル・レジデントだ」
念を押すように言うと立ち上がった。
「お前たちが何を探しているのか知らんが子供を追い回すのはいただけんな」
「!」
なに言ってるんだ? 持ってるのに……そう思ったライカをエメラルドの瞳で睨み付ける。
悟られるなってか、悪かったよ……すごすごと視線を泳がせた。