*大団円?
「……ってことは、いま向かってるのは偽札の原盤を運ばせていた組織?」
尋ねたライカに無言で頷く。
「……」
なんかややこしいぞ……ケビンの親父がイワンてボスの麻薬組織の運び屋をしていて、その麻薬組織はさらに別の組織の運び屋をしていたってことか?
「企業で言えば下請け会社ってとこかな」
「その例えは正しいんか……?」
「ルカからボスの名を聞いてこちらはすぐに片が付くと思っていた。問題はその上だ」
イワンは現役の頃から小ずるい処があったからね……ベリルは笑って応える。
「彼らを許すほど私の許容は大きくはない」
一瞬ゾクリとする。
いつものベリルじゃない。そんなに相手の組織は悪いのか……彼の醸し出す存在感が変わったことに息を呑んだ。
犯罪組織なんて数えればきりがない。そんなものにいちいち怒っていたのでは神経が持たない……ベリルはそう言いながら輝くエメラルドの瞳を曇らせる。
彼に何があるのか──それは誰も知らない。
「ライカ」
「! なに?」
「どうするね」
「なにを……」
ライカを一瞥して続ける。
「お前も参加するのか」
「あ、おう」
呆然としたまま応えたライカに小さく笑った。
所変わって偽札の原盤を運ばせた組織の内部──1人の男が原盤と作成プログラムの入ったSDカードを受け取り中身を確認している最中だ。
「よし、大丈夫だな」
それをパソコンで確認しつつ発する。
「!? 待てっなんだこれは」
画面を見ていたもう1人の男が異変に気がつき声を上げた。
「どうした?」
後ろにいた男を一瞥しディスプレイに目を移す。
すると……画面がユラユラと揺れ出しそこにいた3人の男は怪訝な表情を浮かべて見つめた。
そして──『自爆します』
という文字が画面中央に表示されたあと、プツン……とそれきりパソコンは何も言わなくなった。
「……」
「……」
「……どういうことだ」
「コンピュータウイルス……?」
移動中の車内でライカは眉をひそめた。
「うむ」
データをコピーし別のSDカードに移してウイルスを忍ばせたのだ。
「私がプログラムした特別製でね。彼らのパソコンは使い物にならなくなっているだろう」
ベリルはクックッと喉の奥から絞り出すように笑った。
パソコン内部のデータを食い荒らしたあとに自らのデータも破壊して終了する恐怖のプログラム──
愛称は『自爆くん』
「さすがにあれだけのデータをSDカードに入れるのには苦労した」
仕方なく持っていた最高容量のカードを使った……しれっと言ってのけるベリルに呆れて頭を抱えた。
「さて、そろそろ着くぞ」
「!」
顔を上げるとアスファルトの駐車場が視界に入る。その向こうに横長だと思われる建物があった。
車を駐めて外に出ると、すでに仲間たちが準備を済ませていた。
「……」
活気のある雰囲気にライカは懐かしさで目を細める。
「ベリル!」
呼びながら手を挙げて近づいてくるムサファに彼も同じく手を挙げて応えた。
「様子は」
「中であわてふためいてるようだ」
それにニヤリとし手を挙げて合図すると仲間たちが集まってくる。
その様子をベリルの車の中でケビンとマーフィはじっと見つめていた。
「父さん」
「!」
少年はふいに口を開く。
「オレ……優しい父さんが好きだ」
「解ってる。解ってるよケビン」
息子の頭を優しくなでると少年は父に抱きついた。
「作戦は覚えたな」
彼の言葉に一同は頷く。
「決行だ」
一斉に散らばっていく──組織の場所が街から離れていて丁度良い。
ベリルは昼間だというのに作戦を決行した。
『時間はかからない』
それが彼の出した結論だ。
少年が警察に駆け込んでも動かなかった処を見ると警察ともつるんでいる。ならばここに何があっても警察は沈黙を続けるだろう。
「!? なんだっ!?」
建物内にいた男たちは突然、響き渡ったガラスの割れる音に驚く。
「うわぁっ!」
「ひぃっ!?」
そうしてあっという間に囲まれ男たち3人はいくつもの銃口に勢いよく両手を挙げた。
「……」
俺が参加するかどうかって聞く意味あったのか……? ライカはあっけにとられてその光景を見つめた。