*少年
ハンター──ライカ・パーシェル──はブラブラと街中を歩いていた。
ここはアメリカのアイオワ州、ウィンターセット。深緑のカーゴパンツとアサルトジャケットに普段用のタクティカルベスト。ブラウンの髪に青い瞳、そして彫りの深い顔立ちは体格の良い体型に見合っている。
「?」
後ろの方から慌ただしく走ってくる足音に眉をひそめて振り返ろうとした刹那──
「どわぁっ!?」
何かが勢いよくぶつかってきて倒れ込んだ。
「な、なんだぁっ!?」
「助けてくれよ!」
ぶつかってきた少年は凄い剣幕でライカに声を張り上げた。
「は……?」
突然の事に意味が解らず、赤茶色の髪に栗色の瞳の少年を見つめる。
「やっと捕まえたぞ」
「離せよ! 離せーっ!」
男たちに首根っこを掴まれて少年は引きずられるように遠ざかっていく。その瞳はライカに助けを求めていた。
「待てよ」
「何?」
その声に男たち3人は振り返る。
「嫌がってるだろ」
「貴様には関係無い。引っ込んでろ」
「!」
胸を軽く突き飛ばされたその瞬間──
「うわっ!?」
その男を投げ飛ばした。アスファルトの地面に叩きつけられて悶絶する。
「きさま!」
それを見たもう1人の男が銃を取り出しライカに突きつけた。すかさずそれを蹴り上げる。
「いつ……っ!?」
驚いて上を見上げた男の顔に拳を一発。
「どうする?」
拳を解いて手をブラブラと振りながら少年を捕まえている男を睨み付けた。
「くっ、覚えていろ!」
男はお約束のセリフを吐き捨てて少年を突き放し逃げ去る。
「……」
少年はポカンとしてライカを見つめた。
「おじさん……強いんだね」
「あ゛? “おじさん”?」
ピクリと片眉を吊り上げたが肩を落としてつぶやく。
「32歳はおじさんだよな」
溜息を吐き出して歩き出した。
「! ま、待ってよ!」
「あん? いいからどこへでも行けよ」
そう言って離れていく男の背中を少年は睨み付ける。
「おじさん! お願いだ……助けて」
「へ……?」
助けを求めた少年の話を聞くため近くのカフェに入った。
「父さん?」
「うん」
少年は向かいの席でオレンジジュースを飲みながら頷く。
「父さんが悪い奴らに捕まっちゃったんだ。助けに行ったらオレも捕まりそうになっちゃって」
「……」
いぶかしげな表情で少年を見やった。
俺が捨てられた時と同じくらいの年だ……道ばたで両親をずっと待っていた記憶がライカの脳裏によみがえる。
「頼むなら警察に行け」
「警察に行ったけど誰も相手してくれなかったんだよ!」
「俺に頼むと金がいるぜ」
「え……?」
「俺はハンターだ」
聞き返した少年にライカは静かにしかし誇らしげに応えた。
「ハンター?」
「依頼を受けて悪い奴を捕まえたり、色々やる人間の事だ」
「!じゃあ、あいつらを捕まえてよ! 悪い奴らなんだ」
「言ったろ。頼むと金がいる」
少年に人差し指を立てて軽く振った。
「お金……」
眉をひそめて目線を落とす。
「……」
気にはなるが俺にはどうする事も出来ない。すまないな……と溜息を吐き出す。
「お金なら……払うから」
「何?」
少年は勢いよく立ち上がりキリリと目を吊り上げた。
「一生かかっても払うから!」
「おまえ……」
肩を震わせて涙を浮かべ少年はすがるように発する。
「……名前を聞いてなかったな」
「ケビン!」
立ち上がりカフェをあとにした。
「で、なんで父さんは捕まったんだ?」
「わかんない」
「わかんないって……」
その言葉に唖然とした。
いや、子供に解らないのは当然か? しかし、これではどう動いていいのか……思案した。
「あ……」
「お……?」
目の前にいる金髪の青年と目が合い互いに見合う。
「ベリル!」
「! なんだっ……?」
抱きついてきた男に意味が解らず当惑した。
「この人誰?」
少年はライカに引きずられるようにしてレストランに連れ込まれた向かいに腰掛けている青年を見つめる。
「ベリルって言ってな、強い傭兵なんだ」
「! 傭兵?」
聞いた少年は青年に目を移す。金髪のショートヘアに鮮やかな緑の瞳……歳は25歳ほどだろうか。
ソフトデニムの黒いジーンズに濃いブルーのTシャツの上には象牙色の長袖シャツを合わせている。
「で……?」
コーヒーカップを手にして男に問いかける。
「手を貸してくれ」
「……」
「……」
互いに見合う。
「──っ」
「待て」
何か言おうとした彼を制止した。
「金は払うから頼む」
少年の隣で懇願するように目を向ける男に溜息を吐きつつ頭を抱える。
「ケビン」
「何?」
「父親について連れ去られる前に何か気付いた事は無いかね?」
「うーん……わかんない」
2人はガックリと肩を落とした。
「……」
強い傭兵……? おじさんよりも全然若そうだけど……ライカと比べると強そうには見えない。
ライカの態度からしてベリルという人物にかなり信頼を寄せているようだ。少年はそれに怪訝な表情を浮かべる。
ライカは百九十センチに体格もかなり良い、それとは逆にベリルは174㎝と細身だ。
見た目だけならベリルは弱く見えるかもしれないが、いざ闘えばライカは決して彼には勝てないのである。
積んできた経験と生まれ持った戦闘センスは見た目だけでは計る事は困難だ。
「! そのペンダントは」
「あ……これ、父さんがくれたの」
少年が首に下げているペンダントに目がとまる。
「もらったとき何か言っていたか」
「大切なものだから大事にしろって」
「ベリル……?」
変な処が気になるんだな。と首をかしげる。
「君の父は何の仕事をしている」
「運送屋だけど」
「ふむ……」
それに少し考え込む。
「捕まる前に何を運んだか解るか」
「ジョージに聞けば解るかも」
「ジョージ?」とライカ。
「父さんの会社の人」
「では行ってみよう」
残ったコーヒーを飲み干し立ち上がった。