第1章 白い雪の儚い願い 五
「はぁ……まったく、あれじゃ私が悪いみたいじゃない……」
散々な目にあった理香は、ぶすっとした顔で庭に面した廊下を歩いていた。その足取りはスタスタと言うよりも、ズンズンと言ったほうがいいほど強ものだった。
あれから三十分ほど経っていた。理香はずっと文句を言い続けていた。
「絶対私は悪くないんだから……ん?」
ふと庭を見た理香は、忌まわしい天敵を見つけた。
忌まわしき天敵、それはもちろん―――美羽である。
訝しげに眉を寄せながら、窓からこの雪降る寒空の下、庭園を眺めている白髪の少女を睨んだ。
「なにやってんの……あいつ?」
窓に張り付き、ぴくりともしない美羽を目を細めて観察した。はっきり言って、今の理香は傍から見れば妖しいことこの上無かった。
「お姉ちゃん、何してるの?」
と、遠慮がちに声がかけられた。
「っ!? ……なんだ、理紗か」
「なんだ、はないでしょ。なんだは」
呆れながら声の主―――理紗が半眼で睨んだ。理紗は箒を両手で持っている。おそらく掃除に行く途中なのだろう。
「まさか、あの白狐の部屋の掃除?」
「そうだよ、これから住むんだし部屋は綺麗にしとかないと、と思って。お姉ちゃんは何してたの?」
「ベ、別に何でもないわよっ!!」
理香はそう叫び――態度は脂汗をかきながら――廊下を、ズンズン足音を立てて歩いていった。
「まったく、素直じゃないんだから」
理沙はまたも呆れながら、去っていった理香を見遣る。そして、理香がいた窓に近づき、外にいる美羽を見詰めた。
「あれは素直とかの問題かなぁ」
キィという木の軋む音と共に声がした。
「遥君……いたんですか」
「まあ、自分の部屋だからいてもおかしくないと思うけどね」
そういって声の主―――遥は今し方出てきた扉を示した。遥はどこか気怠げに肩を落としたまま、理紗の隣に並び、窓の外を見た。
「遥さんはわかってですねぇ」
「ん? どうして?」
「もう駄目ですね、お姉ちゃんは本当は優しいんですよ? ただ、それを面に出すのが苦手なだけ」
姉である理香を本当にわかっているであろう理紗が言うのだ、間違いはないはずである。
「そうかなぁ」
遥は信じていないようであった。
ぶうっと頬を膨らませ拗ねる理紗。きっと遥を睨み、窓の外を指差した。
「あ~信じてない!! ほら見てください!」
理紗が指差した先―――そこには美羽に近づいている理香の姿があった。