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第1章 白い雪の儚い願い 一

一面白に埋め尽くされた街。

今年は例年にない雪によって、街は銀世界となっていた。

生い茂っていた木々には雪が降り積もり、家屋という家屋が雪に埋まっていた。

公園では子供たちが元気に駆け回り、道にはコートを着込んだサラリーマンが通勤している。どこにでもありそうなただの街。

そんな街の一角に空き地があった。

電気が収縮したような音と共に、空き地の宙空に光の塊が現れた。

光の塊が一際大きく煌めく。すると、とん、と小さな白い足が雪の上に舞い降りた。

「……ふう、ここが今回目標(ターゲット)がいる街ですね」

そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。

光の塊から現れたのは少女だった。少女は全身が白で覆い尽くされ、髪さえも白い。

白いコートの中で身を震わせ、少女は寒そうに身を縮ませていた。

「ブルッ。んと……目標はどこです―――きゃっ」

一歩足を出した瞬間、少女は雪に足を取られ、尻餅をついた。とんだ運動神経の無さである。氷の上ならいざ知れず、雪の上でこけるのは有り得なかった。

「あう~、痛い……」

涙目になりながら、足元の雪を睨み付ける。しかし、いくら雪を睨もうとも雪に非はない。雪もいい迷惑である。

「あの、大丈夫……?」

「あ……だ、大丈夫です―――って、え!?」

突然後方から声がかかった。だが、今の少女は人には見えないはずだった。

でも、声をかけてきた少年には見えている。訳がわからなかった。

少年は少女より頭一つ分ほど高く、顔は整っていた。どこか恐い雰囲気がある顔立ちだが、口調などは柔らかく、明確な恐さは感じられない。

少女も初めは怖じけずいてしまったが、少年の優しそうな口調に強張らせた肩を和らげた。

「あ、あの、私が見えるんですか……?」

「? 全く問題無く見えてるけど?」

「え、えぇぇぇ!? なんで見えるんですか!?」

少女は驚き、あわてふためき始めた。少年も突然慌て始めた少女に驚き、後退さる。

「も、もしかして君、幽霊……?」

「あう。に、似たようなものです……」

今まで慌てていたのが嘘のように少女は静かになった。いや、それ以上にうなだれ、沈んでしまっていた。

少年は少女を立ち上がらせ、雪を払った。

「まぁ、気にしないで。僕が霊感あるだけだから」

「そ、そうなんですか」

「あ、ああ、だから気にしないでね? それじゃあ、もう転ばないようにね」

「あ、ありがとうございます」

ぺこり、と少女がお辞儀を終える頃には、少年は背を向けて去っていた。

「うーん、優しい人です」

少女は腕組みをしてしきりに頷く。

突然少女の胸から電子音が鳴り響いた。少女は慌ててコートの中から電子音の正体を取り出す。

それは丸い、小さなノートパソコンのようなものだった。事実、少女が折りたたみになっているそを開くと、画面と小さなキーボードが内蔵されていた。

まさしく小さなノートパソコンである。少女がほかのキーより一回り大きいキーを叩く。すると、画面に女性が現れた。

『ミルトランジェ、無事に人間界に着きましたか?』

女性は二十を過ぎ、もう三十になるならないかの微妙な所であった。少女―――ミルトランジェと似たようなコート着込んでいるがその色は黒く――いや、漆黒の闇に近い色だろう――落ち着いた雰囲気があった。

「は、はい、ただ……」

『何か問題でも起きましたか?』

「そ、その……ひ、人に見つかりました」

『そんな馬鹿な……あなたはまだ人には見えないはずです。あなたは今、幽霊と同じなのですよ?』

女性は首を振り、ミルトランジェの言葉を否定した。

そう、ミルトランジェは異界から来た者だった。それは別名、天国とも言われる天界であった。

「あの、霊感が強いらしいです」

『それでも、我々が見えるとは……その者には注意が必要ですね』

「は、はい……」

ミルトランジェはどこかしょんぼりとした様子で、眼を伏せた。ついでに少しうなだれている。

『あまり気になさらないで、それではあなたの初めての任務です。画像と資料は転送しておきますので』

「はい、それでは」

『あ、そうそう。そっちでのあなたの名前は……ん? えっとまぁ添付しておくから、頑張ってねミルトランジェ』

女性が一瞬固まる。どうやら名前が読めなかったようだ。苦笑いを浮かべながら女性は手を振った。

「は、はい!」

それきり、女性は画面から消えた。同時に電子音が鳴り、転送されてきたデータが現れた。

「えっと、今回の任務……」

任務内容はこうだ。

ミルトランジェはこの世界では「水無美羽」と名乗ること。

目標「紫藤遥」の死期を見極め、魂がさ迷うのを阻止すること。場合によっては――というより極力魂を壊すこと。

尚、ミルトランジェこと水無美羽は目標と同じ高校に通わせる。画像は添付しておく。

「以上が任務の全容である? えっと画像は……」

かたかたと拙い手つきでキーを打ち、ミルトランジェこと水無美羽は画面に紫藤遥の画像を映した。

「……っ!? こ、この人」

美羽が驚愕した。

その画像は少年だった。名前から女の子だと思われたが、男だった。

顔は整っていて、切れ目でどこか恐さのある顔立ち。だが、それでも明確な恐さは感じられない。

そんな少年の画像だった。初めての任務での目標―――それは、ついさっき会った少年だった。

「そ、そんな、あの人が目標?」

それはつまり、彼が近々死ぬということだった。

(そ、そんな……)

人間界で始めて会った人間。始めて話した人間が死ぬとは、運命とは残酷なものだった。

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