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第3話:生徒会長の裁定と、止まらない「狩り」

学園の剣道場。


そこは今、およそ部活動とは思えないほどの、身の毛もよだつような殺気に包まれていた。



「……足りぬ。これでは、私の『友』を呼び戻すには到底足りぬな」



道場の中央で、学園指定の竹刀を三本も束ねて一振りの「大剣」のように構えているのは、1年生のゼノスだ。


彼の足元には、練習相手を務めていた剣道部員たちが、魂の抜けた顔で折り重なっている。



「ひ、ひぃ……。あいつ、1年生のくせに、竹刀で防具ごと叩き割りやがった……」



逃げ惑う上級生たちの悲鳴。

そこに、凛とした、しかしどこか焦燥を孕んだ声が響き渡った。



「そこまでだ、ゼノス! 学園内での過度な武力行使は校則違反だと言っているだろう!」



現れたのは、4年生の生徒会長エリディブスだ。

彼は白い生徒会指定の法衣を翻し、手に持った「生徒会日誌」をビシッとゼノスに突きつけた。



「ほう……。生徒会長か。お前なら、少しは私の飢えを満たしてくれるのか?」



ゼノスの獲物が、エリディブスの細い首筋を狙ってゆっくりと持ち上がる。



「私は戦いに来たんじゃない。君の野放図な振る舞いを是正しに来たんだ。……だいたい、その竹刀! 備品を勝手に束ねて接着するのは、デュダルフォン先輩に許可を取ったのか!?」


「知らぬな。……消えろ」



ゼノスが踏み込む。

凄まじい風圧とともに、竹刀の束がエリディブスの前髪をかすめた。



「……っ! 話を聞け!」



エリディブスは素早く印を結び、道場の床に「調停の結界」を展開した。

物理的な衝撃を無効化し、強制的に対話の場を作る――生徒会長にのみ許された権能だ。

だが、そこへ横槍が入る。



「あはは。エリディブス、そんな堅苦しい術じゃ、彼は止まらないよ」



道場のはりの上に、いつの間にかヒュトロダエウスが腰掛けていた。

彼は楽しそうに、眼下で繰り広げられる「規律 vs 闘争」の図を眺めている。



「ヒュトロダエウス! 見ているなら加勢してくれ! アゼムはどこだ!?」


「アゼムなら、さっきゼノスの殺気に当てられて『面白そうな奴がいる!』って、裏山に新しい武器(丸太)を探しに行ったよ」



「あの人は本当に……いつも肝心な時に……ッ!!」



エリディブスが絶望に顔を歪めた瞬間、道場の入り口から、バシィィィッ! と乾いた音が響いた。



「……騒がしいわね。放課後の道場は、静粛に使いなさいと言ったはずよ」



現れたのは、スパルタ副担任のイゲオルム先生だった。

彼女の手には、先ほど購買部で没収されたはずの、エスティニアンの「長いホウキ」が握られている。



「イゲオルム先生……! 助かりました、ゼノスを……」


「エリディブス。貴方も、生徒会長でありながら、1年生の暴走を即座に鎮圧できないとは。……情けないわね」


「……面目ない。以後、気をつけます」



イゲオルムがホウキを一閃させた。

その一振りに込められた冷徹な魔圧に、さしものゼノスも動きを止め、不敵な笑みを浮かべて竹刀を下ろした。



「……チッ。興が削がれた。……生徒会長、貴様の『正義』とやらは、いささか退屈だな」



ゼノスはそう言い捨てると、束ねた竹刀を放り出し、悠然と道場を去っていった。

後に残されたのは、ボロボロの部員たちと、肩で息をするエリディブス。

そして、にこやかに手を振るヒュトロダエウス。



「エリディブス、お疲れ様。……あ、言い忘れてたけど、アゼムが裏山で丸太を引き抜いた拍子に、学園の防壁結界が一部壊れたみたい。……修復、急いだほうがいいよ?」


「…………ッ!!」



夕暮れの道場に、生徒会長の悲痛な叫びが響き渡る。


アーテリス学園の「法」を司る彼の苦難は、まだ始まったばかりだった。

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