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第2話:放課後の旧校舎と、完璧なサプライズ

学園の旧校舎、三階の空き教室。

そこは、周囲の喧騒を嫌うミトロンが、勝手に自分とアログリフの「専用実習室」として占拠している場所だった。



「……いいわ、この術式回路。アログリフの『闇の階梯』を阻害せず、むしろそのエーテルの色彩を際立たせる……」



ミトロンは鋭い眼差しで、机の上に広げられた複雑な魔紋を見つめていた。

その隣で、エメトセルクが心底面倒そうな顔で、ペンを置く。



「……言っておくが、ミトロン。これに協力したのは、貴様に貸しを作るためだ。他意はない」


「分かっているわ。貴方の理論的な緻密さだけは認めてあげる。……でも、もしこれでアログリフが喜ばなかったら、貴方の『深淵の魔力』ごと、この教室の塵にしてあげるから」


「……。恩を仇で返すとは、このことか」



エメトセルクは短く溜息をつくと、預かっていた「極秘の小箱」を机に置いた。

中には、二人の協力(とエメトセルクの徹夜の理論構築)によって完成した、小さな魔導アクセサリーが収められている。


「……来たわ。彼女の気配よ」



ミトロンの表情が、一瞬で「冷徹な優等生」から「心酔する少女」へと切り替わった。

正確には、眼光がさらに鋭く、かつ熱を帯びた。

バタン、と勢いよく扉が開く。



入ってきたのは、どこか気だるげな雰囲気を纏った少女、アログリフだった。



「……ミトロン? こんなところで何をして……あら、エメトセルクも一緒なの?」


「アログリフ! ちょうど良いところに。貴方に……いえ、貴方の今日の星回りに相応しい『供物』を用意したわ」



ミトロンは恭しく小箱を差し出した。

エメトセルクは、自分がその「供物」の設計図を引かされた事実を隠すように、そっと壁際に身を引く。



「……何これ? あら、綺麗。私のエーテルに馴染むように調整されてる……」



アログリフがアクセサリーを手に取ると、瞬時に彼女の周囲に柔らかな闇の粒子が舞った。

それは彼女の持つ「闇の階梯」の力を増幅させつつ、宝石のように美しく発光させる、極めて高度な魔具だった。



「……気に入ったわ。ミトロン、貴方が作ったの?」


「ええ……! 貴方の輝きを阻害する不純物をすべて取り除き、その深淵を肯定するために、私が……(エメトセルクの協力については一言も触れず)……魂を込めて編み上げたのよ」


「ふふ、ありがとう。大切にするわね」



アログリフが満足げに微笑む。

その瞬間、ミトロンの背後から、目に見えるほどの「歓喜のエーテル」が溢れ出した。


「(……。あの女、私の存在を完全に消去したな)」


壁際で透明人間のような扱いを受けるエメトセルク。

だが、そんな静寂をぶち壊す声が、廊下から響いてきた。



「おーい! ミトロン、ここにいるんだろ! エメトセルクも一緒か!?」



アゼムだ。

続いて、ヒュトロダエウスののんきな声も聞こえる。



「あはは、ミトロン。扉から漏れてるエーテルの色が、さっきから『桃色』だよ? 何か良いことでもあったのかい?」


「…………ッ!!」



ミトロンの顔が、怒りと羞恥で一瞬にして沸騰した。



「アゼム、ヒュトロダエウス……! 貴様、どのツラ下げて……! 私とアログリフの神聖な時間を邪魔するなら、その魂ごと異界の泥に沈めてやるわ!!」



ミトロンが教室を飛び出し、廊下で主にアゼムとの魔法合戦が始まる音がした。



「……やれやれ。騒がしいわね」



アログリフは、新しく手に入れたアクセサリーを愛おしそうに眺めながら、窓の外を見つめる。

エメトセルクは、廊下から聞こえるアゼムの悲鳴を聞き流しながら、再び深い溜息をついた。



「……全く。あの執念、少しは学問に向けたらどうだ、ミトロン」



アーテリス学園の放課後。


そこには、友情や尊敬とは少し違う、狂気にも似た「愛」の形が、今日も火花を散らしている。

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