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何をおっしゃっているかよく分かりません

掲載日:2026/02/09

「そ、そんなひどい!なんでそんな事言うんですか⁈」


可憐な表情は崩すことなく、はらはらと綺麗に涙を流しながら。でもこちらを問い詰める言葉だけは鋭く、しかも大きな声で周囲に響き渡るように。


…これで"守ってあげなきゃいけない儚さ"なんて言っちゃうんだもんなぁ。これだけ堂々とデカい声で人の事責められるんだよ?守ってもらう必要ある?ホントに男の人って見る目がないわー。ほら周り見てみなよ。


ひそひそ、ひそひそ。

巻き込まれたくないが故に小さな声だけど。


"え、そりゃ多少の仕返しは覚悟しとかないと。"

"男性絡みで揉めるの何回目だと思ってるの?"

"婚約クラッシャーって呼ばれてるのにね。"

"それに気がつかない男の人なんて、ねぇ。"

"こちらからご遠慮させていただくわよね"


彼女にも聞こえているはずだけど、眉ひとつ動かさず被害者ムーブを貫いている。適材適所っていう言葉はあるけど、あの面の皮の厚さはどこかで活かせるんじゃないかな。知らんけど。






「イポクリジーア!大丈夫かっ!」


「ああ、イディオさまぁっ。ま、またエフティーアさまが私に嫌がらせを!」


キッと私を睨みつけたイディオがわたくしに噛み付かんばかりの勢いで文句を言う。


「エフティーア!お前は何故そんなにイポクリジーアを目の敵にするんだ!もう私たちは婚約も解消しているんだぞ。いつまでも未練たらたらと!」


イディオにしがみついて泣いていた筈のイポクリジーアの口角が上がっているのが見える。そういう仕草を本人にだけ分かるように見せつけて余計に苛立たせるって噂、本当だったんだぁ。


「うわぁ。えっぐいわぁ。」


「エフティーア!」


「あ、イディオ・アロガンシア子爵。わたくしを呼び捨てにするのはおやめ頂けますか。貴方のおっしゃる通り、わたくしたちの婚約は既に解消されていますので。ああ、正確にいうと()()()()()()()()()()()()ですね。」


「この期に及んでまだそんな偉そうな口を!エフティーア、お前の本性はみんな分かっているんだ!」


「…エフティーア・"シュウェット侯爵令嬢"です、イディオ・アロガンシア子爵。何度も言わせないでください。正式に抗議いたしますよ、侯爵家から。」


にっこりと笑って言ってやったけど、爵位だってこっちの方が随分上なのにいつまであの態度を取るつもりなんだろう。

流石にまずい事に気が付いたのか、彼の態度が少しだけ丁寧になった。


「エフティーア!…侯爵令嬢!何故そんなにイポクリジーアを目の敵にするんだ…するんですか。」


「そ、そうです!もうお二人は婚約解消されたとお聞きしました!なのにまだ私に…」


涙をぽろりと溢しながら


「"イポクリジーア嬢とは仲良くする気はないの、こちらに近寄らないでいただける?"って酷くないですか!」


ざわざわ。周囲が騒めくのを見て味方を得たと勘違いしたイディオがまた調子に乗り始めた。

…いや、多分そのざわざわはそりゃそうだろう、のざわざわだよ。


「近寄るなだと!学園でも1、2を争う名家の君がそんな事を言ったら周囲が彼女にどう接するかぐらい分かるだろう!何故そんな嫌がらせを!」



ざわざわがさらに大きくなる。イポクリジーアは勝利を確信したらしい。また口角上がってるよ!っていうかそれ。こちらから見ているご令嬢方には丸見えだよ。あ、ご令息たちにバレなきゃいいのか。


「…アホくさ。」


私の一言に2人とも目が吊り上がる。そしてまた何か文句を言おうとするのを手で制し


「あの、イポクリジーア嬢。貴方が何を仰っているのかよく分からないんですが。」


彼女の目が光った。ここが攻め所と思ったんだね。



「ひ、酷い。あんなに酷い事を大勢の前で仰ったのに!なかった事にするおつもりですか!」


さめざめと泣き出したけどさ。


「都合よく出てくる涙ですこと。わたくしは発言を否定したわけではございませんわ。」


「じゃあ本当にそんな酷いことを…」


イディオの顔が憎々しげに歪む。


「あの、何を勘違いされているのか分かりませんが。せめてわたくしの話を遮らないで最後まで喋らせていただけます?そもそも婚約関係が無くなった今、子爵である貴方が、侯爵令嬢であるわたくしの話を途中で遮ることの無作法さは理解なさってる?」


「大変失礼いたしました。もう遮りませんのでお話の続きをお聞かせいただけますでしょうか。」


青い顔をしてやっとのことで頭を下げた。

…ここまで言わないといけないなんて。子爵家はもうダメかもしんないなぁ。



「貴方がたが酷い、酷いと言っているわたくしの言葉ですが。」


「どの辺りが酷いのかわたくし、全く分かりませんの。だって。」


「子爵家に援助をするために組まれた縁談。我が家にメリットはなし。わたくしに至っては普通ではあり得ない下位貴族との縁談。"何か令嬢に瑕疵があるんじゃないか"なんて噂が立ってたんですよ!それを!」


「ええと、子爵、貴方から言われたのは確か。」


"お前が私に執着して無理矢理我が家に縁談を持ち込んだせいで!真実の愛を見つけたのに成就できない!"


「でしたっけ?」


どんどん顔色の悪くなるイディオ。



「イポクリジーア嬢には事あるごとにこう言われましたわ。」


"愛されていないのに婚約で相手を縛り付けないといけないなんてミジメですね。これ以上嫌われたくないなら大人しく婚約解消しなさいよ。"


「と。まあどれだけ不愉快だったか。だってわたくし、こんな自分に利の全くない縁談!どうにかして穏便に解消できないか画策していましたのに。」


イディオ、もう倒れそうね。それに対してイポクリジーアはまだ睨みつけてるなんて。"儚い"の看板はもう捨てちゃうのかしら。なら遠慮なく!


「あ、あとこんなのもありました。」


"これ以上粘るなら、階段で突き飛ばされた、とでも言おうかしら。ご令息たちはいけすかない貴方が否定するのと私がさめざめ泣きながら訴えるのとどちらを信じるかしらね"


「ですって。怖いわよねぇ。冤罪なすりつけてやるって面と向かって宣言されるんですもの。流石のわたくしも震えましたわ。」


こてんぱんにやっつけてやる!ていう武者震いだけどね。

ふう。ため息をつき、出来るだけ感情を乗せずに。


「そんな人たちと仲良くしたい人、いるのかしら。この際だから言わせてもらうけど。解消されたことの逆恨みだろう?いまだに未練があるんだろう?」


「ほんっと何言ってんのかさっぱり分かんないんだけど。」


「自分たちは大嫌いって思ってて、悪口言うことも評判を下げるために嘘つくことも、それで相手が傷つくかもしれないことも。」


「全部分かってて、相手がどうなろうと構わないって思ってたんでしょう?そんな貴方たちがどうでもいいって思っている相手が!」


興が乗ってきたわ。人差し指でビシッと決めてみる。


「なんで自分たちには丁寧にフェアに接してくれると思うの?貴方たちはわたくしの名誉なんか考えたこともないでしょうに、何故わたくしが貴方たちが周囲からどんな扱いを受けるかまで考えると思ったの?」


ホントに不思議なんだよなぁ。こういう人たちの思考回路って。自業自得って言葉を知らないのか見ないことにしたのか。


「貴方たちはわたくしのこと、踏み躙っていいし大切にする価値もないって思ったんでしょう?ならば貴方たちもわたくしに同じことをされる覚悟をしなさいな。」



あースッキリしたあ!



「貴方たちの被害者面、ここにいる誰にも響いてないわよ。ほら周りをご覧なさい。貴方たちに好意的な視線ってある?」


イディオは流石に理解したようだ。もう何も言い返さないし立っているのがやっとといったところか。

でもイポクリジーアはまだ睨みつけているわね。じゃあもうちょっと言っとくか。


「貴方たちはこう見られているの。」


"決められた婚約が気に入らなくて、言い寄られた女によろめいた浮気者"

"婚約者がいる異性に近付いて、略奪するために有る事無い事言いふらした性悪女"


「そんな奴、誰が仲良くしたいっての!…あ、そうそうわたくし。」


「貴方たち曰く"学園でも1、2を争う名家の者"なんですってね。…それなのに貴方たちが好き放題わたくしの評判を下げる行動ができている時点でね」


"ずいぶんと寛大な対応をしてる"


「ってそろそろ気付いていただきたいですわね。じゃないとわたくし、酷い女ですから。いつ寛大な気持ちが消えちゃうか分からないわぁ。」


イディオはもう顔が真っ白だけど。イポクリジーアはまだ唇噛んで悔しがってるわ。これだけ現状認識できないってすごい!褒めちゃう!




※※※※※※



「なに?もう終わっちゃったの?エフティーア嬢ちょっと早すぎない?」

「殿下!生憎わたくしは見世物ではございませんのよ。」

「ふふふ。鬱陶しい蝿をやっと追い払えたって所かしら。」



「蝿…。ひ、酷い!害虫に喩えるなんて!いくら身分が高いからと言ってそんなのあんまりじゃないですか!」


うわすげえなこの女!


という声が殿下から漏れたけど気にしない!気にしない…。


「エルダー姉さま!話がややこしくなるから余計なこと言わないでください!」


「姉さま…?」


イディオがポカンとした顔で呟く。

え、嘘でしょ⁈婚約してたってのに知らなかったの?そこまでボンクラだったとは。婚約破棄出来たことだけは感謝だわね。


「貴方、婚約者の親族も把握していなかったの?それでよく子爵を名乗れたわね。感心しちゃう。」


「親族…。」


「そうよ。わたくしはエフティーアの姉よ。貴方が蔑ろにして悪者に仕立て上げて陥れようとした元婚約者はね。」


息ぴったりに殿下があとを繋ぐ。


「王族と姻族関係になるということなのさ。だからエフティーア嬢を娶りたいなんて家、掃いて捨てるほどあるんだよ。それなのにお父上の"ご恩がありますから"の一言で子爵なんて下位に嫁ぐ事になったというのに。」


「もうご恩なんて返して余りあるだろ?今度は僕も協力するからもうちょっと誠実で賢い婚約者を探そうね。」


「じゃあエフティーア、行きましょうか。こんな茶番劇にいつまでも付き合うんじゃありません。」


わたくしも言いたいことは言えましたしね、さっさと撤収しましょう。

小さく頷き姉の後に続く。


去り際、最後の最後に殿下から大きな爆弾が投下された。



「あ、そうだ。君…なんだっけ?まあ名前はいいや、略奪性悪女くん。これ以上わたしの義妹に難癖付けないようにね。」


「なっ、あんまりではありませんか!私は…好きになった人が婚約中だっただけなんです!なのに、エフティーア様が身分を振り翳して私のことを悪者にしようとそんな嘘をついているんです!私…私そんな酷いこと言っていません!」


殿下から表情が消えた。うわ、これは…2人とも色んな意味で生きていられるか怪しくなるパターン!


「あくまで白を切るんだ。はあ。」


すすすっと側近が近づき何かを差し出す。


「殿下、どうぞ。」


カチッ


殿下が手に取った四角い箱。スイッチを押すととんでもない事が起きた。


"愛されていないのに。婚約で相手を縛り付けないといけないなんてミジメですね。これ以上嫌われたくないなら大人しく婚約解消しなさいよ。"


彼女の声が響き渡った。続けて


"これ以上粘るなら、階段で突き飛ばされた、とでも言おうかしら。"


あの脅迫も残っていた。


「これは録音機って言ってね。音を保存しておく事ができるんだよ。んーこれでもまだ何か言う事ある?」


「な、なによこれ!」

流石のイポクリジーアも焦っているようだ。まさかこんな証拠があるなんて思ってもなかったんだろう。


「彼女にはね、一応目立たぬ護衛が付いているんだ。だって王族と縁が出来た上に、嫁ぎ先は何故か下位の子爵家。つまんないイタズラをしてくる奴は多いからね。そしたらついでに君の嫌がらせが判明したってわけ。」



「酷い!そんなのエフティーアの罠かもしれないじゃない!私だと言う証拠は?」


「イポクリジーア嬢、いい加減になさい。…エフティーアは貴方が呼び捨てにして言いような存在じゃないの。貴方、この短いやり取りでどれだけの罪を重ねているか分かっている?」


「貴方はエフティーアの姉なんでしょう?一緒になって私を罠に嵌めようとしているのね!そこまでして私を虐めて何が楽しいの!」


はあ。アホの相手はホントに疲れる。言い返そうとしたその瞬間、殿下に先を越された。


「もっとすごい証拠、あるよ。君の名誉のためにこの辺りで手打ちにしたかったんだけど。」


「殿下、どうぞ。」


先ほどより少し大きな箱が出てきた。それを白い壁に向けて…


さっきの声に、やたらと精巧な絵が付いた。いや、絵ではなく…


「これはね、動画記録と呼ばれるもので音声と同時に周囲の様子も見たまま記録できるんだ。だから早く認めてよ、もう君に大逆転は無理なんだから。今君に出来る最善はできるだけ早く謝罪する事だけなんだから。」


そうすればすぐに止めてあげる。


そう言った殿下の言葉も無視をしてどうにか言い逃れしようと足掻いているが、その間も彼女の言動が流れていく。

嫌がらせ、脅し。うわ、そんな多方面に?そりゃみんなに嫌われるわな。そんなすごい女に籠絡されたイディオって…。そう思いながら見ていると、最後に先ほどの音声の動画版が出てきた。顔をひん曲げてすごい顔だよ!もう儚いキャラは卒業だね!

…そしてそれが途切れ、白い画面が映し出されてからしばらくして。


「うふふ。こっちにいらして。ここなら誰にも見つからないわ。」


誰にも見つからないどころか衆人環視の中、過度な触れ合いの様子が克明に記録されていた。


「イ、イポクリジーア?あれは…」


イディオが目を見張る。それはそうだ。見つからないからと油断している若い男女だ。学園内とは思えないあられもない格好で絡み合うイポクリジーアと…


「アレは誰だ!あんな…あんなふしだらなこと、俺はしたことない!」


イディオじゃない男だった。


「イ、イディオ様!あれは捏造です!私を陥れようとエフティーアが!」


「心外だなぁ。あんなに細部までこだわって捏造なんて出来ないよ。…それからエフティーア様と呼べ。そろそろ罪状に不敬も追加するよ。」


殿下の否定に目を吊り上げて噛み付いたイポクリジーアが吠える。


「簡単に出来るわよ!捏造なんてお金さえ出せばいくらでもやってくれる奴はいるんだから!」


「君がエフティーア嬢にされた、という嫌がらせの数々。そんなに簡単に捏造できたんだ。」


ハッとしたイポクリジーアだったが、出てしまった言葉はもう戻らない。

自ら今までの嫌がらせが自作自演だったことをバラしてしまった。



※※※※※※


その後の展開は早かった。


イポクリジーアの善良な両親は話を聞いて目を回し、泣き崩れた。兄はあまりの出来事に何もできなくなったご両親の代わりにお詫び行脚を未だに続けているらしい。

だって、婚約クラッシャーと呼ばれてたのよ?わたくし以外にもダメになった婚約がいくつもあったからね。


お兄さまは誠実にご対応されたし、このまま埋もれさせるには惜しいとの周囲の配慮もあり、何もできなくなってしまった両親の跡を継ぎ男爵となった。

そして私たちの元へも謝罪に来られた。


「この度は我が愚妹が大変なことをしでかしてしまいました。なんとお詫びして良いのか分からず、ご要望をお伺いに参りました。」


そう、我が家は侯爵家。男爵ごとき彼女の実家では満足な金銭での償いは期待できない。だからこそ首を差し出すつもりで彼は来たのだ。


「イポクリジーアさんはどうなさっているのかしら。」


彼は諦念の表情でこう言った。


「アイツはもうダメです。両親や私、親戚などあらゆる人が人の道を説いたのですが…全くもって響きませんでした。もう私たちでは手に負えないので、遠方にやって働かせる事にしました。」


遠方で働かせる?


「それは…?修道女か何かに?」


「いえ。妙齢のお嬢さんの前で口に出すには恥ずかしい職業でして。あまり触れないで頂けるとありがたいです。」


なるほどね。


「貴方には辛辣な言葉に聞こえるかもしれないけど。彼女にとっては適材適所かもしれないわね。」




イディオの未来もまた暗い。


「エフティーア様、本当に申し訳ございませんでした。私はすっかりあの悪女に騙されておりました。こんな事が無ければ貴方様を蔑ろにすることはありませんでした。どうか水に流して再び婚約をしていただけないでしょうか。」


「無理ですね。」


にべもない。そりゃあ惑わされたのかもしれない、けどね。


「彼女の事は後付けでしょう。貴方は婚約の決まった直後からずっと不満を口にしていたじゃない。"金で売られた"とか"侯爵令嬢が自分のわがままを通すためにゴリ押しして断れない"とか。」


俯くだけのイディオ。


「そうだよイディオ君。その話は私の耳にも入ってきていたよ。しかも色んなルートからね。」


学友から、街のカフェから、宝飾店から。


「そんなに嫌なら面と向かって断ればいいのに。今回は君のご両親の恩へ報いるためのものだったんだから、君が最初から真摯にお断りしてくれていればこんな大騒動起こらなかったんだよ。」


「貴方のおかげで、わたくし"金で婚約者を買った傲慢令嬢"なんて呼ばれていたんですよ。まあ高位の方々は裏の事情を薄々察してくださっていましたけどね。貴方が夜会などで声高に自身の不幸を嘆いていらしても乗ってこなったでしょう?」


確かに。俺がどれだけ自分の身の不幸を嘆いても憤慨してくれたのは下位貴族だけだった。上位の貴族たちはむしろ…


「お父さまに相談したら案外解決するかもよ、とか侯爵様にその想いを伝えてみなよ。と、諭されました。」


「でしょう。父は恩に報いるつもりだったんだもの。私が嫁入りすれば、持参金に援助金…」


「人的補償もしやすくなるからね。そんなに婚約が嫌なら言ってくれれば、ブレーンとして何人か優秀な者を付けるだけにしたのに。」


「とにかく、 前子爵の君のお父上には今回の件を報告したよ。とても恐縮されたけど、今後も恩に見合うお返しをしたいと申し出た結果決まったよ。」


「な、何がでしょうか。」


少しだけ期待した眼差しを向けたが。


「婚約はまた金のために妥協して再度受け入れた、などと言い出しかねないだろうから無しで、との申し入れがあった。そのかわり3年間だけ、今子爵領の運営を担っている人材、君に子爵としての指導を行なっている人材。彼らの給与を侯爵家で持つ事になった。」


そうだ、彼はまだ学生だったから子爵といえども実力が追いつかない。だからこその私との縁組だったのに。今、子爵領が順調に経営されているのは、優秀な人材を我が家が提供しているからだ。それはよく分かっていたはずなのに。


「さ、3年…。彼らは3年でいなくなると?」


「引き上げるとは決まっていない。この3年の間に彼らに仕えたい領主であると認められ、それに見合う報酬を出せるようになればいいだけのことだよ。」



希望を持たせているけど多分無理だな。…3年で人望を取り戻し、あのプロフェッショナル軍団の給料を払えるようになるのは難しいだろう。

まあ、それでも、彼が心を入れ替えて頑張れば。プロフェッショナルは雇えなくてもカツカツだったとしても、子爵としてどうにか暮らしていくくらいの事はできるんじゃないかな。




※※※※※※



「とりあえず、これで平穏な日々に戻れたかな。」


「あ!殿下。その節は大変お世話になりました。特にあの動画記録はすごかったですね。」


「本当に!イポクリジーアさまさまだよ!あの克明な記録のおかげで性能の良さがバッチリ伝わったからね。」


ウハウハだよぉーと王子としては些か品のない笑いを見せた。


「殿下、お口が少々悪うございますよ。またお父さまに怒られてしまいます。」


「うっ、エルダー。お義父上には今の話はナイショで…」


「分かっていますよ。次期シュウェット侯爵。わたくしたちはキチンと侯爵家を盛り立ててくれれば何も問題ありませんもの。」


「ええ。わたくしたち、お買い物大好きですの。だからたくさん稼いでくださいね。未来のお義兄さま。」



わたくしたちの圧の強い笑いに、ヒェッと小さく悲鳴を漏らした殿下…未来のお義兄さまだった。






エフティーアの父が何に対してそんなに恩義を感じていたかを最初入れてたんですけど、短編にするには話が長すぎ!だったので色んなものを省いてみました。

時間があればそっちの方の話も書いてみようかな。



2月12日追記


恩義を感じて大事な娘を嫁にやる決心までしたのはこんな話でした、という事で対になるお話を書きました。


"物事には何でも限度というものがあって"


というタイトルで投稿しています。宜しければそちらもご覧下さい!

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