プロローグ:決意
城壁が崩れる音を、俺はもう数えきれないほど聞いてきた。
石が砕け、鉄が軋み、人の悲鳴が混じる。その順番すら、今回は予定通りだ。
南門が落ちるまで、あと三分。いや――二分三十秒。
「総司令!」
副官の青年が駆け寄ってくる。顔は血と煤で汚れ、声は震えていた。
前回のループでは、この男はこの時点でもう死んでいたはずだ。今回は少し長生きしたらしい。
「第七師団が壊滅しました! 東の防衛線も――」
「分かっている」
俺は地図から目を離さず答えた。
敵の進軍速度、魔力反応、天候、兵の士気。すべて計算済みだ。
それでも、この国は今日滅ぶ。
俺はこの世界で、人類で一番頭がいい戦術家だ。
少なくとも、この三十七回の人生でそう証明してきた。
勝てる戦は、すべて勝った。
勝てない戦は、負け方を最適化してきた。
それでも――世界は必ず滅ぶ。
「民の避難は?」
「第三区画までは完了していますが、これ以上は……!」
「十分だ。ここで時間を稼げ」
俺がそう言うと、副官は一瞬だけ目を見開き、それから深く頭を下げた。
理解が早い。だからこそ、ここで死ぬ。
この城は囮だ。
人を、国を、切り捨てる判断に、俺はもう躊躇しない。
玉座の間の奥、転移陣が淡く光る。
起動条件は満たしてある。ここから脱出するのは簡単だ。
だが――今回は、使わない。
俺は剣を取らない。
魔法も唱えない。
ただ、玉座に腰を下ろし、迫り来る破滅を待つ。
巨大な影が天井を突き破り、光が反転する。
魔王でも、神でもない。
もっと厄介で、もっと理不尽な“何か”。
「……やっぱり、ここまでは同じか」
独り言は、轟音にかき消された。
視界が白に塗り潰され、世界が崩壊する感覚が全身を包む。
痛みはない。恐怖もない。
ただ一つ、分かっていることがある。
次に目を覚ました時、俺はまた――すべてを覚えたまま、始まりに戻る。
目を開けると、見慣れた天井があった。
簡素な宿屋の一室。
窓の外から聞こえる喧騒。
パンとスープの匂い。
世界滅亡まで、残り六年と二百三十一日。
俺はベッドから起き上がり、静かに息を吐いた。
「……今回は」
これまでの三十六回と同じことを繰り返しても、結末は変わらない。
戦術も、同盟も、すべて試した。
なら、答えは一つしかない。
「俺が勝つ国じゃない。
俺がいなくても存続する国を作る」
鏡に映る自分の顔は、まだ若い。
何も知らない、ただの一人の男だ。
だがこの頭の中には、
滅びた国の数だけ、失敗の記録がある。
「最初に集めるのは…やはり武勇に優れた者だな」
俺は外套を手に取り、部屋を出た。
今回の人生は、長くなる。
世界が滅びる、その日まで――
一話目は2025年12月27日21時に出します。
早速一人目の味方を手に入れるのか!?
でも、やっぱりノアは冷徹な思考だなぁ…
次回作をお楽しみに!!




