君のいない世界で
———気温も下がり秋の始まりを感じる10月某日、私は親友を失った。
あれからどのくらい経ったのだろうか。
時の流れすらも分からない。
私は近所のマンションの屋上まで登る。
扉を開ける。太陽はまだ沈みきっていない。
そのままフェンスに足を掛け人生最後になるであろう思考を巡らせる。
事故だった
彼女はハンドル操作を誤ったトラックから私を庇って轢かれそのまま死んだ。
彼女の最後の表情は笑顔だった。
あの全てやりきったという満足そうな笑顔と
「あなたが無事ならよかった…」
という言葉を思い出すたび胸が締め付けられる。
寝ても覚めても轢かれる瞬間が…最後の笑顔が…最後の言葉が…私の脳内でフラッシュバックして消えない。
私が知る内で一番優しくて、私の唯一の居場所になってくれて、感情に流されやすくて、自分よりも他人を大切にする人だった。
一番生きるべき人だった。
今まで人にしてきた分、生きて幸せになるべき人だった。
それなのに最後まで自分のことを蔑ろにして…私なんかを庇って…ほんと…馬鹿な人だ…
もし時を戻せるのなら、過去に戻ってやり直せるなら、彼女の横で笑っていたい…また他愛のない話をしたい…
その願っても願っても叶うことのない願いは暗く深い世界で消える。
「あなたには生きていて欲しかったよ…」
どれだけ涙を流そうがどれだけ言葉を吐き出そうが胸の奥から悲しみが湧いて溢れて止まらない。
「やっぱり私あなたがいないとダメみたい…」
そう…最後の言葉を吐き出して身体を傾けようとしたその瞬間…
「「「あなたは…生きて…!」」」
そんな聞こえるはずのない声とともに風が私の身体を強く押し戻す。
あぁ…なんだよ…もう…
今のはきっと私が生み出した幻想なのだろう…ただ…たとえそうだとしても…
あなたに生きろと言われたら生きるしかないじゃないか…
今にも沈みかけそうな太陽が私を優しく見守ってくれる。
ああ分かったよ。生きてやるよ。生きて生きて幸せになって…いつかそっちにいった暁には…
あなたが羨むような…あなたがもっと生きていたかったと思えるような話を…飽きるまで聞かせてやる。
季節外れの暖かい風が今度は優しく私を包み込んでくれる。
私を見つめる太陽が懐かしさを感じさせる。
その、もうすぐ沈む太陽に向き直る。
「だからその日まで…そっち待っててよ。」
『親友』
名前のない神社ep.7「生きる希望を失った人へ」より
参拝客が神社に訪れなかったIFルート
「君のいない世界で」
でした。




