表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

伯爵令嬢の一日

「さぁ、惟燈様。朝餉を食べに行く前に着替えましょう。」

「…!うん!」

扉の奥から肩まであるかないか位の薄い金髪の髪をたらし、青い瞳を

輝かせたメイドがやってきた。この子が星宮伯爵家のメイド長、白雪ノエル。

星宮家の親戚、母の姉の娘。私達の従姉妹のお姉さん。

「惟燈様、手を挙げてください」

「…はぁーい」

もう五歳だから一人で着替えたいけどノエルが許してくれずに

着替えさせてもらっている。

「…。」

私、実をいうと桔乃、苦手なんだよなぁ。

そんなことを考えたたら無意識に腹部の火傷を触っていた。

「…。惟燈様、痛みますか?」

「うんん。大丈夫。」

「はい、!出来上がりです。」

わぁ、相変わらずのプリンセスって感じ。

サイドを花の飾りで編みこんで大きなリボンでまとめたハーフアップ。

赤を基調とした生地に黒のベールをかけている膝丈のドレス。

小さなシルバーの王冠を左側に傾けてつける。

ボタンの一つ一つにまで星宮家の紋章が絵ががれている特注品なのだ。

「惟燈様、ダイニングルームに朝餉が用意されています。」

「はーい。」

朝ご飯っ!今日は何かなぁ。ふふっ、たのしみぃ。昨日はクロワッサン。

一昨日はフルーツ盛りか。

そんなことを考えてたらダイニングルームに着いた。

ノエルが大きな扉を開けてくれた。

『おはようございます、惟燈様。使用人一同、惟燈様と共に

 新しき日を迎えられることお喜び申し上げます。』

使用人達が両サイドに頭を深く下げ立ち、声をそろえて挨拶をした。

おぉ。あ、相変わらず怖い。これは使用人が毎日行う‘朝の御挨拶’。

「ありがと。もう下がっていいよ」

ノエルをはじめ使用人はみんな下がりダイニングルームには私一人になった。

机には私一人分の朝餉が用意されている。

「いただきまーす。」

今日はホアグラかぁ。おいしいけど、朝からはちとキツイ。

ナイフとフォークを上手くつかい一口サイズに切り分けて食べる。

黙々と食べ進めていると‘コンコン’と扉を叩く音がした。

時間的にノエルだろう。

「どうぞ、入って。」

「失礼いたします。本日の予定確認に参りました。よろしいでしょうか?」

「もちろん」

私が頷きアップルジュースを一口飲むとノエルは手帳を開いた。

「本日のご予定は朝餉終了後お針子のアリスと手芸のお稽古、ディント様と

 有酸素運動。昼餉後は庭師の虎さんと花壇手入れ、おやつを挟みリュシー

 とお勉強となります。問題はありませんか?」

あれ…毎週この曜日は花壇手入れではなくバイオリンのお稽古なのだが…。

「ノエル、バイオリンのお稽古はないの?」

「はい、講師のエリーゼが体調不良によりお休みされたので

 急遽変更を。」

「…そっかぁ。なら有酸素運動のとき、ディント様にお願いして

 町まで行ってお見舞いをしたわ。見舞いの品を用意しておいて。」

「かしこまりました。」

ぺこりとお辞儀をするとノエルは部屋を出て行った。

正直、この広いダイニングルームで一人で食べても美味しくない。

早く食べ、食器を使用人たちに任せ席を立つ。

ふと、右斜め前の席を見る。そこは喧嘩する前、桔乃が座っていた席。

目をサッとそらし散歩に出かけた。

記憶が正しければ、私の右隣に母、桔乃の右隣に父。

私と父が向き合い、母と姉が向き合い、他愛もない会話に

花を咲かせながら食事をとる。我が家の家訓の一つ。

「食卓はどんなことがあろうと家族全員で囲うこと。」

そんな行為は三年前からしていない。

三年前。それは両親が出て行ってからだ。なぜ出て行ったのかも

何処にいるのかも知らない。両親が出て行ってからは桔乃と

二人で食べていたが二年前のあの事件から、一人づづ時間をずらして

食べるようになった。

私が火傷を負ったときは父から電報一つ。

「たいしたことないだろう。冷やしておけ。」のみ。

いや、なんて冷たい親父。クソジジイ。

それから一年前。私が床に伏せ、死に際を彷徨ってるにもかかわらず

死の床にも来ず、さらには電報も何もなくなった。

それをしてくれていたのは乳母のノエル。額のタオルを

寝る間も惜しまず濡らし取り替えてくれ、毎日三時間置きに

体位を変えてくれた。そして代わる代わる見舞ってくれたのは

ノエルが声をかけてくれ集まった屋敷に勤める人と私の先生。

そして、桔乃。ノエル曰くその時の桔乃は手を震わせ毎日泣いていたそうだ。

…可愛いとこもあるんだよねー。

そして、前世の記憶が目覚める前の私は‘めんどくさい子’、だろう。

自分の気に食わないことがあれば直ぐに癇癪を起こし手を付けられなくなる。

当時は桔乃と変わらなかったのだろう。そして、今のように落ち着いたとき

「悪魔に憑りつかれた」だの「熱で頭がイカれた」だの色々言われた。

でも私はお構いなしにノエルと他の使用人たちに「ごめんなさい」をした。

ぎょっとしたノエルの傍らに、死に床に来ない両親に代わり世話を

してくれたこと。今までの悪行を自白し謝った。

(お父様の花瓶を割ったこととか…?)

そして心を入れ替え仁徳の道に進むから見捨てないでほしいことを伝えた。

まぁ、もう少しオブラートに包んだが。

その証拠として使用人の手伝いと稽古に励むようにした。

しかし、最初は毎日熱を測られ、お祓いをさせられた。

それでも続けること一、二か月。信じてもらうことができたのだ。

そんなことを考えてたら屋敷の最奥の薔薇園にたどり着いた。

庭師の虎さんが言うにはここはお母様専用で管理も虎さんしか

任されていない場所。だから誰も来ない。

パニエをスッとおろし、薔薇園の中央に行く。

スゥゥと胸一杯に息を吸い込む。そして、メロディーに合わせ

踊り歌う。惟燈の前世が所属していたアイドルグループ「エタンセラン」の

世に出ることのなかった曲「エテルネル」。センター、りりの誕生日ライブ

に発表予定だった曲。それも私が亡くなったから無かったけど。

一週間前、虎さんに連れてこられてから、どうしても歌いたくなった。

ここを‘あの日’のライブ会場、日本武道館のステージとして歌う。

私一人の歌声が薔薇園に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ