前世の記憶の目覚め
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過去
(......)
森の中の大きなお屋敷の玄関の前に籠が二つ並べて置いてある。
その中から手を伸ばす。すると私よりも大きな手のひらが近づいてくる。
「はじめまして。お嬢様。」
優しく暖かな笑みでこの人は私を抱きあげる。
「あぅ...?」
私を抱き上げる彼女の眼にはもう一人髪色の違う私が籠の中で
眠っているののが映って見えた。
現在
あともう少し……。 あと一センチ、いや五ミリかなぁ。
つま先立ちをして精一杯に自分の身長を伸ばしドアノブに手を掛けようとする。
「と、届かない…。もう少しッ…!」
今度はドアに手を付き再びつま先立ちで立ち右手を伸ばす。
するとドアノブがゆっくりと自身の手に近づいてくる。
「やったっ!」
ついに外に出れると思いドアノブを掴もうとするとドアが開いた。
「あっ」
体重をかけていた左手がドアから外れてしまってこけてしまった。
「いったぃ…!」
手を着きギリギリセーフ。足を葉の字にして座りブルルと犬のように顔を
振るう。
「惟燈お嬢様?!も、申し訳ありません、!お怪我はありませんか?!」
ポカーンとしているとその声につられ沢山の人が集まってきた。
「あ、うん。大丈夫。」
ニコっと笑い小さな体で立ち上がる。
「惟燈お嬢様、それにしても何してたんですか?あんなところで」
部屋に起こしに来たメイドは心底不思議そうな顔でたずねる。
「…お腹すいたから…。」
「あぁ、昨日は体調がすぐれないようで夕餉を残されましたものね。
でも今度から呼び鈴をしてくださいね。」
「…わかった」
むすっとふくれっ面を見せると優しく頭を撫でてくれた。
彼女は星宮伯爵家のメイド。
私は『星宮惟燈』。鳳華大国の伯爵家の一つ星宮伯爵家の次女。現在五歳。
詳しく言うと五歳一か月。そして私が‘私達’という原因が…、
「惟燈、邪魔、!!貴女も、!」
大きな口を開け、怒鳴る小さなこの子。
『星宮桔乃』。星宮伯爵家の長女。現在五歳一か月。私の双子の姉。
でも、何というか…。姉妹に見えない。まず私。背中の中腹部まで伸びた
桃色の髪。天性の星が宿った青緑色の透き通る瞳。スッと通った鼻筋。
整った顔のパーツに配置。雪のような白い肌。身長97.4cm。
ぞくにいうの‘美少女’みたいなのだ。
次に姉。引きずる長さの濃い紫色の髪。星の宿っていない
濁った橙色の瞳。丸っとした鼻。黄色の肌。身長112.4cm。
唯一羨ましいのは私よりも整った顔の配置と身長。
でも姉は…桔乃は髪で片目を隠していて異様な空気をまとっている。
髪を切るのが苦手なのだ。人に髪を触られると泣き喚く。
「そういえば、惟燈。まだ生きてたんだ。とっくにくたばったかと思ってた」
「……」
「桔乃様ッ、!謝った方がよろしいかと」
私と姉はほぼ顔を合わせることがない。
昔、桔乃と大喧嘩をして私は右腹部に大火傷を負った。
傍にたまたま食事のワゴンが通りかかって桔乃はポットを手に取り
熱湯をばら撒いた。その熱湯がたまたま腹部を直撃した。
それから屋敷で桔乃は危険人物として扱われるようになり
メイド長の指示で二人を離す様にしたからだ。
「桔乃、ごめんね、?」
私はメイドに守られるように抱かれながら桔乃に謝った。
「うるっさい。気安く名前で呼ばないで、お姉様でしょ。」
「ご、ごめんね。お姉様。」
スタスタと髪を引きずり去って行った。
それにしても…、ここのドアノブ高すぎん?!。
私の知ってるドアノブの高さじゃない。あ、アレか。
子供の脱走防止用、とかかな。うんうん。
え、? えっと…。五歳には見えない?
だよねー。よく言われる。五歳にしてはチビだし…。
ん?そーじゃなくて?まぁ、実年齢は今の年齢の三倍ぐらいだし。
前世の記憶があるんだよね~。そう、!かの有名な異世界転生なの!
ふふーん。 ちょ、!明らかに引いてる、!!引かないで~。
前世の記憶が芽生えたのは一年ほど前。
その頃の鳳華大国は流行り病に侵されていた。感染経路は不明だが
私も床に伏せていた。座ることもできぬ程の体中の痛みと発熱。
*八リルト程の高熱が一週間続いた。 *八リルト=40.2度程
医者も手を尽くしたが熱が下がらず安楽死を進めることになったらしい。
というのも私の世話役で乳母のノエルから聞かされた話なので良く分からない。
分かるのはその高熱と痛みのおかげで前世の記憶が
目覚めたということ。多分、その記憶を体内に、脳内に取り込む事で
命を繋いでいたということ。安楽死執行の前日に目を覚ました。
少しだけ前世の『私』についてはなそうかな。
平成の終わりに近い年に日本に生まれた。いや、産み落とされた。に近いかな。
母親は14歳。父親は46歳。父親は母親の父。
私から見たら‘父’でも‘祖父’でもある人。そんな日常的な性暴力の狭間に
できたのが私、大鍔梨々。母親は妊娠を誰にも言えずどんどんと大きくなる
腹を隠し生活していた。不登校という名に分類される母。勿論最後まで
誰に言えることも無くトイレで出産。しかし、私の鳴き声と温かさにふれ
母性という名の逃げ道が溢れた。自分の父親に話、私を育てることにした。
これで性暴力から逃げられると思ったようだ。しかし、そんなことはなく
逆に父の欲求を逆撫でしエスカレートしていくことに。耐えかねた母は
自殺。父親は私が不要になり二歳の私を施設に入れたそうだ。これが私の祖母。
私の母親の母、そして父親の妻から聞いた話だ。
趣味はドラマ鑑賞、アニメ鑑賞。推しは施設の先生。
ドラマ、アニメみたいな恋愛をするのが将来の夢。
まぁ、フツーにオタクオトメチャン。職業 アイドル。 芸名 りり。
全世界が当時注目するアイドル「エタンセラン」。そのグループの最年少にしてセンター。
私が死んだ‘あの日’は15歳の私の誕生日ライブの前日だった。
あの日は真夏日和。六月中旬にして三十一度を記録した。
親友の『加奈子』と誕生日を祝ってもらうためプールに行った。
しっかり水分を取り熱中症を起こすこともなく帰路を歩いていた。
アスファルトの近くにはモヤモヤと暑さが見える。
横断歩道に差し掛かり赤信号だったため変わるのを持ち
加奈子が大通り沿いに立った。大通りから猛スピードで大型トラックが
こっちに走ってきた。止まる気配が無いのを察した。
加奈子を突き飛ばし私自身が引かれる運命を選んだのである。
それからの記憶がないから多分あの時、即死したのだろう。
そんか感じで転生した。
今の私には『梨々』としての記憶と『惟燈』としての記憶の両方がある。
それがホントに救いだった。惟燈の記憶がなけらば生きていけないからな。
自由人のため次回投稿は不明になります。