6/39
6
心臓がドッドッドッドッと早鐘を打っているみたいで苦しい。
挨拶もそこそこに、水野さんの家を出てきた僕は、下を向いて、ついついにやけてしまう口元を片手で隠しながら、家までの道を急いだ。
あー。
これが…もしかして…
落ちた…ってやつ…なのか…?
僕は家に着くなり、自分の部屋にこもって、ベッドに寝転んだ。
枕元に置いてあった食べかけの板チョコを一かけら口に放りこんで、天井をじっと見つめる。
ミルクチョコは、口の中で溶けて甘く広がっていく。
でも、いつもはホッとするチョコも、今の僕の心を落ち着かせてはくれなかった。
チョコケーキ、結局二つともあげちゃったな。
今ごろ、水野さんもチョコケーキを食べているんだろうか…。
さっきから、彼女の笑顔が頭から離れない。
口はずっとにやけっぱなしで、鼓動が速くて落ち着かない。
僕はベッドの上をゴロゴロゴロゴロ転がって、床に落ちた。
………落ちた……。
高2の秋。
彼女の笑顔は、チョコレートよりも、僕の心を甘く侵食していった………。