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昼休み、予想通り小崎くんは売店に向かって歩いていく。
でも、今日は加藤くんも一緒だった。
どうしよう…。
私は紙袋を持って、彼らの後ろから緊張しながらついていった。
小崎くんたちは売店でパンを買うと、また二人でしゃべりながら教室に戻っていく。
今、言わなきゃ…!
私はなけなしの勇気を振り絞って、彼らを呼び止めた。
「あの……待って!」
二人が立ち止まって私の方を振り返る。
「あれ、水野さん。どうしたの?」
加藤くんが数歩後ろにいた私に気づいて近づいてきた。
彼は軽そうでちょっと苦手だ…。
「あの……」
「なに?なんか用?」
「あの………。小崎くんに、話が……」
小さな声で言った。
「ああ。小崎?」
訊かれて、こくんと頷く。
「お前に用だって。俺、先に教室戻っとくから。ごゆっくり~(笑)」
加藤くんは小崎くんにそう声をかけると、一人で教室の方へ歩いて行った。
後に残された小崎くんは、気まずそうに下を向いて「なに?」と一言、そっけなく言った。
彼の表情は硬くて、迷惑そうにも見える。
小崎くんの冷たい態度に、みるみる勇気がしぼんでいくのがわかった。
「あの………お願い。一緒に、きてください……」
かろうじて残ったなけなしの勇気で私はなんとかそれだけを伝える。
小崎くんは不思議そうな顔をしながらも、私の後について来てくれた。
向かったのは屋上。
今の季節は寒くてあまり人が来ないから、二人きりになるにはちょうどいい。
屋上に出るとやっぱりそこには誰もいなかった。
空は晴れているけど、風が吹いていて今日は少し肌寒い。
私は震える両手を握りしめ、深呼吸を一つしてから、小崎くんの方を振り返った。
右手に持っていた紙袋から手紙を取り出し、胸の前で持つ。
手紙に気づいた彼が動きをとめて私の顔をじっと見る。
私も目をそらさないように彼を見つめ返した。
心臓の音が、ドキドキと耳元で聞こえている。
「あの…………………、あのね…………………」
なかなか次の言葉が出てこない。
やっぱり、無理……。
目をそらして俯いた時、右手に持っている紙袋に気づいた。
そうだ!
まず、こっちから渡そう。
私は紙袋を両手に抱えなおし、思い切って彼に向かって差し出した。
「あの、これ…」
「…なに?」
「チョコレートケーキ…」
意外にあっさりと言葉が出てきた。
「フォンダンショコラっていうの。私が作ったんだけど…食べて、くれる?」
「…僕に?」
「うん」
「…ありがとう」
彼は表情を和らげて受け取ってくれた!
でも、まだ意味がよくわかってないみたい。
チョコを渡せたことで、少し気持ちが軽くなった私は、もう一度、勇気を出して彼を見つめる。
「あのね……………。わたし…………………………」
ああ。
誰か私に勇気をください………!
私は深く息を吸い込むと、両手で手紙を差し出した。
「小崎くんが…………好きです…!」
言えた……!
小崎くんは信じられないという顔で固まっている。
やがて、彼は私から手紙を受け取ると、封筒から便箋を出して開いた。
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小崎くんへ
あなたが好きです。
水野 明
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昨日の便箋に、『小崎くんへ』と宛名だけを書き足した手紙。
彼はしばらく便箋を凝視してから、ぽつりとつぶやいた。
「これ………。僕宛ての手紙だったんだ…」
彼は私と目を合わせて照れくさそうに微笑んだ。
少し赤い顔でやさしく見つめてくる小崎くんから目をそらせない。
「水野さん…。僕も、水野さんが大好きです。……僕と、付き合ってくれる?」
その返事に、嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて、私は微かに微笑みながら頷いた。
「はい…」
それから、私たちはしばらく微笑みあっていた。
風は冷たいけど、心はほかほかあったかい…。
やっと気持ちが伝わって、これからが本当のスタートだ。
彼のことをもっと知りたい。
一緒に、もっとたくさん話がしたい。
まだまだたくさんの、彼に伝えたい気持ち…。
これから、少しずつ伝えていければいいな。




