26
「失礼します。」
小さな声で呼びかけて、保健室のドアを開けて中をのぞいた。
先生は今席をはずしているみたい。
ドアを閉めて中に入る。
外の喧騒が遠くに聞こえる。
まるで別世界の様に、保健室は誰もいなくてしーんとしていた。
部屋の中は、適度に空調が効いていて心地良く、薬品の匂いがする。
奧にはベッドが3つ並んでいて、一番奥のベッドに白いカーテンがひいてあった。
小崎くんかな?
私は少し緊張しながら、できるだけ静かに一番奥のベッドに近づいた。
「小崎くん…?大丈夫?」
小さく声をかけながら、そっとカーテンをめくってみる。
小崎くんは・・・すーすーと寝息をたてて眠っていた。
ほっと緊張が解けるのがわかる。
彼に見られると何故だかドキドキするから、眠ってて良かった…。
それでも、やっぱりちょっと胸が騒ぐ。
一昨日、彼の寝顔を見たときにはなかった気持ち。
あの時は、興味で寝顔をのぞいただけだったけど、今は…胸の奥がきゅうっとなって、落ち着かない。
私はじっと彼を見つめた。
彼はきちんと布団をかぶり、右手を胸の上に置いて、まっすぐな姿勢で眠っていた。
胸が規則正しく上下している。
私は小崎くんがぐっすり眠っているのをいいことに、彼をじっと観察してみた。
やっぱり、かわいい寝顔。
自然と頬がゆるむ。
少し日に焼けたきれいな肌。
ちょっと茶色がかった髪の毛は柔らかそうで、ところどころはねている。
さっき、私に笑いかけてくれた目は、今は閉じられている。
よく見ると、けっこうまつげ長いんだ…。
一つずつのパーツをゆっくりと観察しながら、やがて唇にたどり着いた。
やわらかそうな唇。
ほんの少し開いて、白い歯が見えている。
唇を見てるとなんだかドキドキがひどくなって、そこから視線をそらした。
私ったら、どこ見てるの…。
小崎くん寝てるし、このままそっとしといた方がいいよね。
パン置いて教室に戻ろうかな。
そう思って、枕元にパンの入った袋をそっと置く。
まだ、熱高いのかなぁ?
私は無意識に左手をのばし、彼のおでこに触れた。
…………。
まだけっこう熱いみたい。
彼の熱が手のひらから伝わってくる。
手をどけようとしたら、不意に、手首をつかまれた。
ビクッとして彼を見ると、小崎くんがじっとこっちを見ていた。
ドキドキドキと心臓が早鐘を打ち始める。
私は、やっとこの状況の不自然さに気づいた。
昨日ふった相手のおでこをさわってるなんて………。
ちょっと、おかしいよね?
「あ…………、あの、起こしちゃった?あの…ごめんね。」
なんとかごまかそうとして、無理に笑顔をつくって言った。
でも、彼はまだ私の左手をつかんだままだ。
「えっと、具合は…どう?まだ、熱があるみたいだけど…。」
「……冷たくて気持ちいい。」
「え?」
「しばらく、このままでいて…」
「あの、ちょっと待って……」
私は完全にパニックになって、手を引っ込めようとしたが、小崎くんは手を離してくれない。
それどころか、私の手を自分の方にぐっと引っ張った。
「わっ…」
はずみで彼の上に倒れ込んでしまった。
目の前に彼の顔がある。
ち、近い!!!
私はかぁ~っと耳まで赤くなって、あわてて起きあがろうとした。
でも反対に、小崎くんにぎゅっと抱きしめられる。
彼の両手が背中にまわっていて起き上がれない。
心臓が、口から飛び出しそうなほどドキドキしていた。
「あ………あの、…………離して…」
恥ずかしくて、小さく弱々しい声になる。
「もう少しだけ、このまま…」
彼の声が耳のそばで聞こえて、ぞくっとした。
それと同時に胸の奥が甘く疼く。
「…………………。」
体から自然と力が抜けていく。
私は、彼の胸にそっと頭をあずけた。
小崎くんの体は熱のせいかとても熱かった。
トクントクンと少し速い心臓の音が聞こえる。
彼の息づかいと熱い体温を直に感じて、腕の中でやさしく抱きしめられて、頭がクラクラした。
………どのくらいそうしていただろうか。たぶん時間にしたら一分くらいの短い間だと思う。
ふと、私の背中にまわっていた腕が緩んだ。
私はゆっくりと起き上がる。
離れるとき、なんだか寂しい気持ちになった。
もう少しこのままでいたい…
そんなことを思ってしまう。




