20
近づいていくと、彼女は僕に気付いて目を見開いた。
「…小崎くん」
「こんなとこにいたら風邪ひくよ。行こう。」
僕は自分の傘を彼女にさしかけて言った。
「でも………」
彼女は気まずいのか遠慮しているのか、なかなか動こうとしない。
僕はちょっと強引に彼女の手をひいて自分の傘に入れた。
「あ…。……いいの?」
「雨、しばらくやみそうもないし、濡れたままでこんなとこにいたら、また風邪がぶり返すかもしれないし。いやじゃなければ送っていくから」
ちょっと強い口調で言った。
「……ありがとう」
彼女の顔は少し赤い。
つないだ手はひんやりと冷たかった。
また、風邪がぶり返してきてるのかもしれない。
僕は彼女が雨に濡れないように気をつけながら、二人で並んで歩きだした。
時々、僕の右腕に彼女の肩が触れる。
こんなに至近距離に水野さんがいる……。
さっき振られたばかりだというのに、まだドキドキする気持ちを抑えられなかった。
彼女の歩調に合わせて、いつもよりもゆっくりと歩く。
住宅街はひとけがなくて、雨が降るザーっという音しか聞こえない。
静かで僕たち二人だけしかいないみたいだ。
このまま、時間が止まってしまえばいいのに―――。
だが、僕の思いもむなしく、彼女の家までの15分の距離は、あっという間だった。
「あの……わざわざ送ってくれて、どうもありがとう。」
「うん。……じゃあ、また。」
言葉が見つからなくて、そのまま帰ろうとした。
「あ!待って!ちょっと…待っててね。」
「?」
彼女は一度家の中に入り、すぐにタオルを持って戻ってきた。
「肩…すごく濡れてる…。ごめんね。これ、使って。」
そう言いながら、僕にタオルをさし出した。
僕はタオルを受け取って、自分の肩を拭いた。
「…それ、持って行って。風邪、引かないでね。」
そう言う彼女のほうが赤い顔をしている。
「うん。水野さんこそ、顔赤いよ。熱出してまた休まないように、早く家に入った方がいいよ。」
「え…?…………うん」
彼女はほっぺに手を当ててうつむいた。
「じゃあ。タオルありがとう。また明日」
「うん。今日は、本当にありがとう。また明日ね」
彼女はやっと顔をあげて、照れたように笑った。
彼女の笑顔を見ながら、僕は温かいものがじんわりと胸に広がるのを感じた。
やっぱり、僕、水野さんが好きだ……。
まだ、あきらめられない…。
雨は、さっきよりだいぶ弱まってきた。
僕の体の左半分はびっしょり濡れて冷たかったが、胸の中はほかほかとあたたかくて、弾むような足取りで今来た道を歩いて帰った。
雨雲の上には、確かに太陽が存在してる。




