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無敵になれない僕ら(4)

「誰だ、誰かいるか?」


 泥棒か?


 誠は庭に出て、周りを見渡す。しかし、人影らしきものは、すっと消えてしまっていた。少し遠くの雑木林から鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。


「勘違いだったか?」


 一応庭を出て、門の方に行く。郵便ポストには、ヨガ教室のチラシが一枚入っているだけで、特に問題はなさそうだった。


「うーん、やっぱり勘違いか」


 こんなボロい家に泥棒が入るわけがないか。


「あら、田中ちゃんじゃない」


 そこに近所の農家に草原時子にあった。腰が曲がっているお婆さんだが、毎日元気に農作業をしていた。作業着姿で頭にバンダナを巻いている。日に焼けた肌とピンク色のバンダナは、妙にマッチしていて、元気そうだ。


「時子さん、おはようございます」

「おはよう。これ、うちの鶏が産んだ卵。食べる?」


 時子からバスケットを受け取る。そこには白い卵が入っていた。


「いいんですか?」

「いいのよ。どうせ余ってるからね。まあ、たまにウチの掃除とか手伝ってね」

「おやすいご用ですよ!」


 誠は笑顔を作り、愛想良くした。田舎では、思わずこんなラッキーがある。時子からは卵だけでなく野菜、肉、酒を貰う事もあった。その代わり火事や農作業を手伝う事も多いが、それでにかなり家計に役立っていた。


 なので、時子は絶対に敵にできない。愛想良く、感じの良い好青年を装う必要があった。叔父は変わり者でこういった恩恵はなかったと聞くが、誠は意味がわからない。こうして田舎の良い面を享受した方が絶対良い。極貧生活で苦労続きだった誠は、愛想や笑顔という目に見えないもの大切さは身に沁みてわかっていた。


「あら、田中ちゃんはいい子ねぇ」

「あざっす!」


 時子はしわくちゃな顔で笑っていた。


「ところで、あんた何してたの?」

「なんか泥棒っぽいヤツを見たんですけど、心当たりは無いですか?」

「泥棒?」


 時子の表情がさっと曇る。何か知ってるのかも知れない。


「あのね、噂があるのよ。なんか変なヤツがいるってお向かいに野島さんとかが言ってたわ」

「本当ですか?」


 時子はこの土地でずっと暮らしている。ご近所の噂は、かなり詳しい。誠はよく知らないは、この辺りの金持ち一家の噂なども詳しいらしい。


「ええ。野島さんのところには警察も来たらしいわ」

「えー、マジっすか?」


 驚きで手に持っていたバスケットを落としそうになった。この平和そうな田舎町で犯罪は上手く結びつかない。


「まあ、私もよく知らないけどね。田中ちゃんも気をつけて」

「わかりました。っていうか、なんか危険ふぁありそうだったら、俺とか呼んでくださいよ」

「オッケーよ」


 こうして時子は去っていった。これから農作業の仕事があるという。


「それにしても泥棒とか物騒だ」


 誠も家に帰り、貰った卵を冷蔵庫に詰めていた。この田舎で泥棒とか想像もつかず、良い気分はしなかった。


 最近は弱者男性の意味なども調べた。自暴自棄になって犯罪する人もいるらしい。いわゆる無敵の人だ。あの噂の泥棒が無敵の人かどうかは不明だが、このまま放っておいても良いものか。自分だって弱者男性Aという診断をくらったが、やっぱり彼らを救済するべきか?


「ま、とりあえず卵貰ったし、なんか作ろか〜」


 そうは言っても、弱者男性の救済方法なども思いつかない。今は先に卵を詰めよう。卵は十個もあるし、色々とご馳走が作れるはずだ。


 頭の中にオムライス、ゴーヤチャンプル、チャーハン、卵スープなどが浮かんだ時だった。


 ピンポーン。


 卵を冷蔵庫に詰め終えた時、チャイムが鳴った。


 やっぱり泥棒襲来!?


 誠の休日は、なかなか落ち着きがないようだった。

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