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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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無償の愛の謎(14)

 夢を見ていた。糸原に襲われた後、気を失い、ずっと夢の中だった。


「なあ、誠くん」


 夢の中で誠は、豊と食事をしていた。職場にカフェテリアで、二人ともA定食を食べていた。A定食は、クリームコロッケとエビフライ、カボチャグラタンというお子様ランチみたいな内容だった。白米と味噌汁もつき、ほかほかと湯気もたっている。


 夢の中も豊は、亜由に夢中だった。


「初めてだよ。こんなに女性に優しくしてもらったのは」

「あ、そ」


 豊の惚気を、適当に聞き流していた。


「簿記一級取って事務で働いていた時は、女性の前に落ちているゴミを拾っただけで『気持ち悪い』って怖がられたからね」

「それはあるな。あるあるだな」


 誠は三白眼のキツネ顔という事もあり、女子の落とし物を拾っただけで怖がられた。


「まるで森のクマさんだ」

「うん、豊はクマだな。いや、豚か? ブタゴリラか?」

「酷いよ、誠くん! どうしてそんなに口が悪いんだ」

「育ちが悪いからよ」

「それを言ったら仕方ないじゃないか」


 豊はため息をつきつつもお子様ランチのようなA定食をニコニコしながら食べたいた。


 なんだか夢のような夢だ。なんでもない日つねだったが、今思えば、幸せな瞬間だった気もする。


「僕は、亜由ちゃんと幸せになるから」


 サクサクとエビフライを食べる豊の横顔は、本当に幸せそうで、やはり、彼の頭の中にある花を刈るのは、難しそうだ。


「夢みたい。こんなに女性に優しくしてくれて。亜由ちゃんは自分を犠牲にしても必ず幸せにする!」


 とても相手は結婚詐欺師と言えない。こんな純粋なヤツを騙す亜由が許せなくなる。


 できればずっとこの夢が続いて欲しい。この夢ではなく、豊の夢が続いて欲しい。


 亜由は結婚詐欺師。無償の愛なんてどこにも無い。そんな現実は言えない。


 別に豊とは親友でもない。単なる同居人で同僚だ。それでも、こいつには幸せになって欲しいと願ってしまう。もうたくさんだ。豊のように純粋で優しい人間が搾取される世の中は。


 どこからかサイレンの音がする。何の音だ?


 目覚ましの音か?


 わからないが、誠はゆっくりと目を開く。


「は?」


 目を開けると、酷い頭痛がした。糸原に殴られて気を失っていたようだが、命は奪われてなかったようだ。しかし、手足をロープで縛られ、身動きができない。


 どうやらここは家らしい。しかも豊のプレハブ小屋の方だが、物音がする。それに女の悲鳴。


 まだ頭がぼんやりしていたが、状況を確認した。


 アリスは、誠の側で似たように倒れていたが、息をしてる。アリスは意識はないが、問題ない。


 なぜか豊も倒れてる。おそらく、豊も糸原と鉢合わせしたのか。


「許せない! 私を騙したわね!!!」


 悲鳴というか、大声で騒いでいるのは、亜由。問い詰められていたのは、糸原だった。


「この詐欺師! 女を騙して最低よ!」


 それ、お前が言うセリフか? 完全なるブーメランだ。


 しかし、亜由も糸原に殴られた後が見えたが、少しも気を失っていない。こうして糸原にメンヘラしているのは、強すぎる。糸原が右手に拳銃のようなものを持っているのを、忘れそうになった。


「うるせぇよ! おまえらに何がわかる! いいから、さっさと荷島太郎を呼べ!」


 糸原はメンヘラ亜由を払いのけ、吠えていた。つまり、この状況は人質をとって立てこもっている?


 このサイレンの音も警察だろう。おそらく近所の時子が通報したと思われるが、どうするべきか。誠は、頭を抱えそうになるが、身体もロープで縛られ、頭も混乱し、ろくに声も出ない。自分の事を棚にあげ、被害者ぶる亜由の強さを分けて欲しいものだが、残念ながら誠はそこまで神経は太くない。


 警察も一応外で何か説得しているようだが、糸原は一切耳を傾けない。


「騙したおめーが悪いだろ! 情報目当てに私に近づいたんだ、酷い、酷いわ!」


 亜由は自分の事は完全に棚に上げている。とても大きい棚を持っているようだ。こうしてメンヘラして怒り狂う亜由は、とても白ウサギには見えない。むしろ、火を吹く蛇だ。糸原も亜由には困っているようだ。


「うるせえ! ぶっ殺すぞ!」


 糸原はそう言い、拳銃のようなものを亜由に向ける。これはお手製っぽい銃だ。いつ暴発するか不明な銃で、普通のそれより怖いが、今は亜由の方が怖い。もしかしたら、このまま亜由に任せておけば、糸原も折れるんじゃなかろうか。誠は少し安堵してくる。


 アリスはともかく、床で気を失ってる豊を見ていると、不憫になってくる。こんなシーンでも亜由が活躍しているとは、どういう事か。いつになっても活躍できないヒーローか。いや、ドラえもんのいないのび太か? そう思うとイライラしてきた。


「亜由、あんたも人のこと言えんだろ。こんな純粋な男たちを弄んだのは、お前だろ?」


 ついつい怒りの矛先は、亜由に向かってしまった。


「結婚詐欺師のくせに、何言ってるんだ。お前は、糸原を責める権利はないぞ。俺は豊の友人として一言言わせてもらう」


 突然、誠に正論を言われたため、さすがの亜由は怯む。


「知ってるぞ。お前、白ウサギの悪女って警察に呼ばれてるのを。当然、この豊も騙している事も」

「まじか?」


 糸原が何も知らないようで、誠の言葉にいちいち驚いていた。


「ふん! こんなチー牛弱者男性なんて誰が相手にするもんか。私はイケメンが大好きなんだよっ!」

「でも、騙されてるやん。ウケる」


 誠が煽ると、亜由は激昂したが、意外な事に糸原は態度を軟化させていた。チャンスかもしれない。


 縄に縛られ、誠は身動きが全く取れないが、説得を試みる事にした。


 イチかバチか。


 まだわからないが、自分もヒーローになれないし、ドラえもんもやって来ない。田舎の警察も役に立たないだろう。ここは、戦わなければならないようだ。そんな気がしていた。

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