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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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無償の愛の謎(12)

 池の側でしばらく語らっていた亜由と豊だが、広場の方へ移動し、芝生の上のレジャーシートを敷いていた。


 レジャーシートが風で飛ばされそうになると、亜由はわざとらしく「キャー」と騒ぐ。「結婚詐欺師のぶりっ子キツい」とアリスは毒を吐いていたが、誠も同感だった。


 しかし豊はあの体型で意外と運動神経はいい。風に飛ばされそうなレジャーシートを押さえ、「大丈夫!」とドヤ顔。精一杯表情をキリッとさせていると思うと、健気すぎて泣けてきた。


 こんなコントを観察出来るのも、ちょうど家族連れが壁になってくれているお陰だ。向こうからは死角になってよく見えないだろうが、誠からはよく見えた。この距離だったら、耳をすませば、何か聞こえるかもしれない。


「お弁当作ってきたの。一生懸命作ったから、食べてくれる……?」


 亜由は上目遣いで、目をウルウルとさせていた。アリスは「キモい」と呟いていた。全く同感だが、豊は茹蛸のように顔が真っ赤になっていた。クマのぬいぐるみのような豊だが、白うさぎの攻撃には全く無防備のようだった。


「はい、あーんして」


 亜由は、弁当を豊に食べさせていた。もう豊の目はトロトロに溶け、液体みたくなっていた。しかも弁当は、肉じゃが、唐揚げという家庭料理で、あざとさマックスだ。誠だって女に免疫もない。どちらかと言えば苦手だが、これに騙されるのは、仕方ない気もした。


「実はお母さんが病気で、お金が必要なんだ」

「そうなのかい!?」


 目も溶けているが、豊の頭の中も溶けてるようだった。古典的な女の嘘も見抜けず、オロオロとし始めていた。


「それは可哀想だ!」


 豊は亜由の作り話(120%そうだろう)を聞いて号泣していた。亜由の母が可哀想だと。


「いや、可哀想なのは豊の頭だよ!」


 思わずツッコミを入れそうになる。アリスに慌てて口を塞がれた。


「誠さん、黙って。たぶん、これから亜由は詐欺を働くつもりよ」

「おお。そうだな」


 誠達は無言になり、豊と亜由を見守る。子供がはしゃいでるおかげで、周囲は騒がしい。おかげでこっそり二人を除いていてもバレる雰囲気はなかった。


「だから、入院代がどうしても必要なの。どうしよう、豊さん! お金が無いのっ!」


 臭い芝居だ。大根すぎる。亜由は嘘泣きをし、豊に縋り付く。ただ、「お金がないのっ!」という台詞だけは実感がこもっている。極貧状態だった誠の母も似たような言葉を吐いていた。もしかしたら亜由も極貧家庭の出身かもしれない。そうだとしても全く同情はできない。極貧家庭でも自分のように底辺を這いつくばりながら生きるものもいる。こうやって犯罪をやっている女を見ると、虫唾が走るが、豊は全く気づいていない。ここまで鈍感、馬鹿、お人よしだと思うと、なぜか誠の方が恥ずかしくなってきた。やっぱり豊の頭の中の花は刈るか。除草剤ガンガンまいて枯らすか。


「もちろん亜由ちゃん、協力するよ。ただ僕もお金はないから借金をする」


 ああ、すっかり騙された。誠は頭を抱えるが、アリスは熱心にメモをとっていた。


「嬉しい! ありがとう!」


 亜由は大袈裟に喜び、豊に抱きつく。


「豊さんはぬいぐるみのクマさんみたいで安心するー。こんな気持ちは初めて!」

「いやあ、それほどでも」


 二人の世界はすっかりピンクに染まっている。


「アリス、これどうするよ? すっかり騙されたぞ」

「困ったわね。これで豊さん、借金苦ね。カルトのお母さんの借金も似たような感じで払っているんじゃない?」


 それは想像がつき、誠は深いため息をつく。むしろ、よく今まで結婚詐欺に合わなかったと感心するほどだった。確かに豊は馬鹿で間抜けだ。だからと言って、こんな風に騙されている状況を見てしまうと、情け無いやら、悔しいやら、恥ずかしいやら微妙な気持ちになる。誠の三白眼のキツネ顔も、複雑な表情を浮かべていた。


「でも、亜由ちゃん。僕は男だよ」

「はい?」


 予想外のことを言われたのか、亜由は一瞬素の表情を見せた。一瞬だったが、邪悪な虫みたいな表情で、とても白ウサギには見えなかった。


「タダでお金を貸すのはちょっと……。結婚前提に付き合ってくれるかい?」


 プロポーズ!?


 さすがの誠もアリスも言葉を失い、豊達を見つめた。


「ええ。いいわ」


 その亜由の目は、さっきと同じく邪悪だったが、口元は笑顔だった。


「という事で亜由ちゃん」


 ここで豊は亜由の手を握った。外見は白ウサギっぽく可愛くまとめている亜由だが、手はそこそこ年齢が出ているのに気づく。


「な、何?」


 豊に手を握られている亜由だが、口元は引き攣っていた。まあ、本当はイケメン好きそうな亜由だ。本能レベルで豊を拒否しているのがわかり、いたたまれない。


「今日、うちに来てくれる? 泊まってもいいよ」

「そうね。借金の契約とかもやりましょうね」


 なぜかトントン拍子に二人が家に行くことは決まっている……。


「ええ、豊さんのお家に行くの楽しみ!」


 アリスは言葉を完全に失っていた。これは十八禁な展開か。


「お前ら俺っていう同居人がいるの忘れてないか?」


 豊は小声でツッコミを入れるが。二人は見つめ合い、ピンク色のムードを醸し出していた。


「キモい!」


 そんな二人に、アリスは嫌悪感たっぷりの声をあげた。


 クマのぬいぐるみみたいな豊だが、オスである事をすっかり忘れていた。


 これで童貞卒業か?


 いや、うちを十八禁の現場にされたら困る。そのルールも初めから決めておけば良かったが、一生縁のない話題だと思いこんでいた。


「嬉しいわ」


 亜由はヘビのように豊の手や腕に絡みついていた。

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