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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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無償の愛の謎(8)

 翌日。デート当日になった。


 誠はいつも通りの早起きし、今日のすき焼きの下準備をしていた。ネギや白菜を切ったり。余った野菜は、今日の朝食にする予定だった。


 すき焼きの下準備が終わると、朝食に取り掛かる。出汁をとり、野菜を入れ、味噌汁を作った。目玉焼きとトーストを焼いたら完成だ。キッチンはトースターから良い香りが漂っていた。この匂いに逆らえるものはいないだろうと思った時、キッチンに豊がいるのに気づいた。


 今日は寝癖を直し、七三分けにしていた。いつもの変なシャツではなく、ジャケット姿だった。もっともシャツを一番上のボタンまで留めているせいで「七五三みたい!」とは口が避けても言えないが。


「今日デートなんだ。亜由ちゃんと」


 豊は思い詰めた表情でいう。


 知ってる。九時半に重奏駅の前で待ち合わせしているのも、LINEで自ら漏らしていたではないか。だからこそアリスと一緒に尾行できるわけだが。


「へえ、ヨカッタね」


 心にもない事を言い、味噌汁を注ぐ。


「ああ、恋煩いかな。食欲がないんだよ」

「君は無い方がいいよ?」

「うん、今だったら痩せられるかもしれない」


 豊の顎をチラッと見る。顎なのか肩なのかよくわからない。相変わらずタプタプしていたが、少しは容姿に気を使うようになったのは、大きな変化だろうか。


「トーストもいらん?」

「いや、トーストだけは貰おう」

「ちゃっかりしてるな」

「ああ、早く亜由ちゃんに会いたい」


 亜由は結婚詐欺師だけどな!


 そう言いたくなるが、どうにか我慢した。今、このお花畑状態で真実を言っても逆効果だろう。


「僕も以前は婚活パーティーによく行ってたんだ」


 出来上がったご飯をリビングに移動させ、そこで一緒に食べていると、豊はそう呟いていた。サクサクとトーストを咀嚼する音が響く。誠は目玉焼きを乗せて食べていたが、これ以上美味しいものは思いつかなかった。今日の夜はすき焼きの予定だったが、焼きたてのトーストもかなりご馳走だ。


「へえ」

「でも女達は条件ばっかり見て、僕に厳しかった。だから期待はしていなかった」


 道理であの婚活パーティーに行く前、冷めていた理由がわかった。同じく婚活パーティーを趣味にしている貝原も冷めていた事も思い出す。


「でも亜由ちゃんは、条件ではなく、僕だけを見てくれた。無償の愛だと思う」


 本当に結婚詐欺師だけどな!


 再び口から出そうになるが、トーストを噛み締めて何とか誤魔化した。


 豊はこんなに騙されやすかったとは。アリスの件などもあり、成長していると思ったが、恋愛が絡むと、人の頭をおかしくしてしまうらしい。誠も新垣結衣似の女性に騙されたとしたら、冷静でいられる自信は全くなかった。


「うん、これは無償の愛だ……」


 豊は顔を真っ赤にし、呟いている。頭の中には、大量の花が咲いているようだが、それを枯らすには、さすがの誠も躊躇する。


「無償の愛ってそんなもん? っていうかうちの父の前で言ったら、説教されそうだわ」


 義父は牧師だ。神様の愛が至高である事を説教される事が目に浮かぶ。確かに神の愛とか言われたら、人間は黙るしか無いかもしれない。


「そうだよなぁ。僕も神様のように亜由ちゃんを守るぞ! 己の十字架を背負うぞ!」


 これは本当に重症かもしれない。


 真実を言い、目を覚ませる事が本当に良い事なのか不明なってきた。誠はヤケクソのように味噌汁をがぶ飲みし、テレビをつける。


 そこには、時期総理大臣と噂される荷島太郎が出ていた。増税するという発言で、街のインタビューではかなり嫌われているようだった。


 昨日、アリスたちの親が荷島太郎だと知ったわけだが、顔はあまり似てない。「あのセレブ兄妹は母親の方に似て良かったな」と意地悪な事を考えていると、豊はなぜか悩ましい顔をしていた。


「荷島太郎さん、こんなに街の人に叩かれてて可哀想だなぁ」

「そうか?」


 どちらかといえば、誠や豊のような底辺労働者に対してろくな政策はやっていない印象だが。アリス達の親である事を差し引いても、アンチがいる理由はよくわかる。ネットでは「増税ハゲ太郎」というあだ名がつけられ、嫌われているそうだが、その通りだと思うのだが。


「ハゲ太郎とか言うのは、いじめじゃん。僕もさんざんデブとか容姿の事言われてきたから、可哀想って思う」

「おお、確かに……。というか、俺は君のデブっぷりは嫌いではない。クマみたいだよ」

「誠くんはいじって言っているのは、わかるけどね。でも見ずらずのネットの人とかに悪く言われてる荷島さん、大変だろうな」


 目が点になる。誠には、こんな政治家を思いやるような発想は皆無だったからだ。


「おまえ、優しいな……」


 目が点というとより、目から鱗だった。改めて豊を見直してしまう。


「でも、誠くんも優しいんじゃない? 僕みたいのに家とご飯を提供するって、優しくない?」


 豊はそう言って、実に幸せそうにトーストを齧った。


 なんだ、これは?


 ますます亜由に結婚詐欺にあっているなんて言えない。


 夢だったらどんなに良いか。こんな純粋で優しいヤツを傷つける亜由にイライラしてくる。誠は下唇をギリギリと噛んでいた。


 やっぱり証拠を掴み、警察に突き出すしかないだろう。


 その為には、まず尾行だ。尾行にはさほど乗り気ではなかったが、今は拳を握りしめる。


 一刻も早く亜由を捕まえてやる!


 そう決意した。

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