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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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無償の愛の謎(2)

 翌日。


 婚活パーティーってどんな服を着ればいいんだ?


 誠は自室のクローゼットの中の服をあさる。いつもは、ユニクロ、GU、あとはメリカリで安くゲットしている。


 とりあえずスーツだったら無難だとうと思い、面接の時に着たのを引っ張りだした。普段は豊の服がダサいとdisっていたわけだが、人の事は何も言えないと思えてきた。もっとも豊は変な服を着る可能性大なので、逆に楽しみだと性格悪いことも考えたりする。


 いつもは適当な髪の毛も、セットし、髭もそる。一応面接に行ってもおかしくないファッションに纏めた。


「豊くーん? その格好でいいのかい?」


 入れ違いに洗面所に入ってきた豊をみる。白シャツに「I Know, Right? 」とロゴが入っていた。いつもの変なシャツの笑いを噛み殺したくなった。


「まあ、どうせろくな女はいないよ。専業主婦目的の寄生虫とか、男の年収をバカにする自称バリキャリとかばっかりだろうね」


 豊は糸ようじで歯を綺麗にはしていたが、髪の毛は整えるつもりは無いらしい。髭も剃っていたが、あまりやる気はない。


「石田ゆり子似の美女もいるかもしれないぜ?」

「いないよ」


 即答。婚活パーティーには、はなっから期待しいていないようだった。豊は洗面器の周りに散らばった水飛沫が気になるようで、ゴシゴシとタオルでふいていた。


「ま、期待しないで、適当にやろうよ」

「っていうか、婚活パーティーに行った事あるみたいな口ぶりだな。あるんだろ?」


 豊は答えなかった。口を閉じ、目も伏せている。こんな暗い表情の豊は初めて見た。例のレモネード事件の時もこんな表情は見せた事はない。


「まあ、準備もできたから、行こうぜ」

「おお、そうだな」


 こうして二人は、家を出て会場である公民館の方へ向かう。ちなみアリスに頼まれ、ICレコーダーもポケットの中に入れていたが、スイッチを入れるのを忘れそうだ。まあ、アリスの妄想BL漫画なんて、どうでも良いか。


 今日はよく晴れていた。気持ちの良い初夏の空といったところだ。子供の日はとっくに終わったが、この空には、鯉のぼりが泳いでいても違和感はなさそうだ。


 時子の無人野菜販売所の前までくる。今日も販売所のは、キャベツやにんじん、菜の花がどっさりと詰まっていた。


「時子さん、こんにちは!」

「こんにちは」


 二人とも挨拶をする。驚いた事に、豊は先に笑顔で挨拶をしていた。豊は時子のは懐いているようだった。


「あんたたち、どこいくん?」


 スーツ姿の誠を見て、時子は驚いていた。豊はいつも通りというか、いつもよりダサいぐらいの格好だが。時子もいつも通りの農作業姿で、花柄のエプロンを腰に巻いていた。


「実は婚活パーティーに行くんで」

「あらまあ!」


 そう言うと、時子は目を丸くしていた。加齢でシワっぽい顔だったが、目だけは子供のように生き生きとしている。


「へえ、豊ちゃんも?」

「ええ、一応。冷やかしで」

「まあ、婚活パーティーに行くような女は、ろくでも無いからね。年収とかも、盛りに盛っていいはずよ」


 時子は悪い顔をしていた。


「ええ。konozon社員って書きますよ。嘘はついて無いですし!」


 下っ端で汗だくになりながら、荷物と格闘し、夜勤と繁忙期には灰になるまで仕事しているとは言えないが。konozonは一応大企業だ。別に本社の正社員とかじゃないけどな!


「あはは、誠ちゃん、おもしろーい。豊ちゃんが、医者って書いちゃいなさいよ」

「えー、僕って医者に見えます?」

「見えるわ! 豊先生!」

「うーん、俺はクマのぬいぐるみにしか見えないんだけど」

「僕ハ医者デス!」

「きゃー、そう見える!」

「見えねぇ!」


 そんな冗談を三人で言っていると、婚活パーティーに行く緊張感は消えていく。まあ、こんな田舎の婚活パーティーに新垣結衣や石田ゆり子もいないだろう。冷やかし感覚で行っても悪くないはずだ。


「じゃあね、時子さん」

「二人とも頑張ってね!」


 時子に見送られながら、会場である公民館への道をすすむ。


 のどかな田舎道だ。周りは畑や田んぼばかり。田んぼの水は、青空を反射し、なんだか涼しげだ。


「僕って医者に見える?」

「見えねぇ」

「でもプロフィールには、医者って書いちゃおうかな。僕ハ医者デス」

「無理があるよ」


 誠はすぐに突っ込む。


 そういえば今日の豊のファッションは最低だが、時計はブランドものっぽいゴツいものをしている事に気づいた。まあ、太い手首や指で台無しになっていたが。


「おま、その時計どうしたんだ?」

「うん、この時計? これれは僕が金持ちだった時、父が買ってくれたものなのさ」


 ふっと豊は遠い目をしていた。


「この時計だけは、売れないね。思い出の時計で、外出する時は、つける事も多いな」

「へえ」

「今、僕の指や手首が残念って思わなかった? 太いなあって思ったでしょ?」

「その通りだよ!」

「君は本当に毒舌だなぁ。母親の真弓さんは、優しいのになー」


 そんな事を話しつつ、重奏町公民館に到着した。ホールの方に向かうが、ボロボロな木造で、全く期待できない。体育館ぐらいの大きさはあるはずだが、見かけは、「小屋」と言いたくなりような雰囲気だ。ホールの前には、立て看板も置いてある。手書きの文字で「婚活パーティー開催!」とポスターが貼ってあったが、一ミリも期待できない。


 この婚活パーティーには、新垣結衣も石田ゆり子もいないだろう。スーツを着てきたが、豊のようなダサい服の方が、ドレスコードだったかも知れない。

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