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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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多様性とご近所の謎(13)完

 私は潔白ではございません。ええ、犯人ですわ。


 チラシの裏に、お手本のような綺麗な文字が並ぶ。アリスが書いたものだった。


 本人が自白している。これ以上の証拠はない。


 ここは、誠の家のリビングだが、あの後、アリスを強制的に連行。豊も含めて三人でリビングのテーブルを過去んでいた。


 テーブルの上は、菜の花の卵スープ、キャベツのサラダ、それにパンケーキ。全部誠が作ったものだが、材料はほぼ時子から貰ったもので作った。夜勤とアリス騒動のせいでスーパーに行き時間や米を炊く時間が作れず、こんな洋風な食卓になってしまった。


 いつもは大仏のように座る豊と食事するリビングだが、姿勢正しい美人お嬢様がいる今日は誠にとって違和感しかない。二人ともフォークや箸の使い方も綺麗で、余計に誠は居心地は良くないが。


 とりあえず、飯を食う事にした。アリスは一応、チラシの裏に自供したわけだが、その後は何も言わないし、書かない。無理矢理口を割らせるわけにもいかず、もくもくと食事をしていた。


 パンケーキは、甘さ控えめに作ったので、案外食事にもなる。菜の花のスープも具沢山で春らしい一品だ。我ながら上手く出来たと誠は自画自賛したい気分だ。パンケーキもふっくらと綺麗に焼けた。テーブルの上にどんとあるパンケーキタワー。女子はこういうの好きなはずだ。アリスも少し笑みを見せながらパンケーキを食べている。


 一方、豊はご飯にパンケーキはないんじゃと文句を言っている件。その割にはハチミツをじゃぶじゃぶかけて食べていて、ため息が出そうだ。今日の豊は成長してると思ったが、空気読めない発言は相変わらずのようだった。


「そんな文句言うなら食うなよ。その首なのか顎なのか何なのかわからない部分に余計に肉がつくぞ」

「おお、誠くんは辛辣だな。ここは顎、首はこっち!」

「ごめん、全部ブヨブヨした肉だから、区別つかんわ。本当にここが首? 顎? わからんな」

「なんなの、この人! 見かけ通りに毒舌だな〜」

「いや、もう少し痩せたら?」


 誠は遠慮なく豊の容姿をいじっていると、なぜかアリスはフォークを動かすのをやめた。思い詰めた表情だった。


「二人とも別にそんなに仲良くは無いんですね」


 何だかガッカリした声も出している?


「おお、別に単なる同僚だし、女子グループみたいに仲良くは無いぜ」

「そうだよ、誠くんの言う通り。こんな毒舌キツネ顔おじさんとは親しくないんだからね!」

「そっかぁ……」


 まるで夢が壊れたと言いたげだった。アリスは頭を下げ、今までの犯行を謝罪した後、事情を話しはじめた。


 アリスは箱入りお嬢様。危険な事も俗的なものも全部排除された家で育ったという。ニートの兄・聡とは母親が違い、年も離れているが、蝶よ花よと可愛がわれて育った。


 改めて誠はアリスを見てみる。黒髪ロングで大きな目。クールそうなお嬢様ではあるが、確かに箱入り世間知らずお嬢様にも見える。どこかユルいというか、苦労知らずな感じは否めない。


 少なくとも誠が育った極貧コミュニティや底辺労働者層には、全くいない雰囲気だった。そういった場所にも美人や高学歴がいたりするが、明らかに雰囲気が「訳アリ」だ。もっとも豊も元・坊ちゃんなので、二人の雰囲気はかぶる。共通点は子供っぽさやおっとり感か。


 そんな箱入りお嬢様だったアリスだが、中学へ入る。金持ちのお嬢様しかいない私立の学園だが、色々と進んでいるところもあった。特に保健体育や性教育は……。十八禁の保険体育やLGBT関連の教育を受けたアリスは、すっかり人間不信になる。特に自分もあんな十八禁から生まれたと思うと、気持ち悪い。運の悪い事に兄の部屋から、エロ本も発見。箱入りお嬢様は、性の現実を知ってしまい、男女の十八禁的なものにより嫌悪感を持つようになった。


 LGBTでもドラァグクイーンが講演会として学校にやってくる。そのドラァグクイーンは講演会でキリスト教の概念などを批判。また、男同士でも十八禁をやっている事も知ってしまい、アリスは周囲の大人全員に嫌悪感を持つようになる。


 そんな嫌悪感でいっぱいになった時、深夜のB Lアニメを偶然見る。そこでは十八禁を超えた純粋な愛情が書かれており、アリスの心にすっぽりとハマってしまった。以後、熱心な腐女子になり、WEBで二次創作漫画を発表したり、ヲタク活動を楽しんでいた。


 母の推理が当たっていたようだ。アリスの話を聞きながら、やっぱり女の事はわからないと誠は思う。思春期の時は、そんな性への嫌悪感なんてなかったし、むしろ好奇心でいっぱいだった。豊も誠と同じように首を傾げ、疑問に思っているようだった。確かに男である二人は、アリスの気持ちはわからない。


「で、俺たちをBLの創作かなんかのネタにしてたってことか?」


 誠がよりわからないのは、その理由。こんな冴えないおじさん二人で萌えられるのか?


「ええ。私は何でもいけます! それこそ多様性ですわ!」

「ちょっ、顔真っ赤にして鼻息荒くして言うのやめてくれね?」

「誠くん、これって残念美人ってやつ?」


 美人お嬢様だが、豊の言う通りだ。誠達をネタに妙な妄想が出来るなんてよっぽどだ。誠には、そんな多様性のキャパはない。やっぱり腐女子のアリスは気持ち悪いと思いつつ、パンケーキをがっつく。パンケーキタワーは、いつのまにか減っていた。スカイツリーから二階建てアパートぐらいになってる。文句言ってた豊が結局一番食べているようで、解せない。


「でも牧師さんは、敵の意見も認めるのが多様性とか言ってたな。アリスちゃんは、一体どんな漫画描いてるのさ?」


 一方、豊は優しい一面も見せていた。こんな下らない理由で犯行に至ったとか、誠は脱力感に襲われているが。これで夜勤明けの睡眠時間が大幅に減らされたと思うと、解せない。


「えー、恥ずかしいですよぉ」

「俺らをネタにしてるんだろ? 見せろ」


 誠はその鋭意三白眼で睨むと、アリスは渋々漫画を公開しているWEBサイトを教えてくれた。さっそく二人もその漫画を見て見るが……。


 冴えない工事勤務のおじさん二人が、主人公。二人は同居しながら純粋な愛情を育むストーリーだった……。主人公二人のルックスは明らかにモデルが透けてみえたが、まつ毛が長かったり、顎がシュッとしてたり、美化してる部分が余計に気持ち悪い。ストーリーも美化し過ぎているのでドン引きだった。


 さっきアリスがガッカリしたような表情を見せていた理由を察する。ただ、十八禁シーンはなく、あくまでも純粋な心の繋がりだけ描写され、何だかそこは切なくなってしまうが、気持ち悪いのは気持ち悪い。特に豊を実物よりイケメンにしてるのが、最高に気持ち悪いな……。


「うわ、キッツイ。引く……」


 誠の目は、漫画を見ながら死んでいく。


「それにしても背景とかも描いてるの? 背景はす、すごいね……」


 さすがに豊もドン引きだった。


「背景とかはAIに描いてもらうから、そのあたりは簡単に出来るんです♪」

「そうか、そうか……」


 BL漫画の事になると、テンションが明らかに上がるアリスにもう何も言えない。サイトには他にもマニアックな趣味があり、アリスの描いているような冴えないおじさんのBLも珍しい感じでは無いようだ。もっとも、イケメンが主役で美麗な雰囲気の作品がランキングの上位に上がっているようだったが。


「誠くん、どうする? この子、警察や親に言ってもあんまり意味ない気がする」

「だな。そもそも変な性教育やった学校にも大いに責任がある気がするしな……」


 元を辿れば、これが元凶だった。アリスというより、学校の性教育担当者が犯人に思えてきて仕方がない。


「だからと言って、学校にクレーム入れるのもな……。おい、クソガキ。もうコソコソこういう事しないって約束できるか? したら、無罪放免だ」


 言葉はきついが、誠の寛大さにアリスは、目をパチクリとさせていた。目が大きいので、驚いた顔もかなり派手だ。


「でも、アリスちゃん。俺らをネタにできなくて、この漫画の続きどうするの? ランキングとかは最下位だけど、いいねしてくれる読者もいるよ? 漫画描く自体はやめなくていいと思うよ」


 豊の優しさに、誠はため息が出そうだったが、アリスは心を動かされたらしい。再び頭を下げ、謝罪していた。こう謝れると、誠もこれ以上責める気にもなれない。


「コソコソしないで、ちゃんと取材するって言えよ」

「そうだよ。せっかく漫画描けるなら、堂々とした方がいいよ、アリスちゃん」


 そこまで言われてしまい、アリスは自分のした事を本当に自覚しているようだった。恥ずかさせ俯いているアリスを見ていたら、これ以上責められない。


「ありがとう、それにパンケーキ美味しかった」


 その笑顔は、中学生らしいものだった。母の言うように、アリスの持っている性的嫌悪もいつか無くなるだろう。その間までは仕方ないのかもしれない。


 こうしてアリスの件は解決した。


 ただ、寝不足状態で夜勤の仕事に行き、熊木にはドヤされ、ゴールウイークで人手不足の割に仕事量も多く、他部署に応援に行ったり、ふんだり蹴ったりだった。


 こんな下らない事情で寝不足状態になったとか、決して言えない。


「疲れた……」

「おお、俺もだよ……」


 仕事が終わると、案の定二人とも灰になっていた。


 そういえば、泥棒の件はどうなったんだっけ?


 そんな事も思い出すが、疲れて何も考えたくなかった。

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