多様性とご近所の謎(12)
教会を出た二人は、アリスの家である荷島家に向かっていた。
そろそろ荷島家の門が見えてくる頃だった。いかにも金持ちそうな立派な門も見える。
「それにしても、今の保健体育って過激なんだな。僕みたいに一生縁のない人もいるんだから、そんなリア充に優遇しなくてもいいのに!」
なぜか豊はこの件にイライラしているようだった。確かに地雷のような話題だろう。
「まあ、そんな一生縁がないとか言うな」
隣の豊を励ますが、自分で言っていて虚しくもなってくるものだ。
「奇跡が起こって石田ゆりことも結婚できるかもしれないぜ? 俺らのガッキーは星野源のものに確定しちゃったワケだからなー」
「そうか。そう思えば希望があるぞ! 僕は石田ゆり子さんを永遠に幸せにします!」
「うん、希望だけはあるわな……。希望だけだけど」
そんな冗談を言いつつ、荷島家の門についた時だった。
あろう事か第一容疑者のアリスがちょうど門から出てきた。
黒髪ロング。清楚なワンピース姿のお嬢様。顔立ちも美人だ。このルックスは、前だったら腐女子とかBLとかには結びつかないが、母の話を聞いた後には、す不思議と違和感がない。むしろ、思春期特有の性への潔癖さを拗らせていると思うと、普通に見えた。美人お嬢様も、普通の人間だと親近感すら持てる。
「ちょ、あなた達何か?」
アリスは手に持っていたスマートフォンを落とす。ケースはBLアニメのものだった。腐女子というのは、確定だろう!
「ごめんなさーい!」
そしてスマートフォンを拾うと、逃げるではないか。これは犯人である事を白状していると言って良い。
「待て!」
走って逃げるアリスを追いかけた。しかし、相手は体力が有り余る中学生。かなり早い! 誠はすぐに息切れしていた。
「逃がさないぞ!」
一方、豊はスピードを上げていた。そういえばレモネードの一件の時、豊は脚が速かった事を思い出す。
誠を放置し、スピードをあげ、田舎道を駆け巡る。デブが走るのが速いってどういう事か? 単なるデブでがない。俊敏なイノシシのようだった。
そんな豊よりワンテンポ遅れ、どうにか誠も彼に追いついた。
そこは雑木林の前。雑木林は夕陽で濃いオレンジ色に染められていた。あと一時間ぐらいで夜になるだろう。
そこに半泣きで謝るアリス。そしてアリスを捕まえてドヤ顔している豊もいた。
「わーん、ごめんなさい。もうしません!」
汗と涙でぐちゃぐちゃになったアリスを見ていると、怒る気持ちも薄れてきた。アリスは子供。彼女にとっては、他愛のないイタズラだったのかもしれない。そう思うと、警察に突き出す気にもなれない。家を覗いていたという被害も、大きくはない。
だからと言ってこのまま荷島家に返すのも違う気がした。
「とりあえずウチに来るか?」
家で事情を聞くのが、一番な気がした。それに今日はまだろくな食事をしていない。豊の腹もぐーと鳴いている。イノシシかた豚に逆戻りのようだ。
「もう泣くなよ。飯食って、元気出せ。そんで、事情を聞くが、良いか? 話してくれるか?」
できるだけ目元を緩めて誠はいう。自分の三白眼で睨むのは、違う気がした。
「う、ええ。事情を話します」
その言葉にホッとした。誠は基本的に性悪説だが、根っから悪い奴はいないと思う。アリスも根からのサイコパスには見えなかった。




