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無敵になれない僕ら(1)

 田中誠の働くkonozon配送センターは、街の沿岸部にあった。この辺りは似たような配送センターが立ち並び、民家や商業施設などは少ない。


 海沿いにあり、津波がきたら一発アウトな土地にもあったが、都心部から少し離れた所にあるこの場所でも、働くものは少なくない。深夜一時過ぎも変わらずに仕事があり、誠も例外なく、汗を流しながら働いていた。


 誠が配属された部署は、トラックから配送されてきた荷物を開梱し、スキャンで在庫登録後、他部署に流す作業を担当する。


 上下二層式のベルトコンベアが何本かあり、荷物は絶え間なくやってくる。上段が運ばれてきた段ボール箱。下段が登録し、商材を入れたコンテナを流す。


 ベルトコンベアは絶えず流れ、要領の良さが求められる。体力はもちろんのこと、素早さや的確な判断力、安全への配慮も求められ、一概に単純作業とも言えない仕事だった。


 倉庫内は、コンクリートが剥き出し。見た目も全く地味で、変わり映えのしない風景だ。飽きっぽい人間は、拷問のような場所かもしれない。


 そんな中、誠は作業着姿、手は軍手、頭にタオルを巻き、完全な作業用のスタイルで、黙々と仕事をこなしていた。


 ベルトコンベアにそって作業ブースが割り当てられ、pcやバーコードの設備も揃っていた。ベルトコンベアの性質上、一番端の作業ブースが仕事量が必然的に多くなってしまうのだが、今日は誠がその担当だった。ブースの場所は基本的に選べず、朝礼時に上司から指名され、そこにつくのが普通だった。この仕事だけでなく、ブース周辺の段ボールの処理、掃除、コンテナの回収や配布という仕事もある。これは、この部署の中で一番キツい仕事でもあり、通称「罰ゲーム」と言われていたが、どこに配置されるかは全て運だった。配置ガチャとも言えよう。


 部署は数十人ぐらいの人が働いている。正社員は紺色のバッジ、誠のような下っ端で作業する者はグレーのバッチを胸につけているにで、一目瞭然。深夜の夜勤という事もあり、ベルトコンベアのブースはあまり埋まっていない。男女比は半々、年齢もまちまちといったところだろうか。誠のような地味な雰囲気の男も多いが、金髪のヤンキー風の女もいる。この会社は服装などは完全に自由。正社員でもピンクや紫に髪を染めているものもいる。もっとも彼らはブースに入るというよりは、その指導やpcを使って生産性を計算し、作業よりも管理するのが仕事だった。


「田中さん、要らない段ボール回収しまーす」


 誠は、仕事に熱中していると、ついついブースに空の段ボールが溜まってしまう。定期的に下段のベルルトコンベアに流すの必要があったが、優先順位が低い作業なので、ついつい忘れがちだった。


 そこに同僚の佐藤豊がやってきて、段ボールを回収していった。


 よく罰ゲームの仕事をやっている運のない男だ。見た目もぽっちゃり、いやデブ。いつも変なシャツを作業着代わりにきていた。年齢は四十ぐらいだろうが、天パで髪質は悪そう。それでも禿げてはいないし、むしろフサフサ。顔もよく見ると目がぱっちりとし、整ってはいる。しかし、デブ。首周りは、顎か頬か首なのかよくわからない。タプタプしてる。それに姿勢が悪く、話し方も語尾は変? 


 この部署というか、配送センターが全体的に癖の多い連中が多いのだが、豊はその中でも上位にいそうなタイプだった。良い意味ではなく、悪い意味だが。


「おお、ありがとうよ」

「いいえー」


 豊はふっと笑顔を見せ、段ボールを抱えながらゴミ捨て場の方へ行ってしまった。


 豊みたいのも弱者男性っていうのか?


 誠は自分の事を棚にあげ、仕事もちょっと忘れながら思う。あのルックスだと彼女もいないだろうし、給料は自分と同じようなものだ。それにあの話し方は、癖があるというか、何か障害がある可能性もあるかも。あの弱者男性診断サイトだったら、かなり最強の方に診断されそうだ。


 まあ、今はどうでもいいか。


「田中さん! 生産性!」


 そこに上司の熊木紫乃から怒号が飛んできた。紺色のバッジをつけている正社員で、誠のような下っ端の監視、いや、監督をやっている女だった。年齢は大卒すぐぐらいだろうが、髪はピンクに染め、豊と似たようなデブ。いや、ふくよかな体型の上司だった。見た目通りにキツい性格で、生産性を盾に下っ端連中をいじめているような節がある。他の社員はそうでもないので、マニュアルとかでやっている可能性も低そうだ。


「わかりましたよ!」

「全く、佐藤も生産性低くて嫌になるわ」


 熊木から舌打ちされた。しかも、豊と一緒にされてしまった。


 今日は熊木がいつも以上に不機嫌で、同僚で大人しそうな雰囲気の女や豊に当たり散らしていた。基本的に大企業でホワイトなkonozonだったが、ここだけブラック臭が漂う。


「テキパキ働け!」


 再び熊木が吠える。


 わかってるっての!


 誠はイライラしつつも、仕事に集中し、送られてきた段ボールを開梱し、バーコードを読み取り、コンテナに詰め、再びベルトコンベアに流す作業を繰り返した。


 同じ作業を延々と繰り返す。熊木の怒号をBGMにしながら。


 鈍臭い豊はずっこけ、コンテナの山を崩したりしていた。ますます熊木はブチギレ、豊に当たりが強くなっている。


 一瞬だけ、そんな豊と目があう。少し目が潤んでいた。泣きそうになっているのか。


 まあ、気持ちはわかる。ここは仕事というよりは、奴隷。誠も頭の中では何度も古代エジプトのイメージをしていた。


 果たして出エジプトできるのか。天からマナは降るのか。海を割ったモーセがいるのか、わからない。


 こうして夜は更けていった。


 深夜一時。


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