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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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多様性とご近所の謎(6)

 時子の家から他に何軒かご近所を周り、引越しの挨拶は無事に終了した。最後の方は豊も堂々と大きな声で挨拶出来るようになり、短時間でも成長しているようだった。空気読めなく発言をした時は、誠が必死にフォローを入れたので、骨が折れたが。


 こうして挨拶周りが終わると、家に帰る。引越し蕎麦も一つ余ってしまったので、今日の昼にする事にした。豊は聡の家でクッキーを食べすぎてゲップをしていたので、小盛りでいいだろう。キッチンに立ち、手早く蕎麦を茹でて作った。今日は春の割に暑いので、冷たいざる蕎麦にする。ネギと刻み海苔だけをトッピングにしたので、いかにも手抜きっぽいが、茹でたり冷やしたりする作業は案外めんどい。


 そんな誠は、キッチンに立つ女性の気持ちはよくわかるつもりだ。結婚したら、積極的に料理を作りたいと思ったりする。それでも女にモテた事はなく、DVやギャンブル男がモテているのは、解せぬ。全く意味不明だ。


「蕎麦できたぞ」


 そんな事を思いつつ、つゆも準備してリビングに持っていった。豊はリビングのテーブルの前で大仏のように胡座を組んでいる。テレビを見て大笑い。少しは手伝っても良いんじゃないかと思う。家事しない夫を持つ主婦の気持ちがよくわかる。もっとも最初に役割分担を決めたわけなので、文句はいえない。


「蕎麦か」

「がっかりしてね? 嫌なら食べなくて良いんだよな?」

「いやいや、食べます。田中くん、ありがとう!」


 こうして二人でざる蕎麦を食べ始めた。といっても話題もなく、蕎麦を啜る音だけが響く。今日の豊は挨拶出来るようになり少しは成長していえうようだが、誠のような知り合い的な関係には、人見知りしているのかもしれない。初対面はいけるが、あとは人見知りになるタイプがいるとネットで見たことがあったが、豊もこれかもしれない。


 テレビもついていたが、あまり面白くはない。新婚カップルが出てきて惚気話をする「新婚さん、こんにちわ!」という番組がついていたが、いけてない感じの男女が出てくて、面白くない。しかし、こんな地味な感じの男女も結婚できていると思うと、誠は少しショックだ。別に強い結婚願望はないし、自分のスペックも自覚している訳だが、微妙な気分だ。一方、豊は笑いのツボが著しく低く、この番組に大笑いしていた。


「さて、次は今の時代にぴったりな多様性のあるカップルです!」


 テレビの司会者がそう言った後、男二人のカップルが出てきた。思わず誠も食いつく。


 二人ともBLアニメから出てきたかのようにイケメンだった。一人は元モデルで、金髪のイケメン。片方は弁護士で知的そうなイケメンだった。二人ちも高そうなスーツや腕時計がよく似合い、BL世界から召喚されたみたいだ。司会者の隣にいる女性アシスタントは、頬が赤くなっているように見えた。


「うわ、なにこの二人。めっちゃイケメンじゃん」

「マジでBLっぽいな」


 無言だった豊も誠もテレビ画面に食いつく。カップルや多様性に興味があるというよりは、露骨なルッキズムの悪趣味さに目が離せない感じだ。


 その後、二人の馴れ初めも紹介され、周囲の反対を押し切り、同棲していく物語は、ドラマチックでもある。ちなみに二人は家柄もよく、金持ち。


「ッチ」


 誠は舌打ちを打っていた。何が多様性だ。結局、顔・金・家柄の三大差別を見せられ、1ミリも同情したくなくなってきた。例え差別されても、これだけルックスが良ければ、応援する女達も多いだろうと思う。


 こんな風に意地が悪い事を考えてしまうのも、誠の育ちに問題があるからだろう。「親のせいにするな」と思いたいが、生まれ育った家で、ある程度は未来の収入や立場が決まる。こんな汚い事実は誰も言わないが、公然の秘密、暗黙のルール。


 ずっと底辺で砂を噛んでいた誠は、テレビの中にある「差別」は頭にお花が咲いているようにしか見えなかった。どう見てもこの二人は、マイナリティに属する弱者には見えない。むしろ、こんな風に理解される強者側に見える。


 晶子の事も思い出す。あのクソガキも露骨な容姿差別をしてきた。


 世の人は、目に見えるわかりやすい差別には寛容だ。一方、「弱者男性」は、踏みつけられても当然のように扱われる。そう思うと、誠のキツネ顔の目はいつもより鋭くなってしまった。


 一方、豊は。


 なんと目元をウルウルとさせ、テレビの中のマイノリティカップルを応援していた。


「差別に負けるな!」などと言い、純粋に応援している件……。


 やはり、心根までは腐っていない男のようだ。晶子に関しても冷静だった本当の理由も何となく察してしまう。


 純粋なのだろう。良くも悪くも子供っぽい男だ。でも、純粋にテレビを間に受け応援している豊は嫌いではない。心の中でグズグズと悪い考えに囚われていた自分が恥ずかしくもなってきた。


「お前、案外良いヤツだな」

「だって僕もルックスや年収で差別されるし。LGBTとかよくわからないけど、その気持ちだけはわかる感じする」

「テレビだからシナリオあって盛ってるぞ」

「それでも、悲しんでいる人は少ない方がいいと思うよ……」


 しみじみと呟き、豊は蕎麦を完食していた。この子供みたいの純粋な豊を見ていたら、自分は恥ずかしくなってきて下を向きたくなる。


 もっともアラフォー男がピュアというのもどうかと思うが、誠が捻くれ過ぎていたのかもしれない。

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