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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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多様性とご近所の謎(5)

 町内会長の原田家を後にし、誠たちは、時子の畑の方まで歩いていた。県道から再び田舎道の方に入り、歩いてきた道を戻る形だ。時子の家や畑が、誠の家から一番近いのだが、色々とこの人はハードルが高そうなので、最後にとっておいた。


「それにしても、あのクソガキ腹立つ」


 原田家から去った今も、誠の腹の虫は治らない。三白眼のキツネ顔は、さらにとっつきにくいもののなっていたが、本人は気づかない。


「まあまあ、女ってそんなもんさ」

「ぜいぶんと達観してるな。ルックスで差別されたんだぞ」


 一方、豊の方はこの件では全く動じていなかった。豊のクマ顔は、実に涼しいものだった。


「僕は、女にはもう期待していないのさ。もう母の事で充分、女の悪いところは見たから」

「そんなもんか?」

「そうだよ。女は言うほど可愛くもないし、優しくもない」

「アリスみたいな美少女はどうよ?」


 我ながら意地悪な質問だと思ったが、豊に女に興味があるのか気になる件だ。まさか本当にLGBT的な何かだったりするか? ちなみに誠は芸能人では新垣結衣が好きだ。普通に異性愛者だと思う。


「僕はロリコンじゃないよ」

「好きな芸能人は?」

「石田ゆり子、吉瀬美智子、あと松嶋菜々子は昔から好き〜」


 そう語る豊の目は、ちょっと嬉しそう?


 とりあえず異性愛者ではありそうだ。しかも熟女好きだったとは。ロリコンじゃなくてホッとしたが、意外と理想が高そうだ。身の程知らず、高望みなんて口が裂けても言えないが、夢を壊す気にもなれなかった。理想が高い故に、余計に女に絶望感があるのかもしれないが。そして達観してしまってるのだろう。万が一女と付き合える事になったら、とんでんもない事になりそうな悪寒がした。


 こうして歩き、時子の畑の前につく。無人野菜販売所に、キャベツ、セロリ、菜の花などを並べている時子の姿があり、声をかける。


 無人野菜販売所は、その名前の通り、貯金箱にお金を入れてくださいとあるだけで、店員もいない。もちろん監視カメラもない。悪い人にとっては、取り放題の販売スタイルだが、性善説で運営されていた。小さな小屋のような場所に、春野菜がたくさん詰め込まれている。


 豊は、この無人販売スタイルに驚き、目を丸くしていた。生まれて初めてこんな販売スタイルの店を見たらしい。


「泥棒とか来ないんですか?」


 よっぽど無人販売に驚いたのか、大興奮で時子に質問しまくっていた。時子も時子でまんざらでは無いようで、ドヤ顔で説明したが、突然ギロリと目を光らせる。


 一見、作業着姿の農民だ。背も曲がったおばあちゃんでもあるが、ご近所の噂も大好きだ。初対面の豊を見定めるような視線を送っていた。


「ちょいと、田中さん。彼はどなた?」

「コイツは、俺の同僚でー」

「佐藤豊です」


 豊は、時子の視線には、あまり気づいていないようで、ナチュラルに自己紹介していた。


「実は色々あってコイツと一緒に住んでるんですよ。これ、引越し蕎麦です」

「あらまあ、田中ちゃん、ありがとう! って、え、一緒に住んでるってどういう事?」


 時子に引越し蕎麦を渡したが、この話題にグイグイ食いついてきた。


「え、まさか今流行りのLGBT的な?」


 しかも大興奮で他人のプライベートに踏み込んでいる。都会ではあり得ない光景だろうが、田舎ではまあまあよくある事だ。


「違いますよ。僕は石田ゆりこが好きですから」

「あら、彼女は綺麗よね。私も石田ゆりこの似てるって言われるのよ。あはは!」

「えー、全く似てないですよ。獅子舞に似てると思います」


 おい、ちょっと待て!


 空気読めなすぎ! 何でここで正直に話すか?


 誠は豊の空気の読めないところに、頭を抱えそうだった。ここはお世辞でも「(同じ女性である部分は)石田ゆりこに似てますね」と言うべきでは?


 確かにちょっと獅子舞に似てる気がするが……。誠は吹き出しそうになり、口の中を無理矢理噛んでいた。


「やだ、この子正直すぎて面白い!」


 時子はこんな豊に怒ると思ったが、意外でもそうではなかった。バシバシと豊に肩を叩き、面白がっているようだった。噂好きのご近所さんで、ちょっと警戒していたが、それは誠の勝手な心配だったのかもしれない。


「そうだわ、うちに小麦粉余ってるのよ。持っていって」


 しかも小麦粉や菜の花、キャベツなどの野菜もどっさりと貰ってしまった。


「LGBTの差別に耐えて頑張ってね!」

「いえ、時子さん、何か誤解してません?」


 それは、誤解されたままだったようで、誠は思わず突っ込むが、なぜか時子と豊は気があったようで、大笑いをしていた。意外とおばさん受けは良いのかもしれない。確かに豊の顔は、っとっとおばさんっぽい。豊は挨拶できないと不安だったが、それも考えすぎだったのかもしれない。多少コミュ障で、空気が読めなくても、豊の心根は腐っているようには、見えない。結局そこがあれば、人間関係はなんとかなるのだろう。


「あ、そうだ。田中ちゃん、この辺りにいる泥棒の噂聞いた?」


 帰りがけ、時子からそんな話を聞いた。そう言えば少し前、この辺りに泥棒がいるという噂も聞いたが、すっかり忘れていた。


「いえ、忘れてました」

「泥棒なんてあったの? 僕は知らんな」


 豊も初耳だった。


「まだ捕まってないという噂よ。一体誰なのかしら」


 時子はため息をつく。


「この野菜とか、少し盗まれてるっぽいのよね」

「マジですか?」


 これには誠も驚いた。てっきり性善説で運営されていると思っていた。


「まあ、悪いヤツはどこにでも居るわ。この野菜もこの辺りの人へのサービスで売ってるしね。別に怒っちゃいないけど、気になるのよね」

「早く犯人が捕まると良いですね」


 豊は心底同情しているようだった。


「そうだな……」


 誠も頷く。


 泥棒が、どこにいるかは不明だが。そういえば、さっき豊が見た人影は、何か関係があるのだろうか?


 なんだか悪い予感がしていた。

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