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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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多様性とご近所の謎(2)

「髭それ! 髪の毛とかせ!」


 洗面所の誠の怒号が響く。


 今は、近所に挨拶しに行くために身支度していたが、豊のそれに時間がかかっていた。あろう事か寝癖をつけて、髭も剃らず、部屋着のまま行こうとしていたので、洗面所に無理矢理引っ張って行き、注意していた。


「ママに叱られたりしなかった? っていうか、会社の面接とかどうしてたのさ?」


 誠は呆れつつ言う。洗面所を綺麗に使い。散らばった水を拭いているのはいいが、一体どうしてこうなんだ……。


「いや、母はそういうの注意しなかったな。ありのままの豊ちゃんでいいってさ。母がハマってるカルトの教祖も『ありのままでいいよ』とか言ってるらしい。だから、母は金を貢ぐだけで、努力しない」

「うん、そこまで理解してるんだったら、身支度整えようぜ……?」

「わかったよ」


 とりあえず豊の顔や髪は清潔感ある感じのまとまったが、今度はスーツで行くとか言い出した。それはやりすぎだ。普通にジーンズとパーカーやシャツで纏めろと口うるさく言い、誠は豊のママになった気分になり、行く前から疲れていた。着替えてきた豊は、シャツを着ていたが、「happy Friday!」というロゴは描かれている。一体こんなシャツどこで売っているのだろうか。突っ込むのにも疲れたので、シャツについては、諦める事にした。どうせ他にろくな服も持っていないだろう。


 誠も身支度を整え、引越し蕎麦を持ち、さっそく二人でご近所に挨拶しに行く事にした。


 外は気持ちの良いぐらい晴れていた。空は澄み、綿菓子のような淡い雲が綺麗だった。それが田んぼの水面に反射し、長閑で平和な風景だった。こうして田舎のルールに則り、挨拶しに行く事になった誠だが、こんな風景は都会では味わえないだろうと満足だ。


「さて、さっそくあの荷島さんの家から行こう」


 誠は少し遠くに見える大きな家を指刺した。


「わ、大きい家じゃん。こわ!」

「アラフォーおじさんが怖がっても気持ち悪いぞ。って言うか荷島さんとこは、金持ちっぽいけど、親は仕事であんまりいない、兄弟二人しかいない。しかも兄の方はニートだ」

「ニート! 仲間じゃん! よかった!」


 豊は半泣きで喜んでいた。誠自身も、荷島家の事はよく知らないが、ニートの兄は、温厚そうな人物だった。このご近所の中では、荷島家が一番ハードル低く、豊も挨拶できるだろう。


 二人で田舎道を歩き、荷島家の前までつく。立派な門構えの洋館が見える。明治大正時期にアメリカ人の宣教師が住んでいた家らしい。この田舎では、珍しい大正ロマンっぽいオシャレな家だ。大きく、庭も広く、一目で金持ちらしいとわかる。


「そういえば荷島って珍しい苗字だな。確か政治家にもいた記憶があるけど、親戚?」


 チャイムを押す前、豊は表札を見つめながら呟く。


「さあ。そんな噂は聞いたことないし、親戚だったら、何なん?」

「まあ、別に関係ないか」


 豊は納得し、チャイムを押す。すぐにニートの兄が出てきた。確か名前は、聡だった記憶がある。ニートらしく、上下とも薄汚れたジャージ姿で、髪の毛も雑に一つに括っていた。年齢は三十歳ぐらい。誠や豊よりは背が高く、猫背が目立つが、顔つきはかなり温厚そうで、豊はホットしていた。むしろ、同類と会えたような表情だ。確かに子供っぽい雰囲気は共通点はある。


「田中さんじゃないですかぁ。え、引越しの挨拶ですか。じゃあ、客間でも行きましょーかー」


 聡に案内され、荷島家に入る。大きな家というか屋敷に、豊は子供のようにキョロキョロしていた。玄関は、誠も部屋ぐらいの広く、オシャレな自転車やベンチも飾ってある。廊下も高そうなツボや絵画。誠は「実家太いニートいいなぁ」と羨ましい気持ちも芽生えていたが、豊は聡とすっかり打ち解けていた。


 客間でアニメやゲームの話などで盛り上がる、ゲームは誠も好きなので、男三人で攻略方法などで話が尽きない。最初に聡の家に連れて行く誠の作戦は、大成功だったようだ。聡が出してくれた紅茶やクッキーも美味しい。ソファもふかふかだ。


「そうだ、聡さん。これ、引越し蕎麦です」


 話に夢中になり忘れかけていた引越し蕎麦を渡した。


「わ、これkonozonで評価高かったやつじゃん。ありがとう」

「聡さん、ご存知でした?」


 従業員割引を使った事は口が裂けても言えないが、とりあえず聡には喜んで貰えたようでホッとした。豊もちゃんと挨拶できたし、聡とも打ち解けられてよかった。これは引越しの挨拶周り成功か?


 誠はちょうどそんな事を考えた時だった。客間に妹が入ってきた。


「ちょっとお兄ちゃん、誰? うるさいんだけど」


 聡の妹・荷島アリスだった。確か中学二年生の十四歳だ。このあたりの公立高校ではなく、都心の私立に通っている。駅やバス停などで、オシャレなセーラー服姿のアリスはたまに見かけ、挨拶した事がある。


 黒髪ストレート。猫のように鋭く、切れ長の目。細く手足もスラっと長い。どこからどう見ても、美少女だった。声や仕草も品がある。聡の隣に座ったが、背筋がピンと伸び、バレエか何かをやっていそうな体型だった。今は黒地のワンピースという服装だ。地味で芋臭い中学生が着たら、公開処刑になりそうだったが、アリスはよく似合っている。ゴスロリっぽい服装も似合いそうだ。


 豊はそんなアリスを見て、明らかに怯えた目を見せていた。確かに得意なタイプではないだろうが、君はアラフォーおじさん! 頑張れ!と誠は心の中でエールを送るだけにしておいた。


「アリスちゃん、中学生だっけ? 勉強どーか?」


 一方、誠は中学生なんて美人でもクソガキだと思う。子供扱いしながら、フランクに会話をする。


「勉強は頑張ってます」

「アリスは学年トップだよ」

「そうよ、ニートのお兄ちゃんがいるから、私が勉強して、将来は起業でもしないとね」


 アリスは見かけ通り、かなりしっかり者らしい。一方、聡や豊はヘラヘラと笑い、格差を実感。


「ところで、そちらの方は?」


 アリスはお茶をゆっくり啜ると、豊に目を向けた。豊は緊張しながらも、自己紹介した。


「えぇ、一緒に住んでらしてるのねっ?」


 なぜかアリスは、飲んでいる紅茶でむせていた。ガシャンとお嬢様らしく無い音をたてて、カップをソーサーの上に置いていた。このカップは、取っ手が繊細な作りで洗いにくそうだった。いかにも金持ちの家にあるような優雅なカップだったが、アリスはなぜか雑に扱っていた。


 動揺しているのか?


 誠は極貧生活の出身だ。いじめや底辺非正規の労働の現場で鍛えられてきた。人が嘘をついたり、後ろめたい時の表情が何となくわかるが、アリスはそれとそっくりな表現を見せていた。


「いえ、ごめんなさいね。中間テストもあるので、勉強してきますわ」


 アリスは、そう言い残すと、そそくさと客間を後にした。


「うちの妹、ちょっと変わってるところもあるからさ。気にしないで」


 兄の聡は穏やかな表情でフォローを入れていたが。誠は首を捻りたくなった。


 一方、豊はアリスがいなくなると、ガツガツとクッキーを食べ、紅茶を飲み干していた。苦手なアリスがいなくなってホッとしたらしい。


 幸せそうにクッキーを食べている豊を見ながら、ため息が出そうだ。


「豊くん、クッキーおかわり持ってこようか?」


 聡は気を遣って、クッキーを皿いっぱい持ってきた。


「聡くん、ありがとう!」


 再びガツガツと食べているつ豊を見ながら、誠はこう思う。


 意外とこの男、メンタル太いな!


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