プロローグ
弱者男性とは、独身・貧困・障害など弱者になる要素を備えた男性のことである。この言葉は、マジョリティであり強者であるとされる男性の中にも、恵まれない者や不幸な者がいると論じるときに用いられる。2010年代からSNSを中心に使用されるようになった。
(ウイキペディアより引用)
「もしかして俺って弱者男性?」
田中誠は、スマートフォンでSNSを見ながら呟く。
SNSではスマートフォンのゲーム、ちょっとした投資の話題を適当に呟いていたが、「弱者男性」という言葉が目に入ってくる。
急いで弱者男性の定義を調べ、確認する。恐ろしい事に診断サイトまでできていた。誠は冷や汗を垂らしながらも、診断を受ける事にした。
Q身長は?
A165センチ
Q容姿は?
A吊り目の三白眼が特徴的だ。よくキツネ顔って言われるぜ。
Q学歴は?
A中卒だ。父親がDVギャンブル男で母と離婚。以来二人で極貧生活をしてきた。という事で高校に行けず、バイトばっかりやってた。
Q年収は?
う、盛って300万円ぐらいかな!
今はkonozonっていう通販サイトの配送センターで働いてる。夜勤は割と稼げるね。
Q家は?
孤独死した親戚の家を貰って住んでるね。まあ、駅からちょっと離れて不便だけど、広いし、住み心地はいいね。雨漏りするボロ屋だけどな!
Q恋人は?
=年齢だよ! 悪いか? ちなみに俺は36歳な。もう魔法使いどころか、天使かなんかじゃねーかっていうレベルだね(笑)
診断結果。
弱者男性A。
あなたは弱者男性レベルAです。病気、怪我、障害などが無い事に感謝し、老後資産を計画しましょう、って何だコレ?
診断次第では「最強弱者男性レベルS S」も出るらしい。それよりはマシだろうが。ちなみに犯罪歴があるとそうで出るらしい。
弱者男性だけでなく、「無敵な人」診断というのもあった。無敵な人もネットで騒がれている言葉だそう。弱者男性として困窮し、ヤケクソになって犯罪に手を染めるものが、「無敵な人」だという。万引きなどの軽犯罪で止まらず、無差別に人を襲ったり、政治家や芸能人をターゲットにするものもいるという。
誠は笑えなくなってきた。単なるSNSの流行語かと思ったら、ガッツリと社会問題ではないか。去年は元総理大臣が襲われた事件もあった。あの犯人も宗教絡みで困窮した派遣社員だったと事も思い出す。
だったら、どうすれば?
日本は社会構造上、一度落ちたら這い上がるのに難しい所だ。日本人は弱者に世界一冷たい国という意見もある。実際、誠もシングルマザーの子供として極貧生活を送った記憶がある。高卒でもないと、ろくな仕事につけず、バイトをしつつ、工場や配送センターを転々としていた。正社員になった事もない。今は一応契約社員としてそこを目指してはいるが。
ふと、同じ職場にいる同僚何人かの顔も浮かぶ。あいつらも弱者男性の定義に当てはまる。上司に嫌がらせみたいなものを受けているものもいるし。
これは他人事ではないぞ。
誠は何か出来ない考えはじめた。確かに自分もその定義に当てはまるが、だからと言って自分だけ助かりたいとか思わない。むしろ、同じ立場の男同士で一緒に助かる道はないか?
確かに誠は弱者男性の定義に当てはまるが、心までは腐ってはいなかった。無敵な人にも興味はない。
「よし、弱者男性救済方法を考えるぞ!」
こうして誠は、思想に暮れながら、休日を過ぎしていた。
この物語は、こんな誠と、もう一人の弱者男性・豊の謎らけの日常を綴ったものである。
強い男も、可愛い女も出てこない。むしろ、逆だ。スローライフ風の日常でもなく、なぜか事件に巻き込まれる。
それでも彼らにとっては愛おしい日常。一人なら弱いが、二人以上なら強く生きられる気がする。
そんな物語だ。
今、その物語の幕が上がる。




