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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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番外編⑦『謝罪したいパロディ回 前編』

番外編⑦『梅島太郎 前編』


半年前。学生相談室にて。


「すみませんでした!」


開口一番謝罪から入った幸生を、呼び出した張本人である熊本は不思議そうに見た。


「どしたの急に?頭なんか下げちゃってー」


「本当に、すみませんでした!!」


「声デカ・・・」


熊本は僅かに眉をひそめ、何故そこまでの熱量で謝罪するのかと理由を問う。すると、幸生はつと視線を逸らした。


「いや・・・急にこの場を借りて謝罪しなければならない衝動に駆られまして・・・」


「病気かな?別に僕は怒ってないよ。僕はね?」


「う・・・そ、それで、ご用件は。まさかこの前受けた最終評価試験に何か不備が?」


幸生は熊本に怯えた目を向けるが、彼は笑って右手を左右に振った。


「違う違う。試験の話ではあるんだけど、君の解説次第で加点しようかと思って」


「・・・どーせ方便でしょ。ただ私が遊び心を加えた解答したからツッコミたいだけですよね」


S評価と聞いて一瞬鼓動が跳ねるが、すぐに苦々しい顔で溜息を吐く。数日前に受けた『こころの文学』の最終評価試験。幸生はメインの設問とは別に、おまけとして追加の問題が出されていたのを思い出す。


「ふざけたのは認めるんだ・・・いくらボーナス問題だからといってはっちゃけすぎでしょ」


「ふざけてないですけど。ただ書き進めていく内に文字数が多くなっちゃって・・・そこは反省してます」


腕を組んでうんうんと頷く幸生を見て、全く反省している人の態度じゃないと熊本は手で顔を覆った。


「いやそこじゃなくて。何で『推し』という言葉についてあなたが思うことを自由に書いてくださいっていう問題に対して沖谷さんが――」


ここで熊本は頭痛に耐えるように額を抑え、糸目を僅かに開く。


「――『梅島太郎』ってタイトルで物語を書き上げたの?」


「いや、普通に書いたんじゃつまんないかなって・・・自分で言うのもなんですが、渾身の力作です!」


熊本はドヤ顔で鼻を鳴らす幸生を見て減点したい衝動に駆られるが、すぐに自分が淹れたハーブティーを飲んで心を落ち着かせる。熊本は改めて、彼女が書きなぐった物語に目を通すことにした。


(=^・・^=)

昔々、ある所に梅島という娘がおりました。梅島が近所のコンビニをハシゴして推しのグッズ(クリアファイルとポスター。全3種類コンプ)を入手した帰りのことでした。


「おやつ買ったらファイルとポスター付いてきたラッキー!」


という名目で無事今日の推し活を終え、ウキウキで近所の道を早歩きで進みます。暫く歩いていると、道中に数人の子供達と1匹の亀がおりました。


「痛いよー!痛いよー!」


「・・・」


梅島はいじめの現場に目もくれず、スタスタと競歩で素通りしました。亀は慌てて梅島を呼び止めます。


「えちょっ!?待って待って!そこのお方!助けてー!リンチの現場ですよ!痛・・・この餓鬼が・・・!痛いよ・・・助・・・てゃすけて・・・」


声をかけられた梅島は立ち止まり、黙って海洋生物が虐待されている現場を見守ります。亀は突っ立っているだけで何もしない梅島に恐怖を覚えましたが、背に腹は替えられません。諦めずに助けを求めることにしました。


「その選択が後に大量の犠牲者を出すことになるとは誰も想像しなかったのである・・・」


「梅ちゃん!?不穏なモノローグつけてる暇があったら助けて!?」


唐突に亀に自分の愛称で呼ばれ、梅島の顔が豹変します。


「なんで私の名前知ってんの怖っ」


「気にするところそこ!?知りたければ助けろくださいー!」


「は?オメェ亀の分際で何だその態度は!」


殺すぞ!とキレて亀に詰め寄る姿はまるで阿修羅のようでした。子供達はドン引きし、蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。何はともあれ、梅島のお陰で危機が去ったのです。


亀は梅島に羨望の眼差しを向け、お礼に自分の住処である竜宮城に招待しようと考えました。


「ありがとう!お礼・・・え!もういない!ちょ待てよー!」


「何か某ドラマの名セリフ出てきたな」


亀がお礼の言葉を述べるも、「あ」の部分で梅島は亀を見捨てて帰路についてしまいました。


(=^・・^=)

実家にある梅島の部屋にて。


買ったグッズは袋のまま物置にポイッと収納し、梅島はタブレット端末を起動しました。動画共有サイト『Nico・Tube』でゲーム実況動画を観ながらスマホで麻雀ゲームに勤しんでいると、来客のチャイムが鳴り響きます。梅島は麻雀中(オンラインでリアルタイム対戦)の為、当然のようにその場から動きません。


しかし、チャイムは麻雀(段位戦)をしている間鳴り止むことはありませんでした。梅島以外の家族は全員勤めに出ており、対応できるのはベッドに寝っ転がって麻雀をしている梅島だけでした。


――しつけえな。


無事勝利を収め、一息ついた梅島は渋々立ち上がり、玄関の扉を開けます。


チャイムを鳴らし続けていた不届き者は、先程助けた(?)亀でした。


「新聞は入りません」


「亀が勧誘なんかするか!」


「テレビもありません」


「それ払うの親ー!」


「亀に用はありません」


梅島は亀に向かってそう言い放ち、またすぐに扉を閉めようとします。しかし、亀はすぐさま漆塗りの箱を扉の隙間に差すようにして、梅島の行動を阻止しました。


「こちら先程のお礼・・・玉手箱です!本来であれば私が住み込みで働いている竜宮城にご招待したかったのですが・・・せめてこれだけでも、お気持ちとして受け取っていただけないでしょうか」


お願いします!と亀は深々と頭を下げます。ですが下手下手の姿勢を崩さない亀を見ても、梅島の心は変わりませんでした。


「知らない亀からのお礼の品なんて貰えんやろ」


「え゛。いやそんなこと言わずに!渡せって仰せつかってるんですよー!」


(=^・・^=)

「設定について、色々と言いたいことはあるけど・・・」


ここまで読み進めた熊本は顔を上げて、一番聞きたかったことを作者に投げかける。


「どうして梅島は亀が人語喋ってるっていう現実を普通に受け入れているのさ」


「あー。そういえば明記していませんでしたね。亀は亀でも、亀の甲羅を背負った人間っていう解釈で大丈夫です。某仙人を想像してください」


「・・・?」

 

熊本は某少年漫画の主要キャラクターである禿げ頭にサングラスをかけた老人を知らなかった。しかし、ここで脱線させるのはよろしくない。彼は一旦新たに浮上した問題を頭の隅に置いておくことにした。

幸生亀「果たして私は梅ちゃん島太郎を竜宮城に連れていくことが出来るのか!また謝罪の気持ちでいっぱいになった時にお会いしましょう!」

梅島「ワイ自分の部屋大好きやからな(ドヤ)」

熊本「諸々ぶっ飛ばして家凸した時点で割と絶望的ではあるけどね・・・(呆れ)」

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