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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第80話『ニャルラの正体?』

第80話『ニャルラの正体?』


「にー!にー!」


犬のように廊下を駆け回っているニャルラを尻目に再度お礼を言う。というか何で知らなかったんだ?ニャルラの不思議パワーならその人の所在地はおろか、一瞬でその人の元へ移動できそうなのに。


「突然訪ねてしまったのにも拘らず、ご丁寧に対応して下さり本当にありがとうございました。失礼します」


「いや、僕は別に・・・あ、ちょっと待って」


「はい」


門前払いもしくは通報されなかったことに対する感謝の意を全力で言葉に込めると、おじさんは言いにくそうに口をもごもごさせていた。


――何だろう・・・何についてだ!?


「君って・・・もえちゃんの知り合いやったりする?」


「もえ・・・?いいえ。すみません全然知らないです」


「・・・そっか。そうっちゃんね。ごめん変なこと聞いて。水宮さんって人・・・見つかるとよかね」


「はい。ありがとうございました」


もえという名前に心当たりがないことを素直に伝えると、おじさんは残念そうな顔をしていた。この人も何か抱えていそうだな・・・。私はそんなことを考えながら速足でマンションから脱出し、ニャルラと膝を詰めて話ができる場所を探す。するとニャルラが、近くの地方スーパーまで案内してくれた。暑さと緊張で参りそうだったから助かる。


「やーーホットどうなるかと思った・・・」


「にー」


私はそこで購入した黒豆乳を持って、イートーンコーナーに入ってテーブル席に座った。他にも利用者がいるが、電話中を装えば不自然に見えることもないだろう。


「聞かなかった私も悪いけどさ・・・ニャルラが会いたい人ってあのおじさんじゃなかったの?」


『ピポピポーン!』


「水宮さんって人とはどういう関係?」


「にー」


――反応してるってことは・・・本当に、ニャルらはその水宮さんに用事があるってことか。


私は眉をひそめる。仲介役に買って出るのはいいけど、もう少し心の準備が欲しかった。できれば前情報も。そのことを伝えるとニャルラは申し訳なさそうに空中から猫缶を出した。いやいらないんですけど。


リュックを盾にして猫缶を開けると、ニャルラは夢中で食べ始めた。こ、この猫は・・・。


呆れて何も言えなくなった私は、何とはなしにスマホで『戸房 水宮』と調べてみる。すると、『福分連続殺人事件』のニュースサイトが表示された。


「・・・」


――30年前、福分で13人の女性が快楽目的で襲われ、内12名が死亡した事件・・・。でも犯人は既に捕まって死刑執行済みなんだ。


見てはいけないものを見ているような感覚に陥る。それでも、私の指はスクロールを続けていた。


――最後の被害者は戸房在住の女子高生。水宮命(みずみや めい)ちゃん17歳・・・。しかし、彼女の私物と、体内から流れたとされる血痕を残して本人は行方不明・・・?


この事件の加害者である『宮 竜之介(みや たつのすけ)』は女性の腹部を刃物で刺して失血させ、首を絞めて殺すという手口を12回も繰り返したらしい。宮の供述によると、これまで通り水宮命ちゃんを刺して首を絞めようとした瞬間、そこから彼女が消えてしまったらしい。意味不明な現象に理解が追いつかずその場で固まっているところを近隣住民に目撃され、通報。その後警察の力で逮捕に至ったんだとか。


「ニャルラ・・・これ、何?」


「にー?」


ゴトン。スマホが手の支えを失ってテーブルの上に倒れる。缶詰を食べ終えたニャルラは舌なめずりをして私のスマホを見た途端、瞳孔が開いた。


「・・・」


「惨いよね・・・こんな凄惨な事件があったなんて知らなかったよ。ニャルラが水宮さんに会いたがっているのは、この事件と関係があったりする?」


ニャルラのことを知りたい。ニャルラが行きたいところに行きたい。の要望に応えるために、ニャルラは私を戸房まで連れて行ってくれた。


そして、今回の旅の目的は水宮春美さんに会うことだということが分かった。


そこから導き出される、水宮春美さんとニャルラの関係とは?


私は瞳孔を開いて固まるニャルラの一挙手一投足を見逃さず、己の仮説を話してみることにする。


「おじさんに会う前、ニャルラ『めー』って鳴く練習してたよね。それは貴女が人間だった時の名前?ニャルラは、ニャルラの正体はこの、ニュースに乗ってる・・・」


「にー!」


ニャルラが私のスマホの上にスライディングして画面を体毛で隠した。


「・・・」


私は無言でニャルラを見下ろし、そっと頭を撫でる。


「今日本ではね、『異世界転生』っていうジャンルの作品が流行っているんだ。主人公が今まで生きていた世界で死を遂げて、別の世界で生き返ってもう一度新しい人生を送っていくっていうのがセオリーなんだけど」


私は黒豆乳を一気に飲み干す。それでも喉の潤いは満たされなかった。今度はちゃんと量が入っているお茶を買おう。


「水宮命ちゃんが宮によって殺される寸前または殺された直後、異世界転生して30年後・・・不思議な力を持った猫として日本に帰ってきた。ってシナリオを考える私は・・・創作物の読み過ぎかな」


そこまで考えて別の仮説が閃く。私はすぐにさっきの推理を否定した。


「いや、異世界転生・・・というか『転生』にも様々なパターンがあるな・・・。異世界に行かず、現実世界の中で転生する話だって沢山あるし・・・でもそしたらニャルラは30年も猫として生きているってことになるな。それか、転生したけど意識というか記憶?を失っていて、30年後経ってようやく転生前の自分を思い出したとか・・・考えだしたらキリがないな」


「・・・」


「いや、否定してよ・・・全部私の妄想だって言ってよ・・・」


「・・・」


――だんまりか・・・。そりゃそうだよな。私がニャルラの立場だったら・・・いや、そんなの分かるもんじゃないか。


私はニャルラのお腹に手を突っ込み、生暖かくなったスマホを回収する。ニャルラはゆっくりと起き上がり、私の前でエジプト座りをした。


「何で家を間違えたの?ニャルラの力があれば、何でも知ることだって出来るんじゃないの」


『Ignorance is happiness』


――無知は幸福。か・・・。


知らぬは仏、知ったが病、言わぬが花・・・確かに、知らない方が幸せなことは、この世の中にありふれている。勘の良い私のことを、ニャルラは嫌いになってしまったのだろうか。


それでも・・・私は拳を握りしめる。ニャルラが私をここに連れてきてくれたということは、私が信頼に足る人物だからだ。私が好奇心ではなく、心からニャルラに寄り添いたいがためにニャルラの過去に踏み込もうとしていることを悟って。ニャルラはこの街を案内してくれた。自分だけでは不安で行けなかったであろうこの戸房に。そして今日・・・わざわざ8月9日を選んだのにも必ず理由があるハズだ。


「ニャルラが何をしたいのかは分かった。本当ならあのマンションに水宮春美さんがいて、ニャルラがめーめー鳴いて命ちゃんアピールしてあわよくば思い出してもらおうとしたんでしょう?」


「にー」


効果音を聞かずともニャルラが肯定しているのが分かる・・・ような気がした。


「ニャルラは姿を消したり急に現れたり・・・透過したりスマホの遠隔操作や超能力者が使うような能力だって持ってるのに、変身だけはできないんだね。人語も話せない。猫の理から外れまくっているクセに」


「にー」


ニャルラは猫として、水宮家を訪ねるだけで良かったのか。ニャルラは先程から私の言葉に対して「にー」としか返してこない。さっきまで正解の効果音を耳に流してくれていたのに。


――水宮春美さんは・・・ニャルラ・・・水宮命ちゃんのお母さん?それとも姉か妹か・・・。それに、ニャルラがの正体が水宮命ちゃんっていう言質もまだニャルラ本人からもらってないしな・・・。


「・・・ごめん。私には全く関係のない話だよね。今一番大事なのはニャルラの正体を探ることじゃない。嫌われたくないから、これ以上詮索はしない・・・」


「に!にー!にー!」


ニャルラは私の瞳にうっすらと涙の膜が張っているのを見て、慌てて尻尾を左右に振る。そして遅れてスマホからも不正解の効果音が流れ出した。


――泣き落としとか、最低だな・・・。


音を止めて数度瞬きする。クリアになった視界には、不安気に見つめるニャルラがいた。私は深呼吸してニャルラの足元に手のひらを置いた。


「とにかく・・・水宮春美さんを見つけよう。俄かに信じがたい話だけど・・・今更だよね。ちゃんとニャルラが納得のいく形になるまで協力する。途中で怯えて逃げたりしないから安心して。あ、でも通報されたらちゃんと助けてよね」


「・・・に。にー」


ニャルラは驚いた様子で私を見る。そして目を細めて、私の手に自分の前足を置いた。

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