第78話『果たして自分の為なのか』
第78話『果たして自分の為なのか』
佐古神社の境内社『想宮』の階に座り泣く私と、それを隣で見つめている『何か』。
『あの人達が私の誕生日を嫌でも思い出してくれるには・・・こうするのが、っ一番いいんだ。ごめっ、ごめんねえ・・・君がこうして傍にいてくれたのは、決して無駄になっていなかったよ。私の血なんかで良ければ、その後いくらでもあげられるから――』
――何、この記憶・・・。何で私は泣いているの・・・?『君』って誰・・・?思い出せない、思い出せない・・・。
「――谷、沖谷!」
「!」
トリップしていた思考から覚醒すると、浦本先輩が『コイツ大丈夫か?』と言わんばかりの顔つきで私を見ていた。
私は先輩の壁ドンから逃れ、とりあえず謝罪する。
「ぁ・・・すみません。ちょっと・・・」
「――あ、よかったまだおった」
私が頭から手を離したと同時に、安井君と吉室君が顔を出した。決して明るくない表情をしている私達を見て、彼等の笑みが曇る。
「あれ?ごめん取り込み中じゃった?片井先輩が、今なら浦本先輩が飲み物奢ってくれるって・・・」
「いや?普通に世間話してただけだよ。私の誕生日がいつだとか」
「さっちゃんの誕生日?11月15日・・・いい苺の日じゃろ?語呂良いからこれで覚えとるわ」
笑顔を貼りつけてそれとなく聞くと、安井君が即答してくれた。流石SIGメンバー全員の誕生日を記憶して当日に誕生日プレゼントを用意する男は違う。
「成程。いい苺ね・・・だそうです先輩!」
「さっちゃんそれ持つで。浦本先輩!俺と佑太はコーラおねしゃす!」
合点の言った表情で先輩を見ると、彼は無言で私を睨み、安井君と吉室君に飲み物を選ぶよう促す。私が持っている飲み物は吉室君が持ってくれた。
「沖谷は・・・性格クズじゃけど、まぁ・・・クソなりに周りと上手くやっていこうとする努力は認める」
安井君と吉室君が並んで歩いている後ろで、私の横を歩く浦本先輩がボソッと呟く。
――何様だテメェ。お前も大概だろうが。
と、言わないよう。頬の肉を強く噛む。痛い。
「でもな。お前とおると気持ち悪いわ・・・狂いそうになる。これからも大切な人は作らん方がええんじゃね?多分、お前と関わった奴全員ロクな目に合わんで」
「・・・」
外れかけては自然と修復されたタガが壊れ、封じ込めていた先輩に対する悪意が一気に体内を巡り、心と脳を侵食していく。
――あ、もういいや。この人がどんな不幸な目にあっても・・・。呪ってやる。不幸になれ不幸になれ不幸になれ不幸になれ不幸になれ不幸になれ不幸になれ・・・。
私はただひたすら、恨みつらみを心の中で唱え続けていた。人を呪うのに道具や儀式なんて必要ない。ただ強く願うだけで、浦本先輩の幸は無くなる・・・無くなってしまえ。
「ちゃんと聞―とるんか。あとお前男との距離感バグりすぎじゃろ。俺は沖谷のこと嫌いじゃからええけど、他の」「分かってます。ちゃんと聞いてますから」
私は先輩の言葉を遮り、笑顔でドス黒い感情を覆い隠す。彼のことを想って植えた呪いの種がいつか芽吹き、花を咲かすことを願って。
(=^・・^=)
結局、病み飲み会は先輩4人を含めた計9人で行われる運びとなった。その後2年生メンバーは2次会と称して島永君のバイト先であるカラオケ店『スクワッシュ』へと移動し、朝日が昇るまで歌い明かした。
「ただいま・・・おかえり」
「にー」
「あれ。起きてたんだ・・・って冷房つけてないじゃん。大丈夫なの?」
帰路に就けたのは午前7時。死んだ目をしている私を見て、ニャルラは目を細めて不機嫌そうな顔をした。
「だって今日バイト無いから断れなくて・・・!私だってオールは肌にも健康にも悪いって分かってる!けど・・・!」
私はエアコンの電源を入れてすぐニャルラのご飯を用意して、ハーブ達に水をたっぷり注ぐ。弁当箱を流しに置いて、化粧を落としてシャワーを浴び、歯を磨いてパジャマに着替えた。布団を敷きながらニャルラに昨日あったことをざっくり話す。
「今日先輩達と吞みに行ったんだけど、3年生って今の時期行きたい企業をある程度絞って、自己分析とかガクチカ・・・学生時代力を入れたことを文章でまとめてるんだって。凄いよね・・・来年は私もそれやんなきゃいけないんだけど」
「にー」
「そんな感じの話で盛り上がった後、2年生メンバーだけでカラオケ行って、遊べんのは今のうちだーってなってそのままオール・・・」
「に・・・」
「まぁ、ななちゃんも沖谷君も安井君も吉室君も、多分3年4年になっても時間作ってはっちゃけてる気がするけどね」
居酒屋では先輩方が進路に対する不安を煽り散らかし、私達はそれを払拭するかの如くカラオケで歌ったり大学生のうちにしたいことを互いに言い合ったりした。
――遊べるのは今のうち。か・・・。私はあの時やりたいことが咄嗟に言えなかったけど・・・。
この夏は意味のあるものにしなければならない。安定した未来を手に入れるために、自己分析も、思い出作りも、何だってやってやる。目を閉じてあれこれと考えていると、いつの間にか深い眠りについてしまった。
(=^・・^=)
完全復活した午後5時。私は起きてすぐ顔を洗い、意識をしゃっきりさせた状態でビーズクッションの上に座る。そして作り置きの野菜炒めと、卵かけご飯で今日の分の栄養を摂取した。
「さぁさぁ皆さんお待ちかね。夏休みの予定を考えたいと・・・思いまぁす!」
「にー!」
「去年は悲惨だったらしいからな・・・」
苦い思い出が蘇る。去年はバイトと資格勉強に費やした。あとSIGの活動。勿論はるまとサコモで遊んだりカフェで雑談したりしたけれど・・・夏休み明け竹村先生に「さっちゃんは夏休みどこか行ったん」と聞かれ、反射的に「保衣不の皆とボウリング行きました!」と答えたら「近いな(笑)」と言われた。
――(笑)て!あの失笑を私は一生忘れない!今年はもうちょいマシな感じにするんだ!
「に・・・」
「だってはるまは大学の実習と彼氏、シーバーは仕事が繁忙期らしくて・・・!篠木とはこの時期にはまだ出会っていなかったし、病み飲み会もななちゃんが殆どの夏休みを別の地域で過ごしていたから仕方がなかったんだよぉー!」
ニャルラまで私を変な顔で見るので、必死に言い訳を並べる。覇弦さんも、去年の夏は殆ど顔を見なかったような気がした。やはり社会人にとって8月は何かと忙しい時期なのだろう。
「まぁそれは置いといて――ニャルラは何処か行きたいところある?」
「に?」
ニャルラが首を傾げて私を見つめる。私は両指を絡め、気まずげに目を逸らした。決して猫任せなどではない。
「ニャルラと過ごす夏が、最初で最後でもいいようにしたいんだ。あ、これは自暴自棄になっているわけじゃなくて、チャンスは逃すな!的な?来年の夏は就活とかで私のために使うだろうから。私もニャルラが行きたいところに行きたいし・・・知りたいんだ。もしニャルラに所縁のある場所があるのなら、そこに行ってみたい」
「にー」
――ニャルラを知ることがもしかしたら・・・私がありのまま生きるための第一歩に繋がるかもしれない。
そう勝手に期待していると、ニャルラの一鳴きでタブレット端末に地図が表示された。その場所は日本の南に位置する――
「――福分?そこに行きたいの?」
『〇』
「分かった。いつにしようか・・・え、この日がいいの?」
『〇』
シフトを確認すると、ニャルラが指定した日とその次の日は休みになっていた。これならシフト変更せずに1泊2日の旅行ができる。
――この週謎に3連休だ・・・その気になれば2泊3日もいけるけど、どうするか。
「・・・いや、止めとこう。3日目は旅の疲れを家で癒す日ってことで」
「にー」
私は急遽決定した旅行に向けて、泊まる場所や観光地、グルメなどに思いを馳せる。夢中で色々と調べていると時間はあっという間に過ぎていった。そして電気を消した部屋の中、すぐ眠る気にならなかった私はニャルラの寝床の側で体育座りをした。
「ニャルラ・・・私、ニャルラと出会って起きた不可解なこと全て、ニャルラが引き起こしたことだと思ってた。だけど、私が・・・自覚していないだけで、不可解なのは私自身?私がおかしい、というか・・・何かの鍵になっているから、ニャルラが来たの?」
ニャルラは無言ですり寄ってくる。私はニャルラに触れようとした手を自然と後ろに回した。
私は一体何者なんだろう。私が何かしたからこうなっているのか。それとも単純に巻き込まれただけの被害者なのか・・・。後者の方がまだ楽だ。何の責任もないから。
原因は私にある覚えは――ありすぎてどれか分からない。この先に起こる未来が、怖い。
「にー」
「そうだね。もう寝るよ。眠って・・・嫌なことは全部忘れてしまおう」
私は布団に戻るとタオルケットを肩までかけ、目を閉じた。




