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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第76話『春学期終了』

第76話『春学期終了』


私は篠木に焼き肉屋『徐々王(じょじょおう)』の、食べ放題の一番高いコースを奢った。待ちきれなかったのか、肉を注文する前に篠木がプレゼントの開封を始める。私は肉を選ぶフリをして、意識は彼の手元に向いていた。


――大丈夫かなぁぁ・・・親は駄目だったけど、覇弦さんの時は(表では)喜んでくれてたし、やっぱり消耗品にすればよかったか・・・。


篠木は箱にプリントされてあるブランド名を見て、意外そうに呟く。


「――眼鏡?」


「あ、うん。篠木が私に買ってくれたのと同じ店で・・・ブルーライトカットの、度が入ってないやつ。裸眼でも、スマホとかPC見てたら悪くなるって言うし・・・」


説明が尻すぼみ、視線を明後日の方角に向ける。私は彼を直視することが出来ずに、メニュー表が表示されているタブレットを強く握った。


「・・・幸生のと形が違うけど」


「私の・・・ウェリントンタイプも多分似合うと思うけど、何となくスクエアの方がいいかなって思ったんだ。やっぱりよく似合ってる」


篠木はスクエアタイプの眼鏡をかけて私を見つめる。ここがカフェとかじゃなくて良かった。幸い皆肉に夢中で、魅力倍増した篠木にノックアウトされた者はいないようだった。


「・・・ありがとな」


「いえいえ・・・まぁ、気が向いた時に使っていただけたら嬉しいです」


彼の満足そうな笑みにほっと胸を撫でおろす。篠木は眼鏡を外し、箱にしま・・・わなかった。


「別に今はつけてなくてもいいんじゃない?」


「いーんだよ。別に俺の勝手だろ。つーか・・・よく1人で俺に合うフレーム選べたな」


「そりゃぁ分かるよ。篠木の顔くらい、すぐ頭に浮かぶもん」


私は動揺を笑顔で隠し、篠木にタブレットを渡す。覇弦さんに協力を仰ぎ、篠木の代わりとして試着してもらったことは墓場まで持っていこう。


「・・・」


篠木は頬を染め、何かに耐えるような顔つきでメニュー表に指を這わせる。後に大量の肉を運んできた女性店員さんの目をハートマークにしたのは言うまでもない。


(=^・・^=)

――よし。こんなもんかな。


私は解答用紙と荷物を持って立ち上がる。これで今期の心理学の授業は終わりだ。佐古学園大学の最終評価試験は、終わったものから退出可能であることが多い。熊本先生に会釈して、静かに扉を閉める。


――これで私も、明日から夏休み突入か・・・。


リュックを開けても、そこにニャルラは入っていなかった。ならば。と、私はSIG部屋に向かうことにした。夏休みは生徒によって開始日が違う。要は履修している授業で決まるので、昨日から夏休みの人もいれば、テスト期間最終日まで大学にいる人もいる。そして中には――


「・・・」


「・・・」


「お疲れ・・・え。何このお通夜みたいな雰囲気。怪談話でもしてたの?」


「欠席しすぎて、テスト受ける前に単位落としたのが確定した・・・」


「寝坊して教室入れんかった・・・」


――履修したのにも拘らず、テストを受けることすら許されない愚かで哀れな生徒も存在する。しかも割と身近に。


「それでも天下のSIG!?経営学部の顔!?」


私のツッコミにななちゃんと安井君の相棒もといSIGメンバーの1人である吉室(よしむろ)君が反応する。沖谷君と安井君は強者の笑みで(主に沖谷君が)単位を落とした敗者2人をこき下ろしていた。


「ななお言われとるで。折角俺が代弁してやったのに」


「言うて1回じゃろ」


ななちゃんは恨みがましい目つきで沖谷君を睨む。聞くと、彼女が落としたのはSIGの顧問である竹村先生の授業だった。よりにもよって・・・と、私は素直に絶句してしまった。


「ムロもよー。めっちゃ電話したのに全然出てくれんもん」


「午前2時まで雀荘おったから・・・もう自分でも無理!って分かっとった」


堂々と開き直る吉室君の服から煙草臭がした。私は自然と彼から遠い位置にある椅子に腰を下ろし、リュックを膝の上に置く。彼は成愛が通う佐古随一の学力を誇る進学校、『城山朝日(じょうざんあさひ)高校』の出身だ。つまりSIGで一番地頭が良い。その知能を麻雀やパチンコに活かさず、学業に向けて欲しいものだ。


「安井君はともかく、相変わらず沖谷君は単位落としてないんだ・・・」


「今舌打ちしたじゃろオメェ。俺はこんな奴等と違って真・面・目」


「殺す・・・!」


ななちゃんがシンプルな殺意をぶつけるもの当然だ。何故授業中、睡眠やアニメ鑑賞、インストを見て過ごしている生徒の成績が良なのか・・・私も納得がいかない。沖谷君は私よりも駄目人間でいて欲しい。クズ人間ではあるけど。


「折角18時まで残って勉強したのにね・・・他の皆はどんな感じなのかな」


「芹生らーは楽勝って言っとったで」


「そりゃそうだよ。1年の頃は皆真面目にするもんね」


「さっちゃんさっちゃん。皆じゃねぇって」


沖谷君がニヤけ面で私を見る。安井君が困ったように笑い、慰めるように吉室君の肩を叩いたその瞬間、私は失言を自覚した。


「うわぁ違う違う!今のは決してななちゃんと吉室君をディスったワケじゃなくて・・・!」


「ええんよ・・・俺が去年24単位しか取れんかったのは事実じゃから」


「え!?ムロ君24?あたし26!」


「少なっ!!」


「笑っとる場合かこの留年予備軍!」


どんぐりの背比べで草を生やした2人に対して沖谷君が一喝する。便乗して安井君まで笑い出した。笑っちゃうくらいヤバい状況ではあるが、私は全く笑えなかった。2人共親の怒りが怖くないのだろうか。


ここ、佐古学園大学の授業は単位制に基づいて編成されており、週1コマある授業で1単位、2コマある授業を履修すれば2単位もらえる仕組みになっている。それもただ履修登録をすればいいだけではない。授業と試験を経て、担当の先生が定めた合格水準を満たさなければ不合格となり単位はもらえないのだ。


私達経営学部生は卒業までの4年間で124単位を取得しなければならない。1年間で取得できる単位は最大42。先に出来るだけ多くの単位を取得していた方が後が楽なので、1年2年はなるべくフル単・・・履修登録した全ての授業の単位を取得することが推奨されている。


入学してすぐ私達は経営学部長に促され、1年を通して42単位分の授業を履修登録した。それでも、フル単は威張れるくらい凄いことらしい。経営学部の生徒が皆、私や保衣不、安井君のように優秀な生徒ばかりではない。様々な要因から1個2個単位を落とす生徒もいることは承知している。それは仕方がないことではあるが・・・。


――ほぼ半分しか取れてないのはヤバすぎる・・・。3年生に進級するのに60単位必要なのちゃんと覚えてるのかな。


「2人が今回落としたのは1個だけ?まだ不安な授業とかあるの?」


「・・・」


「おい黙んな。全部吐け」


「ムロは・・・2?」


「4・・・多分発展英語落としとる。ヤバくね?」


「2年次必修科目じゃねーか!お前来年2年に交じって受けるんけ!」


「あたし必修科目はセーフじゃから!今のところ6単位落としとるけど!」


「ろ、6ぅ!?多っ・・・落としすぎでしょ(じゃろ)!」


『落としすぎ』の部分は沖谷君とハモった。前半で6も落とすなんて・・・後半が不安でしかない。林先生の授業も結局落としたらしい。先生・・・。


因みに私は1年次の春学期、バイトのしすぎで2単位落とした。高卒で何も分かっていない親には『間違えて履修登録した』と言って誤魔化し、SIGや保衣不の前では平気な顔してフル単だと威張っている。後半の冬学期では単位こそ落とさなかったものの、最高評価であるS評価は春学期より取れなかった。そのことについてあの人からの叱責を受けたのが、今でも重くのしかかっている。今回は大丈夫だと思うけど・・・。


安井(やす)ももっと言ってやれ!」


「後期から頑張ればよくね?」


「ほんまそれ」


「今こんなに落としてるのによくそんなことが言えたね!?」


今ここにいない残りのメンバーも心配だ。一部の生徒が優秀でも、仮に私達の代で初の留年生を輩出しようものなら・・・SIG全体のイメージが下がるのはよろしくない。


「残りは『多忙組』・・・青原(あおはら)君と上延(うえのべ)君と佐藤君だけど。上延君は頭良いから大丈夫だとして・・・」


「ショーとてつやは大丈夫じゃろ。アイツらよりは」


吉室君と安井君はこの会話に飽きたのか、お昼ご飯を食べに食堂へと行ってしまった。なんてこったい。


SIGの男子メンバーは|青原正平(しょうへい)君のことを『ショー』、佐藤鉄矢君のことを『てつや』と呼んでいる。上延聡志(さとし)君のことも『サトシ』と名前呼びで、未だに苗字に君付けで呼ぶのは私だけだ。特に安井君は堅苦しいからあだ名で呼んで欲しいみたいだが、如何せん慣れない。陽キャ女子の森本さんをななちゃんと呼ぶのだって半年かけてやっと定着させたのに。由衣ちゃんは陰キャなので別である。こんなこと本人に言ったら説教じゃ済まなそうだけど。

それぞれのメンバー呼び名(残りはまたいつか)。ついでに一人称も。


幸生(私)・・・ななちゃん(菜々緒)、沖谷君、安井君、吉室君

菜々緒 (あたし)・・・さっちゃん(幸生)、タニ君(沖谷)、やす君(安井)、ムロ君(吉室)

沖谷(俺)・・・さっちゃん(幸生)、ななお(菜々緒)、やす(安井)、ムロ(吉室)

安井(俺)・・・さっちゃん(幸生)、ななちゃん(菜々緒)、タニ君(沖谷)、ムロ(吉室)

吉室(俺)・・・さっちゃん(幸生)、ななちゃん(菜々緒)、タニ君(沖谷)、佑太(安井)

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