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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第69話『groovyは人生に多大な影響を与える』

第69話『groovyは人生に多大な影響を与える』


「SIG以外にいないんですか?」


「ここはやっぱアレやろ。幸生先輩ってこの前groovyと話してましたよね。橋渡ししてやったらどうですか」


安永君が笑う中、林君と野田君も会話に入ってきた。特に野田君。君はもう一度ハートブレイクした方がいいみたいだな。


「え!それガチ?」


「幸生さんgroovyと知り合いなんですか!?」


「いや、ちょっとしか話したことないし・・・というか見られてたのか」


私は人より影が薄いと思っていた。誰かの後ろに立っても気づかれにくいし、店員さんを呼んでも無視されることが多い。だから今まで篠木や覇弦さんと佐古駅周辺を歩いていても、それを言及されたことは1回もなかった。


――ちょっと前に高橋さんに目撃された時も、あれ結局私じゃないっぽかったしな。


以前高橋さんは茶髪マッシュにチャラチャラした服を着たイケメンと私が並んで歩いているところを見たらしい。しかし私の知り合いにそんな人はいない。一瞬篠木かと焦ったが、外見の特徴が全く違うのが分かり心からホッとした。きっと私と雰囲気が似ている他人か、妹と見間違えたのだろう。成愛に彼氏がいるのか知らないけど。妹と全く会話していないことがバレていじられたのはまた別の話だ。


――意外と人って視野広いんだな・・・。


groovyのキーワードに食いついてきた穂奈美ちゃんと弥恵ちゃんをどうにかこうにかかわしつつ、安永君に助けてとアイコンタクトを送る。智夏ちゃんは隣県出身且つ彼氏持ちなので興味は薄めだ。


「すんません。俺がダルいから無理って言ったばっかりに」


「そっか。島永君groovyでバイトしたことあったんだっけ」


「そうなんですよ!島永に聞いても全然取り合ってくれんくて」


穂奈美ちゃんが不満げな目で島永君を睨むが、彼は意に介さない。君本当に自分と同い年か年下の女性に興味を持たないな。


島永君から聞いた話だと、『groovy』とは片井先輩率いる仲良しグループの名前らしい。メンバーは7人で、この大学にいるgroovyは片井先輩と浦本先輩だけだそう。年齢層は17歳~21歳と若く、これは恐らくしおさんが含まれているからだろう。由来は溜まり場であるクラブ『groovy』から。これらの情報は私が頼んで調べさせた。持つべきはデキる後輩である。


「で、でもよく知ってるね。私の友達は片井先輩と浦本先輩と高校が同じだったから、そこからファン・・・推し?になったらしいけど」


「佐古でバドやってた高校生は大体知ってるんじゃないですか?あたしもそうでしたし」


「はぁー。先輩も弥恵ちゃんもバドミントン経験者だったんだね。そんな有名だったんだ」


関わらないって決めた傍からgroovyの情報がポンポン出てくる。別に2人がバトミントン界で王子様扱いされてた話とかどうでもいいな。私は皆の話に黙って耳を傾ける。林君の出身校である冠頭(かんと)高校にもgroovyファンがいたらしい。因みに私はそのお隣の地区にある冠都南(かんとみなみ)高校出身である。略称は冠南(かんなみ)


「groovyは高校の頃から有名でしたから」


「groovy目当てで経営に入学した子も一定数いるんじゃないですか」


「ま、マジか」


「私の高校は佐古というよりは冠頭寄りだったから知らなかったよ」


「俺冠頭生でしたけど、クラスの女子がSNSにあげられた写真見てキャーキャー言ってましたよ」


――由衣ちゃんもその例に漏れずっぽいからな・・・。芸能人ってワケじゃないのにその知名度は凄いな。流石田舎と書いて佐古。


「・・・私達蚊帳の外だね」


気を遣って智夏ちゃんに話を振ると、彼女は両手を合わせて何かをひらめいたように顔をほころばせた。


「――つまり、幸生さんはgroovyとの合コンをセッティングしてくれると」


「どうしてそうなるの智夏ちゃん!?」


聞き役に回っていた智夏ちゃんがこの話をとんでもない解釈でまとめおった。当然彼氏募集中の穂奈美ちゃんがこの流れに乗らないワケがなく、再び弥恵ちゃんとはしゃぎだしてしまった。折角うまい感じに脱線させたのに・・・!


「いやいや無理だって。ちょっと島永君どうにかして!」


「いいじゃないっすか。何でも協力するんでしょ?」


『幸生さんに合コンの幹事なんて出来るワケがない』の台詞を期待して島永君を見ると、彼はシニカルな笑みを浮かべた。


――わざと『何でも』の部分を強調しやがって・・・君は敵か!敵だな!


我慢できずに溜息を吐く。ここで私が取れる手はただ一つだ。


「あ、そ、それじゃあ私はそろそろ帰ろうかな!お疲れっ」


島永君と林君の「あ、逃げた」を背に、私は逃げるようにSIG部屋を後にした。


(=^・・^=)

2日後の夕方。サコモに向かう途中の横断歩道で、見覚えのある日傘と鞄を見かけた。


――あれは・・・由衣ちゃん?


ペダルをこぐ力を落とし、ゆっくりと彼女の横を並走する。少しだけ追い越して顔を確認すると、由衣ちゃん本人で間違いなかった。


「・・・やっぱ由衣ちゃんだ。やっほー」


「タニ!?」


由衣ちゃんは真顔から驚きの表情に変わった。私は自転車を押して由衣ちゃんの横を歩く。


「由衣ちゃんもサコモに行くの?」


「まぁ・・・うん。タニは?」


「あーえっと・・・」


――別に疚しい事ではないし、正直に言うか。あ、でも・・・。


「浦本先輩に渡さなきゃいけないものがあって、先輩が今サコモにいるらしいから会いに行くんだ」


「浦本先輩・・・?」


由衣ちゃんが訝しげに私を見る。由衣ちゃん相手だったら浦本先輩の方がいいな。


「SIGSIG」


「ふーーん」


こういう時の理由付けとしてSIGは本当に便利だ。私は自転車を駐輪場にある収容したら自動でロックがかかる平置式自転車ラックに入れる。


「お待たせしました」


「・・・」


由衣ちゃんは難しい顔で私が自転車を収容するのを待ってくれた。私は前髪を櫛でときながら由衣ちゃんの行動心理を推理する。


――何か私に用事があるんだろうか。それとも気を遣ってくれた・・・?


中に入るなり由衣ちゃんは日傘を、私は被っていたキャップを取る。自転車を漕いで火照った身体にサコモを満たす冷風が心地いい。


「タニは浦本先輩とどこで会うん」


「えーとフードコートだから・・・4階だね。一応それが終わったら暇になるけど・・・えっ何その顔怖っ。どうしたの」


それとなく手が空くアピールをすると、由衣ちゃんは今私忸怩たる思い抱えていますと言わんばかりの表情で私を睨んだ。


「私も4階行く・・・」


「そっか。なら途中まで一緒に行こう」


「あのさ・・・これから私、か・・・片井先輩、に、会うんじゃけど」


「・・・はぁ」


――私がお金渡した後由衣ちゃんと遊ぶのかな。


私も片井先輩に会うためにここに来たのだが、一瞬で終わるのでダブルブッキングではないだろう。小さく頷き、ノーリアクションで返答する。


「ちょっと・・・一緒おってくれん?」


「え?会うって・・・由衣ちゃんはこれから片井先輩と2人?それとも複数?で何するの」


「・・・・・・・・・・・・」


沈黙なっが。長すぎて欠伸が出た。由衣ちゃんにバレないよう噛み殺す。


「・・・・・・先輩が、私と2人でご、ご飯行こうって・・・!」


「・・・それに私も混ぜようとしたの?正気!?嫌だよ!」


「暇なんじゃろ!?」


「いやいやちょっと待ってって!片井先輩と待ち合わせしてるだけでも驚きなのに、そこに私がいるのは違うでしょ!というか推し?と対面するなんて由衣ちゃんにとって願ったり叶ったりなシチュエーションじゃん!それをフイにするの?」


「無理無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ!」


「この臆病陰キャめ!」


片井先輩の真意は分からないが、どう考えても私は邪魔者じゃないか。私の腕を掴んできた由衣ちゃんを半ば引きずるようにして、私達は4階に向かった。


私が先にエスカレーターに乗り、振り返って由衣ちゃんを見下ろす。彼女は眉間にしわを寄せ、腕を抱いて震えていた。えっ大丈夫?今からバンジージャンプでもしに行くの?


「由衣ちゃんは片井先輩に会うの嫌なの?」


「・・・いや。ただ、今まで遠くから見るだけでまんじょっ、満足じゃったのに。何で私なんかをってなるくね!?」


「緊張が凄いな。気持ちは分らないでもないけど」


「何でタニは平気なん!浦本先輩だってちょっと怖いけど顔レべエグいが!」


「顔レベ・・・人は顔面偏差値だけじゃ測れないよ。それに、由衣ちゃんだって美人さんじゃん。美人過ぎて異性がビビッて近寄ってこなそうなタイプの」


「あ?」


「図星を指してすみませんでした」


素直に謝罪をし、私は由衣ちゃんと片井先輩が知り合った経緯を聞くことにした。


「この前、片井先輩がタニを探してた時何か流れでRICH交換することになって」


「あぁ。あの時か」


――先輩が私に告白した時の録音データ(削除済み)使って脅した時だな。


「それで何回か会話が続いて、今日ご飯誘われて・・・嘘じゃろぉぉぉぉ」


「大変だ!由衣ちゃんのメンタルが・・・何故こんな時に限って保衣不が揃っていないんだ・・・ってこの話残りの2人には?」


由衣ちゃんは黙って首を横に振る。その情緒でよく隠し通せたな。

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