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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第65話『嘘で綱を渡りきる』

第65話『嘘で綱を渡りきる』


「見過ごせって言うのか」


「そうだね・・・篠木は大人なんだから・・・見て見ぬフリは得意でしょ?」


「ならお前は・・・」


俺が、と言いかけるのをすんでのところで耐える。


「・・・小野光が同じように抱えてたら、そうやって知らないふりすんのかよ」


「はるま・・・はるまはね、そういうんじゃないんだ」


幸生は達観した様子で背もたれに体を預ける。いつだってそうだ。俺が感情的になればなるほど幸生は心を固め、気持ちをしっかりと保つ。


「自分じゃ私が本当に望んでいることを叶えてあげられないから。あげられないからこそ、はるまは自分に出来ることを最低限やってくれたんだと思う。クラスは違っても部活や修学旅行は一緒だったし。途中ではるまに彼氏が出来ても、まぁ殆どの登下校は・・・私と一緒の電車で帰ってくれてたなぁ」


「・・・」


シンプルに気に食わない。その隣が小野光じゃなくて俺だったら、もっと・・・。


「もし、私とはるまの立場が違っていたら、私も今まではるまがしてくれたことをするんじゃないかな。だけど篠木には・・・それは無理そうだね。よく分かったよ」


幸生は呆れたように頷いて水を――飲もうとしてグラスが空になっていることに気づいた。


「・・・」


「空だぞ」


「分かってるよ・・・気づかなかった」


幸生は気まずそうにピッチャーに手を伸ばして水を注ぐ。ついでに俺の分も入れてもらった。幸生はさっきからずっと目線を下に向け、俺を見てくれない。


「俺も気になってんだけど?」


「う・・・」


足を延ばして幸生の足に触れる。スッと逃げる足を意図的に絡めた。


「!」


ここでようやく俺の目を見た幸生に口角が吊り上がる。この前は見逃してやったんだ・・・次はない。


――嘘をついて誤魔化して、逃げるようならもう・・・。


「分かった!言うから!」


不穏な考えに心が支配される寸前、幸生がそれを察したのか急に慌てだした。変なところで空気読みやがって・・・。


「実は、その・・・父さんとは別に、お母さんにも恩返しをしようと思って。()()()の掃除機を送ったら怒られた」


「ハ!?」


俺はぽかんと口を開けたが、すぐに閉じる。あまり幸生の前で間抜け面を晒したくない。だがそのしょーもない経緯を聞いて開いた口が塞がらないのと同時に――不信感が芽生えた。


「めっちゃ怒られたんだよね。高すぎって」


「それもだけどよぉ・・・直接渡せや」


「・・・」


幸生の顔が一瞬悲痛で歪んだ気がしたが、すぐに気弱な笑みを浮かべる。


「そうだね・・・本当、篠木の言う通りだ。滅茶苦茶怒られたよ・・・それなのに私は、お礼をもらえなかったのが悲しくて泣いちゃったんだ。馬鹿だよね」


――嘘くせぇ。普通、そんな理由であんなに泣くか?


幸生は息するように嘘をつく。俺にバレにくいよう真実を混ぜて。親にプレゼントを贈った話は恐らく事実だ。しかし、それだけ――高い買い物をして怒られただけであの大号泣は釣り合うのか。


「馬鹿だな・・・俺からすれば簡単な話だ。親と一緒に買いに行けばいい」


「・・・一緒に行ってくれる人達じゃないんだ。そもそも何も買わなくていい派の両親だから」


「へー。ウチとは大違いだな。俺のババアなんてこの前も母の日にかこつけて財布ねだられたぞ。兄貴と割っても高かったわ」


先々月、急に電話してきたと思ったらババアが調子に乗って俺と兄貴に財布と鞄をねだりやがったので、すぐに兄貴に替わった。交渉は兄貴に任せときゃ何とかなるしな。贈るのは財布だけにする代わりに来月のお盆実家に帰らなきゃならねぇ・・・ガチでだりぃ。


「お、おぉ・・・そうだったんだ。父の日は?」


「親父はリモート飲み会が良いんだと。同じ酒とつまみを送って、カメラつけて3人で飲んで適当に話す」


「・・・」


「どうした」


幸生がショックを受けたように固まるのを見て小首を傾げる。


「いや・・・篠木の家族のこと初めて聞いたからさ。仲、いいんだね」


「普通だろ。幸生が親いないって思ってたから・・・敢えて出さなかった節はあるな」


「あ・・・!気使わせちゃってごめん・・・」


――可愛い・・・ってそうじゃねぇだろ。


幸生がシュンと肩を落とすのを見て絆されかけるが、目を閉じて己を律する。泣いた話は一旦終わりにするとして、問題はここからだ。俺はスマホを出して件の写真を表示する。偶然見つけて思わず撮ったあの光景は今でも信じられない。


「聞きたいことはまだある」


「・・・どうぞ」


自分でも驚くほど唸るように低い声が出た。幸生も緊張で背筋が伸びている。


「先に言っとくが、わざとじゃねーからな。ゴミまとめる時、幸生っぽいガキがプリントされてるバッグが見えて・・・触ったら中に何か入ってんなーと思って中身見た」


幸生のリビングに入って左横にある5段スチールラック。そこに元から白いトートバッグが引っかかっているのは知っていたが・・・表に幸生と小野光らしきガキの写真がプリントされているとは知らなかった。


手に取り、幸生に気づかれないようスマホで写真を撮る。小学生と思しき幸生の無邪気な笑顔に見とれていると、外から触っただけじゃ分からない形の何かが入っていた。


完全に好奇心で中を見た俺はその光景が理解できず――咄嗟にカメラのレンズをトートバッグに向けた。


(=^・・^=)

篠木は自分のスマホを私に見せた。そして、ドスのきいた声で一言。


「・・・これは何だ」


「・・・」


画面には、無造作に入れられた札束が写っていた。その数丁度5束。そして撮影された日時は――篠木が私の家にいた時だ。


その写真を目にした瞬間思い出した。ニャルラめ・・・これは隠してくれなかったのか。


「1束ならまだ・・・ギリギリ理解できる。だか5束はやりすぎだ」


「何・・・て・・・」


血の気が引く。本当の大ピンチはここからだったのか。下手に選択肢を間違えると・・・終わる。


『人の荷物勝手に漁ったの!?酷い!』と逆ギレして誤魔化すか。


『宝くじが当たった。けど高額すぎるから隠してた』と言い張るか。


『言えない・・・言いたくないんじゃない。人に言っちゃ駄目なの。そう誰かに命令されたワケじゃないけど、こんな話、有り得なすぎて篠木は絶対信じてくれない』と本当のことを言うか。


「何だ・・・と言うと・・・っ!」


「にー」


言葉を濁しつつ必死に思考を巡らせていると、篠木が座っているベンチソファーの上にニャルラが座っていた。


――ニャルラ・・・!良いところに!さぁ、いつものSF(少し不思議)パワーで助けるんだ!


そう思った瞬間、脳裏に一つの記憶が蘇る。あれが出来れば、きっと何のわだかまりもなく片付けされるんじゃないか?


「篠木・・・私なりに考えたんだけどさ」


「・・・あ?」


私は息を吸って、演技を始めた。


「1束とか5束とか何のこと?私にはその写真が、その・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()んだけど」


「はぁ!?」


篠木はすぐにスマホの画像を確認する。私ニャルラを見て――祈るように見守った。


「くそっ、何で・・・!?どういうことだ」


彼は必死にスワイプしているが、500万円の写真はどこを探してもないようだった。


「見せる写真間違えたの?」


「いや、それは・・・ってかこれお前だろ。自分の事ブスとか言ってて悲しくなんねーのか」


篠木は呆れた顔でさっき私に見せた――私が死んだ目で酒を呷っている写真を突き付けた。


「我ながら・・・目が据わってるなぁ。耳も赤いし。ってこれいつの写真?」


「去年だな。何でこの写真が間違えて出てきた・・・?」


「いいから消してよ。スマホ寄こせー」


「バーカ誰が消すかよ」


隙をついて篠木のスマホを奪おうとしたがあっさり躱された。そんなん保存して何になるんだ。


「あのトートバックは図書館で借りた本を入れるのに使ってたけど・・・束って何?」


「いや・・・もう忘れろ」


篠木はまだ納得していない感じだったけど、証拠写真が無いんじゃただの妄想だ。私はホッと胸をなでおろす。一先ず、危機は去ったか・・・?


――ありがとうニャルラ。助かったよ。


心の中でニャルラに合掌すると。ニャルラはにーと鳴いて私の隣に移動した。未だにスマホとにらめっこしている篠木に一言伝えて席を立つ。


お手洗いに入り、誰もいないことを確認して――私は洗面台の上に乗ったニャルラに小声で囁いた。


「た、助かった・・・あれはヤバいね」


「にー」


「ニャルラの力がなきゃ全部話すところだったよ・・・危ない危ない。これからはもっと用心するよ」


「にー」


鏡越しにニャルラを見ると、ニャルラの上に〇のエフェクトが出ていた。


「!?」


バッと横を見るとただの壁しか映っていない。もう一度鏡を見ると、楽し気な顔文字が頭上を跳ねてはフェードアウトしていった。ニャルラは鏡を通せば様々なエフェクトを出せるようだ。


「いやようだじゃなくて。何その特殊能力」


『Yeah!』


「陽キャだな・・・ってもう出ないと。トイレ行きたいのは本当だったし」


私はささっとお手洗いを済ませ、席に戻った。

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