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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第60話『はるまの心は永久不変』

第60話『はるまの心は永久不変』


「歩きすぎて足疲れたわ。まだまだウチも、さっちんの隠しごとを見破る力が足りとらんってことじゃな」


篠木と出会ってもうすぐ1年が経つ。つまり、同じ期間彼女に言っていなかったことになる訳で・・・はるまがサンダルを脱いで、両足を私の膝の上に置くのも仕方がない。ことは全くないけど。その癖まだ治ってないのか。まぁあんま重くないから別にいいけど。


「だって話したらはるま会いたいって言うじゃん」


「ウチはシーバーさんと違って写真だけじゃ満足せんよ!」


ドヤ顔で言うことか。私ははるまの好奇心に呆れて目を伏せた。


「この関係を友達で括っていいのか分からなかったし、篠木はどっちかというと悪い大人だから。彼氏持ちのはるまに紹介しようなんて思わないよ」


「さっちんが心配しとるのはそれだけじゃないよな?自分のことも全然話してないじゃろ」


「・・・うん。だから、私のことを1番よく知ってるはるまとは関わらせたくなかった。自分の保身のために。まだ私、篠木には『自立したかったから一人暮らしを始めた』としか言ってないんだ。大学は、実家からでも余裕で通えるのに」


「え、しのぎさんはウチ等の地元が鯉川ってこと知っとるん?」


「言った。何故に?って顔されたけど、それ以上は突っこまれなかった。自分も兄貴と2人で暮らしてるーって言って」


神京住みのシーバーとは違い、はるまは佐古から4駅先の鯉川(こいかわ)――私達の地元に暮らしている。足を伸ばせば、余裕で届く距離だ。私が篠木にはるまのことを話したくなかった2つ目の理由は――


「もしまた篠木に会うことがあったら、私と両親の関係だけは話さないで」


――私の中にある濁りを、1番(すく)ったのがはるまだからだ。


分かったという言葉を信じて、話を進める。


「シーバーにも篠木のことは話したけど、上澄みの部分だけ・・・軽い感じで言ってるから、本人は大して心配してない。カップルじゃん!とか早く付き合えよとか好き勝手言ってはしゃいでたよ。まぁ心配させたくないからそれでいいんだけど」


「じゃあ何でウチには話してくれたん」


はるまの真っ直ぐな目が眩しくて、1秒だって見られなくなったのはいつからだろうか。私は目を逸らしたまま続ける。


「用心してほしいから。何となく、篠木はあの人に似てる気がして・・・またあの人がやった時みたいに、篠木もはるまのことを傷つける気がして。怖いんだ」


また奪われるかもしれない。また迷惑をかけて、心配させるかもしれない。外面が良いところも、凄むところも、すぐ手を出して物にあたるところも私の交友関係に口出しするところも――篠木は、あの人に似ている。


テーブルの上に両手を置いて俯くと、ニャルラが寝ころんだまますり寄ってきた。私はゆっくりと拳をニャルラの横腹に埋める。ふわふわしてて気持ちいい。


「私の所為でまたはるまが嫌な気持ちになるかもしれない。篠木はあの人と一緒で、壊した後直そうとしてくれないから」


「ウチの為だってことは分かった。もしウチがあの現場を目撃せんでさっちんの話だけ聞いとったら、考えずぎじゃろって思っとったかもしれん」


はるまは両足を降ろさないまま姿勢を正した。いい加減下りてくれ。


「色々大変そうじゃけど、頑張ってな。また逐一聞かせてや」


「他人事だな」


「何もせんけど、ウチはずっとさっちんの味方よ。大丈夫じゃから」


「・・・ありがとう」


「絶対思ってないじゃろ」


「にー」


うるさいな。ほぼ図星をつかれてㇺッとする。


「思ってなくはない・・・というかそこは暴かないでよ」


「さっちんのことは何でもお見通しじゃけん」


私に何もしてくれないのなら、傍にいても大したメリットはない。話を聞いてくれるだけじゃ、私の心は救われない。


――その考えは今も変わらない。聞くのは、単に自分の好奇心を満たしたいだけじゃないか。自己満足のくせに、寄り添った気でいやがって。


暗い私が囁く。はるまは面白くて優しくて空気が読める。でも良いところだけじゃない。マイペースなところや、隠したいことも無理矢理暴こうとする強引さに憎しみを抱いたことがある。悩みなど1つもなさそうな人生に嫉妬して呪ったのも一度や二度じゃない。はるまの幸せ願うより、私の苦しみが分かるくらい不幸になれと祈ったのは事実だ。


その度に、はるまが怪我をしていくのは決して私の所為じゃない。ただの偶然だ。そう言い聞かせて、私は今ものうのうとはるまと会っている――黒くて汚い部分は綺麗に隠して。


「ごめんね重たい話しちゃって。これ遅くなったけど誕生日プレゼント」


私はテーブルの上にラッピングされた袋を置くことで、強制的に雰囲気を明るくする。


「ありがとう!開けてええ?」


頷くと、はるまは丁寧にテープを剥がして、中から2つの袋を出した。今年のプレゼントはドライフラワーが入ったオーバルタイプのピアスと、はるまリクエストの日焼け止め化粧下地だ。


「ピアスじゃー!揺れないタイプのやつ欲しかったんよ!」


何で分かったん?と喜びつつも驚いているはるまを見て、私はにやける口元を手で隠した。


「私だって、はるまのことくらいお見通しだよ」


って言っても、会話からはるまの好みを拾ってそれを覚えていただけなんだけど。はるまはお気に召したようで、今すぐ今つけているピアスとつけ替えるかどうか悩んでいた。


「去年もらったリップにもピンク色の花が入っとったよな。何の花なん?」


「それ去年も言ってたよ・・・はるまは本当、変わらないな」


――どうかそのまま、永遠に変わらないでいて。


照明に照らされ、彼女の手の中にあるスターチスの花が煌めいた。


(=^・・^=)

スタリを出ると、ニャルラは逆方向へと歩いて行った。私ははるまに見られないように小さく手を振る。人混みの中、にーという鳴き声がはっきりと聞こえた。


「――というワケでさっき話した通り、今の私の最優先タスクは両親と向き合うことなんです。恋愛にかまけてる暇は、今の私にはない」


「さっき成愛ちゃんのことめっちゃ避けとったが」


「それはまた別。心の準備が足りてない・・・」


「都合ええな。で、この後何する?」


はるまは私が映画を見ている間に用事を済ませたそうなので、もうサコモに用はないらしい。後は私のやることに付き合ってもらおう。


「ヤマジマ電気で、親の結婚記念日祝いの品を買おうと思うんだ」


「結婚記念日・・・いつ?」


日にちを言うと、はるまはもうすぐじゃが!と大げさに驚いた。おまけに手渡しせず実家に郵送する気でいることを話すと、引き気味で驚かれた。


「さっちんが持っていかんの?」


「だって掃除機にしようと思ってるし!季節的にタワーファンでも使ってくれるかなって思ったけど、あくまで結婚記念日のお祝いだから・・・」


「ふーん。でもさっちん、親嫌いなのにそういう日はちゃんと覚えとるんじゃな」


「はるまは知らないの?」


「教えてもらったことないわ。誕生日とか、父の日母の日は毎回何かしら贈っとるけど」


「仲良くていいね・・・」


はるまは一人っ子で、共働きの家庭だからかあまり親に叱られた経験がないようだった。だからあんな偏食家になっちゃって・・・。おまけに猫を7匹飼っているので、はるま母の怒りは大抵猫に向いているらしい。


雑談を続けながらヤマジマ電気に入り、掃除機売り場に行く。目的はコードレスのスティック型掃除機だ。予算は5万円で組んでいたが、ニャルラから今日の分のお金をもらったので性能重視で決めてもいいかもしれない。


「・・・これかな」


「決めんの早くね?」


「メーカーだけは決めてたから」


私は6万いくらの掃除機に目を付け、すぐに最安値を調べる。はるま?ただのお飾りですので気にしないでください。


「ええやつ買うが。ケチなさっちんはどこ行ったん」


「バイト始めてから、贈り物に対する値段のハードルは大分低くなったよ。それに、喜んでもらいたいからさ。少しでもいいやつ買いたいなって・・・」


「ええが。きっと喜んでもらえるで」


「でも今まであげたプレゼント軒並み文句言われて、こっちのメーカーの方が良かったとか、掃除機よりテレビの方が欲しかったとか言われないかな・・・言われるかもしれない。いやでもどっちも昔から使ってて未だに買い替えてないっぽいから大丈夫だとは思うんだけど」


「どっちよ」


はるまが呆れた声でツッコむ。いつもとは逆の立場に新鮮さを感じるも、私のネガティブ思考は止まらない。


「妹と被らないよう家電にしたし、家の掃除機ずっとキャニスター式だから使ってくれるとは思うんだけど。やっぱサイクロンより紙パックの方が良いかな。でも一軒家だから吸引の持続力を重視するべき・・・でもサイクロン式は手入れが面倒らしいんだよなぁ。でも紙パックは紙パックで、無くなったらその都度買い足さなきゃいけないし・・・」


「結局どっちよ」

はるま「最初は何あんなイケメンキープしとんって思ったわ」

幸生「キッ!?違う!」

 ――誰がするか!


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