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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第59話『初対面の印象や如何に』

第59話『初対面の印象や如何に』


――そりゃそんな反応にもなるわ。


私達の地元にこんな背の高いチンピラはいない。中学高校もヤンキーとは無縁だったので、見慣れないのは分かる。さて、外見による印象はマイナスだけど・・・篠木はこっからどう振る舞うんだ?


「初めまして。篠木と申します。幸生の彼氏」「おーーい!」「・・・友達です。今は」


篠木は覇弦さんお得意のアルカイックスマイルを貼りつける。流石兄弟。お兄さんそっくりじゃないか。


「え?イケメ・・・さっちん?友達?えっ・・・え?」


はるまは年上の男性に対する警戒心と好奇心で揺れていた。そうだねはるま面食いだもんねぇ!


「そんなわけで、私達はこれからスタリに行くのです。ホラはるま行くよ」


「よろしければ、俺もご一緒してよろしいでしょうか」


混乱しているはるまを強引に歩かせると、篠木は笑みを浮かべたままついてきた。篠木、私、はるまの順で横に並んでスタリに向かう。


「よろしくないよ!というかはるまはさっきの現場一部始終見てたから、取りつりゅ、取り繕わなくていいよ」


私がでしょ?とはるまを見ると、彼女は小さく頷き、篠木が私の腕を掴んで言い争ってる場面から見ていたことを話してくれた。


「無理して難しい言葉使うんじゃねーよ」


はるまが自分の素の一面を目撃していたことを知った途端化けの皮が剥がれる。切り替え早っ。


「・・・社会人の方ですか?」


「あぁ。小野光ってまさか、猫の引き取り手探してた・・・」


「そっか。篠木ははるまのお母さんと会ったことあったんだ。忘れてた」


私は去年の冬、はるまのお母さんに篠木を紹介した。正確には篠木の知り合いが猫を飼いたいと思っていて、彼がその知り合いを連れてきたそうだ。引き取った猫はその知り合いの家で今も元気に暮らしているらしい。


「あーあの子を貰ってくれた人な。ママが超イケメンってはしゃいどったわ。ウチも家におりゃ良かった。その節はありがとうございました」


「お礼なら幸生に言え。それに俺の方こそ、だ。あの猫のお陰で、今こうして幸生と・・・な?」


「・・・まぁ、感謝はしてるよ」


急に甘い雰囲気を出さないで欲しい。頭も撫でないでー。


「2人は幼馴染なんだ?いつから?」


「小1から高3まで。大学は別だよ」


「中3まで同クラで、席も前後じゃったよな」


「何だその確率きっしょ」


2人して頷くと、篠木が汚物を見るような顔をした。失礼な。


「その代わり高校は見事に被んなかったね。部活は中高一緒だったけど」


「テニス部だろ?しかも硬式」


篠木は私達を頭のてっぺんからつま先までじろじろ見て、意外過ぎると呟いた。はるまも彼を値踏みするように見ている。健太郎君(はるまと同じ学部で同い年の彼氏)にチクるぞ。


「しのぎさん。ですよね」


はるまは私を盾にして彼と会話を試みている。あまり仲良くしてほしくないんだけどな・・・。


「さっきめっちゃ怒ってましたけど、さっちん何かしたん?」


「あ、れは・・・その・・・」


――話せば長くなるなぁ・・・。


「元からこんな顔だ・・・幸生の腕が男くせーから」


言い淀んでいると、篠木が舌打ち交じりに吐き捨てた。


「あぁ。そいえばスプレーかけられたんだっけ。はるまに」


「スプレー?」


「ちょっ!ちょっとさっちん!」


はるまが怯えて私のショルダーバックを下に引っ張った。肩が・・・。


「何がどうなって男物のスプレーを幸生の腕にかけたんだよ」


――やべ。ここで覇弦さん・・・じゃなかった安井君のプレゼント買ったなんてバレたら元の木阿弥だ!


()()()()の誕生日プレゼント選ぶの手伝ってもらったんだ」


「は!?」


ほらほら。と右手に持っていたハンズロフトの紙袋を掲げる。すると篠木は目を見開いて驚愕した。えっそんな意外?


顔だけ振り返ると、はるまの怪訝そうな目とかち合った。何も言わないでいてくれたのはファインプレーだけど、出来れば表情も隠して欲しい。嘘がバレちゃうじゃん。


(=^・・^=)

「ダチんとこ行ってくるわ。幸生、またな」


篠木はフラッテを奢ってくれた。しかもはるまの分まで。お礼を言うと、「詫びだ」と言ってはるまとアイコンタクトを交わしていた。君ら出会って5分も経ってないよね。


私が席を確保しようと店内を見渡していたら、奥のテーブル席にニャルラが座っているのを見つけた。


――ふおっ!


早歩きでニャルラの前に立ち、何してるのと口パクで言うとにーと鳴かれた。いやにーじゃなくて。

ニャルラのことは置いておくとして、荷物を置こうと椅子を引く。すると札束が椅子の上からこんにちはをした。


「・・・!!」


「さっちん席ナイスー」


紙袋を札束の上に置いたと同時に、はるまが2人分のドリンクをテーブルの上に置いた。


――み、見えてないよね。


彼女に見られないよう、いかに自然な形でショルダーバックの中に札束をしまう方法を模索していると、はるまの大きな瞳が私を捕らえていた。


「何・・・?」


「相変わらず息するように嘘つくなって」


――何だそっちか。びっくりした。


私は肩の力を抜き、椅子に座った。紙袋を置き直していると見せかけ、100万円を私の膝の上に置く。


「はるまには嘘ついてないよ。何で安井君のプレゼントって言わなかったことも踏まえて、ちゃんと説明するから」


「ホンマよ?」


はるまはフラッペとカフェラテを合わせたスタリの看板ドリンクであるフラッテを横に並べた。私は黒豆乳味で、はるまは抹茶味だ。


――真横にニャルラがいるのに全然気づいてないの面白いな。


「にー」


彼女が写真をインストに投稿している隙に、1cmの厚みをショルダーバックの奥底に突っこんだ。すぐにチャックを閉める。他のお客さんに見られていないことを願おう。


「にー」


――元はと言えば君の所為なんだけど!


頬杖をついて冷ややかな目線を向けるが、すぐに気持ちを切り替えた。これからはるまの尋問が始まるんだ。今後の為に、矛盾がない説明をしないと・・・!


「で?しのぎさんとどういう関係なん?」


はるまが自分のフラッテを差し出してきたのでそのまま一口飲む。お礼に私のも飲ませようとするが、真顔でいらないと言われた。美味しいのに。


「最近のブームは黒豆乳なん?前はプルーン豆乳ばっか飲んどったのに」


「そうだね。って言っても、何で私がプルーン味ばっかり飲んでたのかは覚えてないけど自然に選んでたというか」


「豆乳の話はええけぇ。しのぎさんの話してや」


チッ。脱線できなかった。


(=^・・^=)

「――で、いつの間にかこのポニーフックとか眼鏡とかくれるわ、私が他の男子の話するとめっちゃ不機嫌になるわ、私と話す時だけえらく態度が違うわで・・・何か執着されちゃってました」


以上ですと軽く頭を下げると、はるまの顔は引きつっていた。聞きたいって言ったのそっちじゃん。


「・・・おっも。あっま。それに濃っ!」


「にー」


――フラッテの話かな。


ニャルラは焦点の合っていない目で横座りしていた。まさか最後までちゃんと聞いてくれるとは・・・気になってたんだったら言ってよ。


「篠木が私に惚れてる前提で動かないと、私の生活が脅かされそうだったから。今まで黙ってた。さっきも本当ははるまのことを名前だけ見て、男だと勘違いして勝手に嫉妬したみたい」


「あー。さっちんと違ってウチの名前、完全に男性名じゃもんな」


「外見は完全に女の子なのにね」


私の名前――『幸生』もぱっと見で『こうせい』や『さちお』、『ゆきお』など、名前だけ見た人が私を男だと勘違いするケースが多い。私の場合、口頭での自己紹介だったら問題無いんだけど、はるまはそうはいかない。幼少期の頃から散々からかわれていたのを隣で見てきた。


――平仮名の名前って可愛いね。


1年生の教室で、私が最初に話しかけたのがはるまだった。たまたま前の席にはるまがいて、普通に思ったことを言っただけなんだけど・・・彼女にとって私の何気ない一言が、今も心の支えになっているらしい。


「ウチにヤキモチ焼くとかかわええが」


「可愛い・・・?」


何を言っているんだコイツはという顔をすると、はるまは珍しく顔を曇らせた。


「さっちんの話だけじゃったらそう思ったけど、あんな束縛系?嫉妬深そうな男の人初めて見たわ。篠木さん、ウチがさっちんにくっついたの見て、ウチのこと殴りたそうなオーラ出しとったもん」


「何そのオーラ初耳」


「こう・・・嫌いな人を見る目というか、成愛ちゃんがさっちんを見る目と同じ感じじゃった」


「うん。この話止めようか」


残りのフラッペを飲み干し、スタリを出るよう促すが、彼女はまだ聞き足りないようだった。ニャルラはプラスチックカップを観察している。いじって床に落とさないといいけど。


「何で今まで黙っとったん」


「・・・何となく分かるでしょ。面倒くさいからだよ。あとサラッと私の両膝に足を乗っけるな足を」


行儀悪いぞそれでも20歳か。


幸生とはるまとシーバーは高校の同級生です。幸生とはるま、はるまとシーバーは3年間別クラスでしたが、幸生とシーバーは1年2年が同じクラスでした。

はるまとシーバーは幸生の友達の友達という関係です。修学旅行はこのメンバー+もう1人でグループを組んでいました。

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