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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第58話『会わすな危険』

第58話『会わすな危険』


「・・・」


「・・・」


――どうしよう。まさかこんな所で会うとは思ってなかった。


話したいのは山々だが、生憎今日は連れがいる。はるまに見つかる前にご退散願いたいところだが・・・。


「清算の進捗、どうですか?」


これを聞かないと始まらない。篠木は真顔に戻・・・りきれずにそっぽを向いて腕を組む。


「・・・終わった」


「本当に?もう篠木のことが好きな人が現れて『彼に近づかないで!近づいたらアンタを不幸な目にあわす!』なんて言われない?」


「あぁ。ついでにふざけた念書も処分した」


「なら良かった。色々ありがとう。お疲れ様」


頑張った頑張ったと小さく拍手をすると、顔の横に手を置かれた。私の後ろにはスタリのメニューボード、そして前にはぐっと距離が近くなった篠木。瞬時に状況を把握して左に逃げようとするが、その前に腕を掴まれる。


――そこは両手壁ドンじゃないんだな。


「・・・他には?」


頭上から低い声が重くのしかかる。そうだ。私はもう1つ、彼に言わなくてはいけないことがある。


「・・・ごめん」


囚われた腕を見ながら、拙い謝罪を述べる。


「わざと篠木を傷つけるような言葉を選んでごめん。黙って全部やっちゃったのも・・・私が篠木に全幅の信頼を寄せていなかったからで・・・混乱したよね」


「そっちじゃねぇ」


「え?」


今度は私が混乱する番だった。まさか否定されるとは。心当たりを探してみるが、謝罪以外見つからない。とりあえず今は――


「ちょ、ちょっとあっち行かない?」


――スタリの横という割と目立つ場所から抜け出すことを優先した。


後ろ手でスマホを持ち、はるまにメッセージを送ることを忘れずに。


(=^・・^=)

同じフロアにある雑貨屋にて、私達はスミックマのグッズコーナーにいた。


「いつ来てもここに人いねーよな」


「いるよ!小学生とかっ!」


「お前いくつだよ・・・」


失礼な。スミックマは世界が誇る偉大で有名なモーストヴァリアブルキャラクターなんだぞ!MVPならぬMVCだ!


今月から始まった新シリーズ『涼しいおへやでスミックマ』も超可愛い。グッズはネットで買ったからここでは買わないけど。


私はスミックマのぬいぐるみを見つめたまま、話を再開した。


「考えたんだけど、ちょっと思いつかないや」


「7月20日は祝わせて」


――あ。


「あーあれは、まぁ」


「嘘って言ったら犯す」


緊張感が汗となり背中をつたう。篠木が私の家のドアを破壊しようとしてきたあの日、確かに私はキットクリスプにそう書いた。彼の機嫌を直して帰ってもらうのに必死で、咄嗟に書いてしまった――後のことは何も考えずに。


「も、勿論!えーと20日は何曜日かなぁー?」


篠木の誕生日は覚えていても、彼の為に予定を開けることなんて考えていなかった。スマホのカレンダーを見ようとショルダーバックを開く手が止まる。一瞬見えたロック画面には、通知が現在進行形で増えていた。私はすぐに封印して篠木の目を見る。マナーモードにしておいて良かった・・・。


「その格好・・・・・・」


「ん?そういえば、よくこれが私だって分かったね。コンタクトだし、ヒールのあるやつ履いてるから身長も盛ってるのに」


「・・・わ・・・」


「え?」


この距離でも聞き取れなかった。私は耳を上に向けて聞き取りやすい体勢を作る。水色のビジュ―がついたスウィングバーイヤリングが肌に触れた。


「・・・可愛い」


「!!」


篠木が身をかがめ、耳元で甘い言葉を吐く。パーソナルスペースガン無視で近寄られるとは思っていなかった私は、肩と心臓が外れるくらい驚いた。


――さ、さ、流石に今のはドキッとした!


「あ、ありがと・・・ございます」


耳を抑え、ゆっくり後ずさるが同じくらい距離を詰められる。不意打ちのトキメキで頭が上手く回らない。左胸から響く鼓動は興奮によるものか、はたまたこの流れに対しての警鐘か。


「幸生、俺・・・」


篠木の顔が緩い。目元は赤く染まり、目じりは下がりまくっていた。心なしか声にも熱がこもっている気がする。


――ヤバい!これは・・・今までで一番ヤバいぞ!


『そんなわけない』という思い込みを捨て、わざと禁じ手を使うことを選んだ。私が篠木以外の誰か(今回ははるま)を優先すると、彼は簡単にブチ切れる。宥めるのが非常に面倒なので、あまりこの手は使いたくなかったけど・・・勢いで告白されるよりはマシだ。というか修復してすぐ今までの関係を壊す気か何考えてんだコイツ。


「あ、わ私今はるまとここに来てて・・・もう行かなくちゃ」


「・・・あ?」


篠木の顔がいつもの表情に戻る。しかしすぐに眉間にシワが刻まれ、私が逃げないよう腕を掴まれる――先程よりも強い力で。


「誰が、誰と一緒だって?」


「幼馴染のはるまと一緒。じゃ、そういうわけでまたね」


胸に手を当て謎にドヤ顔をする。今の私は、篠木と並んでも違和感ない。完全武装モードなのだ。綺麗は自信に繋がるって前読んだ小説の犯人が言ってたし。篠木の圧なんか怖くない!


「どこにいる」


「えーーと」


彼はさっきの赤面から一転、ドスのきいた声で超不機嫌そうな顔をしていた。とっさに顔を逸らす。怖くないったら怖くないんだい!


「ここで幸生に会えたのはラッキーだったな・・・探し出してそいつ消す手間が省けたわ」


――はるまごめん逃げてえええ!


この会話の流れで分かる通り、私は篠木にはるまの話をしていない。何故黙っていたのか。その理由は2つある。1つ目は、今のように絶対面倒な展開になるから。そして2つ目は――。


「その格好も、そいつの為かよ」


「うん。はるまが『本気のデートコーデで来て』って手いてててて」


正直に答えると、指が腕の肉に食いこむくらい強く握られる。


「・・・へぇ」


さっきまで楽し気に話しかけてきたいつもの彼はいずこへ。篠木は不機嫌を余裕で通り越して滅茶苦茶怒っていた。何で額に青筋が浮いてるの?そこまで怒ることなくない?


「ちょ、ちょっとそろそろ私の腕が限界なんだけど」


「俺の前に連れて来たら離してやる」


――う、うううううう。


内心頭を抱える。どうしてこんな状況に・・・はるまがトイレから戻ってきたら一緒にスタリでドリンクを飲むつもりだったのに。私は待ってる間何を飲もうか選んでいるハズだったのに・・・。誕生日プレゼントもそこで渡そうと思っていたのに・・・何故私は追い詰められているんだ。何故冷や汗が止まらないのか・・・まぁ原因は分かってて、全部この男の所為なんだけど。


「連れてこいっつってんだよ。そのはるまって奴、俺にも紹介してくれや」


「え、いやー嫌だな・・・」


「あ゙ぁ?」


「いつもの200倍怖い篠木に会わせるわけないじゃん!消すとかよく分かんないこと言ってくるし!怒んないで!」


「幸生、お前・・・待ってるって言ってくれたよな?俺から逃げないって。それを信じた俺にこの仕打ちか?」


――うわあああどうしようどうしよう篠木とはるま会わせたくないよおおおお。


「とりあえず落ち着こう。落ち着いて何で私が篠木にはるまを紹」「俺以外の、他の野郎の名前呼んでんじゃねぇ」


篠木は舌打ち交じりに吐き捨てる。私はさっきの言葉にん?とクエスチョンマークを浮かべていた。


「まぁいい。幸生についてきゃ会えんだろ。しっかり挨拶しとかねぇとなぁ」


彼の目は完全に据わっていた。ダ、ダルすぎぃ・・・はるまと篠木は別の意味で会話が通じない2人なんだよなぁ。混ぜるな危険ならぬ会わせるな危険だ。正直言ってめっちゃ嫌。


解放された腕をさすり、泣く泣くスマホを取り出すと、予想通り大量の通知ははるまが生んだものだった。RICHのトーク画面を開くと、実写のアメリカンショートヘアが壁越しに様子を伺っているスタンプが続けて連投されていた。ちなみにこの猫ははるまの実家で飼っているレオ君(3才)である。


「『はるま』・・・コイツか」


篠木は肩越しに私のスマホを覗き込んできた。親の仇かってくらい睨んでいる。


「何か誤解してるみたいだけどさ・・・」


私は疲れた声で後ろの柱を指さした。その先には、足が完治してすぐミルクティーベージュに染めた髪を耳にかけ、中1で止まってしまった身長をカバーするかのように厚底のスポーツサンダルを履いているはるまがいた。体を半分だけ出してこちらの様子を食い入るように見つめている。


「・・・はるまは野郎じゃなくて、チビ女だよ」


「チビ言うな!」


「・・・は?」


篠木は訳が分からないと言った表情ではるまを見る。そうか。()()()()は久しぶりだったからすっかり忘れてた。私ははるまの元へ駆け寄ると、彼もついてきた。2人が対峙すると身長差凄いな。


「えー改めまして幼馴染の小野光はるまちゃんです。そしてこちらは・・・バイト仲間」「オイ」「友達の篠木です・・・」


「・・・初めまして」


はるまは明らかにビビっていた。

今日の幸生’s 服&髪


ヘア…くるりんぱローポニーテール(篠木からもらったポニーフックもつけてる)


トップス…水色のパフスリーブマキシ丈ワンピ―ス


アクセサリー&シューズ…水色のスウィングバーイヤリング&白のショルダーバック&白のアンクルストラップッサンダル(6cmヒール)

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