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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第54話『言わぬが花?』

第54話『言わぬが花?』


――『皆俺ヲ怖ガッチャウカラ』


――『俺ハ顔以外モ怖イラシイカラ』


そこまで考えて、私はアシカさんへの興味を打ち消した。覇弦さんが知らなくていいと言ったんだ。私の世界に必要な情報じゃない。


真顔でちびちびとパープル・マスクを飲んでいると、覇弦さんはニヤついてスモークチーズを齧り、ローストチキンの皿を私の方に寄せた。


「ほら、残りのチキン食っていいぞ」


「ホットですか!ありがとうございます」


顔を輝かせて頬張る。すると泣き止んだ店長がマルゲリータピザを運んできた。


――店長が厨房担当だったんだ・・・お酒は勿論、ご飯も美味しいBarって最高か。


「ありがとうございます。あと、そのニット帽素敵ですね。店長に凄く似合ってるなって思ったんです」


「!!あ、ありがとうございます。この帽子はある・・・・・・恩人から賜ったものでして。私も気に入っています」


「何だ今の空白」


私も覇弦さんと同じところが気になったが、また泣かれたら困るので先に言いたいことを言うことにする。


「そうだったんですね。もしかして、その水色の杖も同じ方から?」


「はい・・・!どうしてお分かりになられたんですか。実はこのカーディガンもあ・・・恩人から賜ったものなんです」


「うーん。何となくです。その恩人さん、店長の事よく見てますね」


店長は照れた様子で体を左に向け、目線を下げた。これはお世辞ではない。何となくだけど、そのニット帽もカーディガンも杖もまるで身体の一部であるかのようなしっくりさを感じる。


「私、Bar初めてきたんですけど、初めてきた場所がこのお店で良かったです。カクテルも、ご飯も凄く美味しくて・・・お店の雰囲気も静かで心地いです」


他のお客がそんなにいないというところもポイントが高い。お店的には良くないかもしれないけど。


覇弦さんの「出た、八方美人」という発言を無視して、絶対また来ますね!と笑顔を作ってお礼を言うと、店長は感極まった表情を手で隠した。


「ありがとうございます。社交辞令も含まれていることは重々承知しておりますが、私にお礼を仰る方は貴女が初めてで・・・っ、貴女だけはどうか・・・っうえっ、しっ幸せになって・・・っズズッ」


――嬉し泣きもするんだ・・・。店長来たし一応お礼言っとくかのノリで言っちゃったけど、ガチ泣きするほど感動されると罪悪感が・・・。


「幸生の感謝を真に受けるな。コイツ表では良い顔するだけで、大してありがとうとか思っていない」


「思ってますよ。私嘘つきません」


余計なこと言うな黙ってくれ。


店長はティッシュを求めて裏に引っ込んでしまった。素面でここまで涙腺が弱い人初めて会ったな。


「気ニナッテタンダケド」


アシカさんが戻って来てお水を注いでくれた。丁度チーズがトロットロに溶けたピザと格闘中だったので会釈だけで済ます。


「沖谷サンハ何デ本当ッテイウ時ホットッテ縮メルノ?」


――え?


急いで口の中を空にする。


「え・・・?わたし、縮めてます?え?そんなつもりはな」「縮めてるな。今までスルーしていたが」


――マジで!?


「え・・・いや、何でって・・・!!」


脳裏に茶髪マッシュショートの男性が浮かんだ。私は『本当』を『ホット』と縮めて言うキャラを知っている。


――『諸君!これがプロである!のホットでーす!』


――『ホットに2分以内でクリアできるの?って疑っちゃったそこのお姉さんお兄さん!俺がミラクルを見せるから!』(ウインク)


――『ねぇ助けて助けてホットに!待って・・・ぎゃうん!』(戦闘不能)


頭の中が真っ白になる。私は無意識に、これプロ内でちょっといいなと思っているメンバー。HN(ハンドルネーム)『ホット』の口癖を真似ていたらしい。


――うわああああああ!!


左利きを指摘された以上に動揺する。恥ずかしくて爆発しそうだ。何で今まで皆言ってくれなかったんだろう。そっか誰も私に興味ないからか!


「心当たりがありそうな顔してるぞ」


「エッ・・・何カゴメンネ」


「ちょっとお手洗い行ってきます・・・」


私はメンタルケアの為席を外す。酔いは完全に冷めてしまった。ちゃんと言い訳考えとかなきゃな・・・どう説明しても痛々しい女になるけど。


渋面でトイレから戻ると、覇弦さんは眼鏡を外してうなだれており、アシカさんも若干テンションが下がっていた。


「どうしたんですか」


「いや・・・気持ち悪い話を聞いただけだ」


聞くんじゃなかった・・・と呟き、彼は私と入れ違いでトイレに向かった。話してくれなそうだけど、一応アシカさんに何の話をしていたのか聞く。すると案の定首を横に振られた。


「何か大変ですね。覇弦さん大丈夫かな」


「・・・沖谷サンモネ」


「私は平気ですよ。まだ全然飲めます」


アシカさんはサービスと言って、ちゃんと最後にマリン・デライトを作ってくれた。これも美味しいという感想より、飲めるお酒に出会えた。という感動の方が大きかった。


(=^・・^=)

「――って事があったんだ。二日酔いも無かったし、私って意外とお酒強い方なのかも。自分で買うほど好きじゃないけど、お酒が飲める身体に生まれたのは・・・良かった、のかな」


「にー」


「残すはgroovyなんだけど、片井先輩が全然捕まらない・・・早くしおさんから貰ったお金返して話したいんだけどな」


「にー」


「果報は寝て待てって事か・・・次会えたら、絶対に返そう」


私は冷房の効いたキッチンでピーマンと茄子(アク抜き済)をざく切りする。ニャルラは私が図書館から借りてきた少年漫画『TEN PIECE(テンピース)』をわざわざリビングから持ってきて、座布団代わりにしていた。


切った野菜をボウルに移し、電子レンジの中に入れる。加熱中、塩を振って置いておいた鯖の水気を取り除き、一口大に切る。


「にー」


すると匂いを嗅ぎ取ったのか、ニャルラが反応して私の足元にやってきた。


「調べた感じ食べても大丈夫っぽいけど、中毒になっちゃうと怖いから止めとこうか」


「に」


「あとニャルラが前私の傷を吸い取ったのって、その漫画読んだからでしょ」


『○』


「いや丸じゃなくて、あれはホッ・・・本当にビックリしたなぁ」


ニャルラに妨害されないよう手早く切って片栗粉をまぶした鯖を全て、油を引いて熱したフライパンの上に入れた。生姜チューブをちょっと入れて弱火で炒める。


TEN PIECE(テンピース)』略称『テンピ』は誰もが知る海賊冒険漫画だ。友情、努力、勝利という少年漫画の王道を行くこの作品は女の私も大好きで、毎週欠かさず最新話をコンビニで立ち読みしている。


片井しお事件のあたりで家にあったテンピには(返却済)大気や衝撃、疲労といった実体がないものを、ピンク色の肉球の形に具現化する能力者が登場していた。ニャルラはそれを読んで真似したのだろう。


「もう何もかもおかしいけどね。漫画どうやって読んだの。とか、何で真似できるの。とか」


焼けた鯖を皿に移す。とっくに加熱が終了した電子レンジからボウルを取り出して、中身をフライパンの中にぶちこんだ。


「まぁ、あまりテンピの能力はコピーしないでね。収集つかないから。何か1回許可しちゃうとニャルラ何でもやりそうだし。というか出来そうだし」


――自然を操る能力を使って天気変えられても困るし。触れたものを見えなくしたとか、石化させちゃったとか、性別変えちゃったとかされた時、戻す方法が分からないとかだったら洒落にならないし。


全体に火が通ってしんなりしてきたタイミングで、白だしとめんつゆを回しかけて炒め合わせる。


『〇』


「よし」


ニャルラと約束を交わしたところで火を止める。これでお弁当用の作り置きが全て完成した。キッチンの横にある洗濯機の上には先程作った料理が置かれている。全部冷凍保存用に作ったものだ。鶏肉としめじのトマト炒めと、ベーコンと茄子としめじのソテーからはまだ湯気が出ていた。冷めたら小分けしてタッパーに入れよう。


私は毎日ではないが、ちゃんと料理している。お米だって1回に3合焚いて冷凍保存している。朝はオートミールかパンとスープで、昼は作り置きのおかずと解凍したご飯、夜は寝るだけなのであまり食べない。


食べるとしても賞味期限が近くなったレトルトや缶詰かゼリーで、そういったものがなければレタスを齧ったり、トマトやキャベツや玉ねぎを加熱調理したりするくらいだ。味付けは無しかたまにめんつゆで。まぁ今日は作り置きを味見したからそれが夕飯になるけど。え?今?18時ですけど何か。


――冬だったら豚汁とかミネストローネとかカレーとか食べれるけど、夏はすぐ痛んじゃうからなぁ・・・。


夏は好きだけど、一人暮らしを始めてちょっと嫌いになった。悲しい。

Ermiteは覇弦さんもちでした。


幸生「これで私が支払ってればなぁ・・・せめて割り勘・・・」

覇弦「幸生は黙って俺に奢られとけばいい」(頭ポン)

幸生「あ、その台詞篠木も同じこと言ってました。流石兄弟ですね」

覇弦「・・・・・・・・・」(幸生の頭に置いた手に力を込める)

幸生「痛い痛い痛い!あ、頭!割れる割れるー!!」

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