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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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第X話『future following moonlight』

第?話『あったかもしれない未来』


――これは、私とあなたがいない世界で起こる、沖谷幸生さんの未来です。必ず起こるとは限らないけど、用意された結末の一つだと考えてもらって構いません。あなたは知るべきなんです。このままだと彼女に幸せは来ない。


――・・・。


『あなた』は謎の言語で話す。『私』はその言葉を理解し、手をくるりと回した。


――そうですね。百聞は一見に如かず。辛い思いをするかもしれませんが、我慢して最後まで見ましょう。


――私に協力してくれるかについての返答は、その後でお願いします。どうかあなたが、今の彼女を逆位置にしてくれますように。


(=^・・^=)

自分のことを憎んでいる人物が振る舞ったお茶を、何の疑いもなく口にする割合はどの位いるのだろうか。


――この紅茶には・・・恐らく多分きっと、何か入っている。私だったら入れる。


8割方確信していた。それでも私は微笑を浮かべ、熱々の紅茶を一気に半分程飲んだ。それによって意識以外のものを失ったとしても、私は何も困らないから。




――・・・。


「起きたか」


目を覚ましたら、病院のベッドに横たわっていた。目の前には西村と名乗る知らないおっさんがいた。


――体が動かない。


「安静にしてろと言いたいところやが、早急に話をつけなあかん」


彼の手を借りて起き上がると、私は病衣を着ていた。手首足首と首には痣。口の中も切れたのか、血の味がする。私は冷えたタオルを受け取り、頬に当てた。


声も涙も出なかった。抵抗と言う抵抗も、声も出さなかった。それが気に食わなかったのか、何度も何度も殴られた。


――うっ!


下腹部に鋭い痛みが走る。純潔は知らない男性に散らされていた。他の人も入った。口にも苦いものを出された。動画も取られていたような気がする。


「自分のこととかちゃんと覚えてるか?気ぃ狂っとらんやろうな」


――ちゃんと覚えてます。あの、私の眼鏡は・・・。


西村さんが私の横に封筒とバインダーを置く。


「これは慰謝料みたいなもんや。あとあんたの眼鏡代も含まれとる。病院は指定された所に行け。治療費が免除になるよう便宜を図っとるらしい。その念書にサインと拇印をすれば、家まで送ったるから」


彼は手際よくお金と荷物と薬を渡し、放心状態の私を家まで送ってくれた。もう二度と会うことはないと言われたよう、な・・・。





私は眠った。ほぼ何も食べず、スマホも見ず、2日後――ようやく動けるようになった。


――死のう。


佐古神社へに行って最期のご挨拶を済ませたら、どこか遠い場所にある崖から・・・と思った瞬間、部屋の鍵が開いた。見えてないので断言できないが、どかどかと靴を履いたままフローリングの上を歩くような音がする。施錠したかどうか考える暇もなく、誰かが私の目の前に立った。


「・・・」


「・・・だれ?」


血の匂いを纏った男は無言のまま私を抱きしめた。靴は・・・。と言いかける唇を、噛みつくように塞がれる。


「幸生!さち、なっ・・・!」


薄暗い部屋に甘い空気が充満し、夜目が効いてきたころ、キスが止んだ。私は相手の――篠木の服を掴んでいないと立っていられなかった。


俺の所為でと嘆く篠木を慰める。怪我はと聞かれ、もう動ける。食欲はないけど。と答えた。篠木の顔が見えなくたって、彼が今どんな気持ちなのかは手に取るように分かる。


――今の私は優しい気分。しょうがないから、気を遣ってあげよう。


「篠木も血の匂い凄いよ。大丈夫?」


「俺の血じゃない」


「なら誰の?」


「全部壊してきた」


「全部って、全部?」


「あぁ。特に俺の幸生を傷つけたやつはもういねぇ」


「そう・・・そんなことしなくてもよかったのに。でも、わざわざありがとう」


「どういう意味だ」


「やっと手に入ったんだ。死ぬ意味が。19歳女子大生が知らない男たちにレイプされて動画取られ、ショックのあまり自殺したなんて、もってこいの理由じゃん。これなら多少死に場所を選ばなくても、お母さんもきっと、悲しんでくれる」


私はテンションを上げ、声に明るみを混ぜて話す。反対に、篠木の声は、気配はどんどん重く、冷たくなってゆく。


「死にたいのか・・・あぁ。そうだよな。幸生は、会った時からずっと死んだ目してたもんな。それ以外のことはまるで興味ねぇみたいな」


だったら、何であの時俺を・・・と篠木が言っているのを聞きながら、私はぎゅっと抱きしめた。


「ごめんね。今までありがとう。結局、篠木のことを・・・威弦のこと、1人の男性として好きかは分からなかったけど、このままずっと一緒にご飯食べて、遊んで、家でマンガ読みながらだらだらするのはきっと楽しいだろうなって思ってたよ。どうか篠木だけは、幸せでいて。私は来世に期待するよ」


「・・・俺にずっと幸せでいてほしいのか」


私は体を離そうとしたが、彼の腕でがっちりと拘束されたためその体勢のまま頷く。すると、篠木は今にも泣きそうな声を出した。あぁ、ここで彼の表情がはっきりと分かれば、私の決心も鈍るだろうか。


「だったら、傍にいてくれ・・・今更離れられるかよ!」


「いや、それは・・・」困ると言う前に、私の身体はマットレスの上に落ちた。


「死に憑りつかれてんなら、死にたくないって思うくらい、俺に依存すればいい」


篠木が私の上に覆いかぶさり、耳元で囁く。身じろぎしようにも、痣の痛みもあって全然動かせない。


「待って、篠木」


「拒否権なんてねーよ。2人で天国にイこうなぁ・・・幸生?」


唯一動く唇も、すぐに言葉を紡げなくなってしまった。


(=^・・^=)

後日、廃屋でバラバラになった焼死体が発見された。発見時は遺体の損壊が酷く、身元の特定は困難かと思われた。しかし、傍に落ちていた荷物から学生証が発見された。佐古学園大学経営学部2回生の沖谷幸生。確認を取ると、沖谷幸生は先週から連絡が取れておらず、一人暮らしのアパートにも帰っていないことが判明した。警察は第3者による殺人事件とし、捜査本部が立ち上げられた。


篠木威弦は『佐古大生バラバラ焼死体事件』というタイトルのネットニュースを見て、ニヤリと嗤う。


――これで俺だけが、幸生の幸せを生してやれる。


マンションの一室、窓はカーテンで覆われ、昼夜が分からない。時計の針は9時を差していた。篠木が寝室に移動すると、クイーンサイズのベッドに一人の女性が仰向けで眠っていた。ベッドからは長い銀色の鎖が4本垂れており、先を辿るとその鎖はベッドボードに一にまとめられた状態で埋め込まれていた。ベッドに腰掛け、痣一つない頬を撫でる。


――相変わらず死んだように眠るな。


「起きろ。幸生」


篠木は彼女の鼻をつまむ。すると幸生はうっすらと目を開け、篠木の手に触れた。その左手首にはクッション素材でできた腕輪がはめられている。


「んん・・・もうちょっと、一緒寝よ?」


幸生は彼の男性らしい無骨な手に、自分の指を絡める。互いのプラチナリングが仲良く隣に並んだ。


「・・・チッ」


あっさり起こすことを諦めた篠木は、幸生の体が冷えないよう素早く布団にもぐる。昨日あんなに激しく求めあったのだから。幸生がまだ眠りから抜け出したくない気持ちも分かる。今日は映画でも見ながらゆっくり過ごそうかと思っていたが――妻からの可愛い誘いを受けたからには、それに応えてやるのが夫の務めというものだ。


全部俺がいいようにしてやるからな。そう言って、篠木は幸生を後ろから抱きしめ首筋に噛みついた。



なお、片井しおんの行方は未だ不明のままである。

幸生「まだまだまだまだ続くそうです。次回から新章スタート。どうぞお付き合いくぁさい」

篠木「今噛んだだろ。誠意足りてねぇな」

ニャルラ「にー」

幸生「うるさっ・・・篠木、これ3回言ってみて」(魔術師と書かれたフリップボードを見せる)

篠木「魔術師、魔術師、魔術師」

幸生「(絶句)」

篠木「(可愛い)・・・これが何だよ」

幸生「別に・・・もっと滑舌鍛えよう・・・」

ニャルラ「にー、にー、にー」

幸生「いや、君にチャレンジ権ないから」(心の声)

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