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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第49話『三回言えたら本物』

後半第3者視点。

第49話『三回言えたら本物』


後日、私はお礼の品を携えて相談室のドアを叩いた。


「こちら、片井兄妹の件でお世話になったお礼です」


「そんなそんな。お礼なんていいよー。こっちだって楽に片井グループを摘発できたし」


そう言って熊本先生は微笑む。いやそんな『教材運ぶの手伝ってくれてありがとー』みたいなノリで言われても・・・。


「・・・」


 顔が引きつるのはご愛敬である。


「やっぱ先生が一枚噛んでいたんですね・・・いや、一枚どころじゃない・・・?」


「あははー」


「一体何者なんですか・・・」


「絶賛ダイエット中の非常勤講師さぁー」


どうやら真面目に答えてくれる気はなさそうだ。呆れて溜息しか出てこない。これ以上巻き込まれたくないので、ここは素直に乗っかるとしよう。


「はぁ。まぁ・・・ギリ痩せてる方だとは思いますよ」


この前小太り扱いしちゃったけど。顔立ちは割と整っているから、痩せとモテが比例していくんだろうな。私は熊本先生を見て、改めて結論を出した。


――うん。この先生はテディじゃない。というかテディはもっともっと若いし!年齢非公開だけど!


「このままじゃ私の気が収まらないので、受け取ってください。良いペンも貰っちゃったし」


「そう?わざわざありがとね。ペンの使い心地はどうだい?」


「どうして事前に使い方を教えてくれないんだと激しい憤りを感じました」


腕を組んで怒った顔を作る。島永君が教えてくれなかったら普通にペンとして使ってたぞ。


「使わないのが一番いーんだよ。武器は自分に自信を持たせるお守りとしての扱いが丁度いい。誰も傷つかないに越したことはないだろ?」


片井先輩に向けて発砲したことは黙っておこう。あの時は焦りと苛立ちが、新しい武器を使いたいという好奇心を掻き立ててしまったんだ。


「まぁ、そうですね・・・って私は血の気引いたんですけど!何で片井先輩の告白録音してるんですか。まさかあの時の会話・・・」


「あれは面白い話してたからつい・・・取っときたいなって」


「先生もはしゃいで武器を振り回してる子供じゃないですか!」


消してください!と身を乗り出す。すると先生は笑ってノートPCを見せた。


「はい。もうとっくの昔に消してあるよ。複製は島永君が持ってるのだけだね」


「一応消してもらったんですけど・・・大丈夫かな」まだ2人共疑っているけど。


「僕も消したんだから。沖谷さんも録音止めよっか。新品とこーかん」


ギクリと肩が強張る。な、何故・・・。


私は渋々リュックのフロントポケットからペンを取り出して、ボールペンの末端についてあるキャップを軽く押し込んだ。


「はい・・・何で分かったんですか」


「そらそらー。第六感がビビビッ!と反応したからさ!それに、僕が沖谷さんの立場ならそうするしね」


素直でよろしい。と言って熊本先生は新品と交換してくれた。さっきまで持ってたやつもほぼ新品だったんだけど・・・。


「ねね。これ開けていい?」


「どうぞ・・・」


――そういえば、今日ニャルラいないな。最近は大学までついてくることが多かったのに。

 軽く室内を見渡していると、熊本先生は包装紙を破り、お礼の品である猫モチーフのミニほうきとちりとりを見つめていた。


「これ・・・!」


「あ、や、あの。使わないようでしたらまた後日別のを」


――うっ。やっぱ食べ物にしとけば良かった。ニャルラめ・・・。


「・・・沖谷さんが選んだの?」


「えっ」


先生は糸目を見開いてこちらを見ていた。この人に嘘は通じなさそうだ。なら、限りなく真実に近い嘘を言った方が良い。


「この前友達の家で先生のお礼品選んでたら、その家で飼ってる猫が勝手に注文ボタン押しちゃって・・・まぁいっかってなりました」


あの時はビックリした。無難に茶菓子でも買いに行こうとしたら、ネットショッピングサイトである『Nile(ナイル) Marke(マーケット)t』からこれが置き配達で届いていた。ニャルラが隠し持っていたスマホを見ると、しっかり注文履歴が残っていた。怒ったのは言うまでもない。


「そっか・・・その猫ってどんな猫?」


「黒猫ですね。品種はちょっと分からないです」


「へぇー。黒猫が俺に、ね・・・」


「いや信じるんですか。嘘みたいな理由だと思うんですけど」


そうツッコむと、熊本先生は相好を崩した。その表情はいつもの笑顔とは違ってて。


――何か先生、凄く嬉しそうだな。ニャルラのチョイスは正解だったってことか。


「ありがとう。大切に使うよ」


「それは良かったです」


私は軽く頷き、お暇する空気を作った。


「いつでも相談に乗るよ。聞いたからには、ちゃんと最後まで導いてあげるから」


熊本先生が軽く手を振ると、その手には一枚のカードが挟まれていた。もう一度振ると、カードがペンに変わる。この先生手品も出来るのか。


――熊本先生って、胡散臭いけど・・・。


魔術師(マジシャン)みたいですね。魔法使いというよりは、まじゅちゅし・・・」噛んだ。


「・・・それ良いね。ちょっとテイク2・・・おほん!僕はまずちゅしだから、遠慮なく・・・僕はまちゅづしだから・・・僕はまづちゅし・・・」


「もし先生がまちゅちゅしになったら、最初にまず・・・『魔術師』って綺麗に言える魔法を会得した方がいいですね」


「沖谷さんにもその魔法かけてあげゆよ」


「呂律回ってませんよ。じゃあそろそろ・・・」


失礼します。と言って相談室のドアを閉めた。


――これで熊本先生もクリア。残るはgroovyのお二人だけど・・・。



片井先輩と浦本先輩は・・・今大変そうだし、話すのはほとぼりが冷めた頃でいいか。私は2人を探すことを早々に諦め、バイト先に向かった。


(=^・・^=)

幸生が店に入ると、見知った店員が何も聞かず個室へと案内してくれた。


「すみません。お待たせしました」


「大丈夫ですよ。飲み物もちょうど来たばかりですから」


ネイビースーツに同色のネクタイを締めた覇弦は、黒のサーモントフレーム越しに目を細めた。テーブルには烏龍茶と、氷が入っていないカシスウーロンが置かれている。


「・・・お疲れ様です。覇弦さん」


幸生がぎこちなくグラスを向けると、覇弦はお通しの鶏皮ポン酢をつまんでいた箸を置き、柔和な笑みを浮かべて乾杯した。


「先日はよく頑張りましたね」


「いや、別に大したことは・・・」


静かに扉が開き、覇弦が既に注文していたであろう料理が運ばれてくる。大根サラダ、枝豆、たこわさ、刺身盛り合わせ・・・あっという間にテーブルを埋めてしまった。


「わぁ何かいっぱい来た」


「・・・食べて忘れるに限りますよ。片井グループに追われるなんて経験、語る人も限られるでしょう」


幸生は、では早速といった風に刺身に箸を伸ばす。


「怖かったっちゃあ怖かったんですけど・・・死ぬことにはならないような気がしたので、恐怖よりは驚き!って感じの方が強いです。友達には、良いように脚色して話題のネタにしてきます」


「消化が早いですね。流石です」


俺はこんな風にはいられないな。と覇弦はひとりごちる。


我が身に起こった出来事が奇奇怪怪であればあるほど、誰かに共有してしまいたくなるだろう。


――今、この状況も含めて。


「こちらお返しします」


覇弦は()()()()()()()をテーブルの上に置いた。幸生の箸が止まる。


「え」


「先に言っておきますが、故意ではありませんよ。貴女が木の上なんかにリュックを隠すから・・・しかも人目があるマンションの木とか嫌がらせですか。私も通報されるのは御免なので、速さ優先で少々手荒に回収しました。その時、ファスナーが開いて何故か通帳だけが飛んでいきまして・・・拾いに行った時、見えてしまったんです。開いたまま表向きに落ちたことで・・・貴女の預金残高が」


幸生は通帳を手に取り、最後に記入したページを開く。何度見ても8桁の数字が減ることはなかった。


「・・・このことを他に知ってる人って」


「いませんよ。私と貴女だけです」


「そうですか。それは・・・ありがとうございます」


「お礼の前に、何故今年の4月から、定期的に100万円単位でこの通帳に預金されているのかを・・・きちんと説明してください」


覇弦は腕を組んで壁に背中を預けた。隙のない彼の様子を見て、幸生は目を伏せる。


「・・・分かりました」


そして数拍おいて、観念した様子で頷いた。


「お刺身全部食べてもいいですか。あとお水飲みたいです。覇弦さんもお水入りますか?」


「・・・・・・・・・・・」


覇弦は顔をしかめる。


「おかしいだろ・・・」


「?おさしみおいしいです」


「誤魔化してんじゃねぇぞ。つーか」


覇弦の発言を阻止するかのようなタイミングで、店員が水を運んできた。覇弦の水はテーブルに置かれ、もう一つは箸を持ったままの幸生が右手で水を受け取った。


その様子を見た覇弦は、益々疑心感がつのる。その思いをすぐに吐き出したくて堪らなかった。


――この女は一体誰だ?と。



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