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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第47話『沖谷幸生は傷つける』

第47話『沖谷幸生は傷つける』


「・・・は?」


「全部篠木の所為とは言わない。誤ってほしいとも思わない。勿論しおさんにも。彼女は、篠木のこと本当に好きみたいだった。ただその思いのぶつけ方が狂ってただけで」


「何でお前はいつもいつも・・・何で怒らねぇんだよ!レイプされかけたんだろ!?」


「未遂だし、連れていかれる前に逃げたから。私の場合・・・『若いから仕方がない』で十分納得できる範疇だよ。若い内は、何をしても許してほしい。今すぐじゃなくていいから水に流して欲しい。私はそういう若者の特権、賛成派なんだ。だからしおさんは許すよ。そもそも酷い事はされる前に防いだし、私が謝りたいくらいだよ・・・酷いこと、言っちゃったからね」


『若いから仕方がない』これは、魔法の言葉だ。常識も、社会のマナーも、自分が今していることが不正解だということさえ知らない。よく分かっていない未成年は数多く存在する。しかし、不正解だと分かっていた上でやってしまう少年少女の方がきっと多い。自分がやりたいからやるんだ。一度犯した過ちが成功体験となり、何度も何度も繰り返す。そして大人に糾弾される度に――彼らは許しを請うのだ。


私だって、そうだった。そんな子供だった。自分がやりたいことばかりをやって、親を傷つかせる天才とまで言われた。


涙を流して、頭を下げる以上のことは何も出来ないから。それを見た大人達は『若いから仕方がない』と言って無理やり落としどころを作った。


「でも、篠木は違うよね。もう立派な大人だよね?どうして・・・私がこんな目に合わないといけなかったの」


「・・・それは」


「前に言ったよね。小さじ一杯程度の可不がある生活を目指してるって。ようやく致死量の不幸から抜け出せたばかりで、今・・・1Kの部屋に一人で生活する以上の幸福はいらない。波風立てずに暮らしたいって」


アシカさんは、前を向いたまま、私の発言に耳を傾けている・・・と思っている。素顔が隠れてるってこういう時便利だな。


佐古駅に着いたが、私は歩みを止めない。アシカさんは少し迷うそぶりを見せるも、付き添うことを選んだようだ。ニャルラは人の足を避けながらついてきている。


――アシカさんが空気を読んで別れてくれることを期待したけど、まぁ無理だよね。


私は心の中でアシカさんにごめんなさいをする。篠木の友達の前でこんな事するなんて正気じゃない。でも、私はまだ若い。ギリギリ10代だし。成人?してるけど何?反省するから許してください。


「篠木になら・・・怒ってもいいよね」


――私、今から篠木を傷つけます。


「・・・俺に言えば良かっただろ。したら、俺が全部どうにかしてやったのに」


「暴力で。でしょ。そういうところだよ。それが嫌だったから教えなかったんだ。篠木は強くて、何でも出来る。だからこそ、自分が何も出来ずに終わってたっていう結果が一番応えると思って・・・」


ドォン!と大きな音が電話越しに聞こえた。篠木が出した音だろう。反射的に肩が強張る。微かに反響しているので、彼は地下にでもいるのだろうか。


「そうだな・・・お陰様で今最高にイラついてるわ。俺言ったよな?幸生を不幸にするやつは全部壊してやるって」


「懐かしっ。覚えてるよ・・・あの時、『なら私と篠木の関係は?』って可愛くないこと言ったんだっけ」


本当は別のことを考えてたことも、ちゃんと覚えている。


――なら、私の・・・。いや、やっと離れられたんだ。もう大丈夫。もうそんなこと、望まなくていい。考えなくていいんだ。


そんな悲しい思考が喉まで出かかっていたが、過去の私ナイス。本当に言わなくて良かった。


「あぁ。答えは今も同じだ。壊さねぇよ。仮に壊れたら――幸生も壊してやる」


――俺はとっくの昔に壊れてる。だからお前も早く堕ちてこい。


そんな副音声が聞こえた気がした。


「なら、私がしてほしいことは一つだけ」


不穏な気配を感じ取ったのか、アシカさんが私の肩を掴んで首を振る。私は期待に応えるよう、アシカさんの目を見て頷いた。


「篠木は私にとって有害な人間だから、もう私に関わらないで」


「・・・・・・」


「!!??」


「にー!?」


邪魔したい。でも自分が私と一緒にいる理由を説明できない。スマホを奪って通話を終わらせる?いやこのタイミングで切るのが一番マズい。みたいな、マスク越しでもアシカさんの動揺ぶりが伝わってくる。ニャルラもにーにー鳴いてて五月蠅い。私は顔の前で手を横に振り、違うという意味を込めたジェスチャーをした。


「って、言えたら良かったんだけどね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


「私と篠木じゃ生きてる世界が違いすぎる。だからずっと、後腐れない壊れ方を模索してた。機会を・・・窺っていたんだ。けど、それはもう止めにするよ」


アシカさんとニャルラは固唾を飲んで見守っている。シリアスな展開のハズなのにこっちの絵面はシュールだな。


「篠木から逃げない・・・よう心がける。だから、篠木も逃げずに、過去の清算をしてきて欲しいです」


「・・・そこは言い切れよ」


「頑張る・・・それでこのお願いは、もう二度と嫉妬のいざこざに巻き込まれたくないからであって、完全に私の都合だから」


「ならもう少し可愛く言っても」「別に無理だったら無理でいいよ。別の人に頼るから」


「あ゙?頼るって誰にだ」


「あと、清算するまで会わないし話さないから」


「はぁ!?」


完全に調子を取り戻した篠木にお灸をすえる。これでちょっとは身に染みるかな。


「次はないから。なんて言わない。嫌なら早く終わらせて。それじゃあ」


「おい――」


電話を切った。篠木の番号を連絡先に追加し直したうえで、着信拒否設定にする。


「これでよし!すみませんお待たせしました」


「許シタ・・・ノ?」


「にー」


アシカさんがおずおずと聞いてきたので、私はえ?と小首をかしげた。


「まだですよ?篠木が自分で残した不安の種を燃やしてくれるまで、私も怒りに燃えてます」


「片井妹モ・・・悪イデショ」


「何勝手に怒ってるんですか?」


「エッ」


「いや、ごめんなさい・・・ありがとうございます。私の為に怒ってくれて」


アシカさんは怒気を含んだ声でしおさんを責めようとする。私は『お前には関係ねぇだろ』の意味を込めて笑った。いや気持ちは分かるけども。


「威弦ハ・・・沖谷サンノ事、凄ク大事ニシテルヨ」


「分かってます。篠木なりに、住む世界が違う私のことを理解しようとしてくれてる」


「ソウジャナクテ、ソノ・・・沖谷サント出会ッテカラ、威弦ハ別人ニナッチャッテ。ソレハモウドン引キデ」


「あの、大丈夫ですかそれ。私に言っちゃってOKなやつですか」


「コロサレルカモ」


駄目なんかい。


私は2階建てのアパートの前で止まる。ニャルラが不思議そうに私を見上げていた。


「ここで大丈夫です。今日は本当にありがとうございました」


「セキュリティノセノ字モ無イアパートダネ」


ここの住民に謝れ。


「はは・・・一応2階にしたんですよー。それに鍵もちゃんとしたやつに変えてもらったし・・・大丈夫ですから」


「ソウ・・・沖谷サン。威弦ト仲良クネ」


手を振って見送る。アシカさんの姿が完全に見えなくなったのを確認して、私はそこから更に1分程歩き、4階建てのアパートに到着した。


「にー」


「いや、無理でしょ。初対面の男性に家知られたくないよ。防犯意識防犯意識」


階段を上り、404号室の鍵を開ける。当たり前だけど部屋の中は静まり返っていて、少し薄暗かった。


――やっと帰ってこれた・・・私のお家!!


「ただいまぁ・・・おかえ・・・」


「にー」


ニャルラとハイタッチした1秒後、私は左膝を守るように倒れた。


「い、痛い・・・消毒・・・いや、その前にシャワー」


――傷のことすっかり忘れてた。痛みが戻ってきたんだな。


ラグの上に寝ころんだままデニムを脱ぐと、500円玉くらいの傷ができていた。赤くにじんでいる。これはデニムもすぐ洗濯しないと。


「にー」


「ニャルラ・・・ありがとう」


ニャルラが心配そうに近寄って来た。私はそんなニャルラを見て――


「待って止めて舐めないで!そのザラザラした舌をしまって!バッチイから!あ、いや汚いのは私の怪我であってニャルラじゃ・・・」


――痛みを忘れて立ち上がり、着替えを抱えて風呂場へと駆け込むのだった。

幸生「新キャラ出すぎ。しかもほぼ男とか・・・どーなってんだ」

覇弦「男ですみませんね」(手の関節ボキボキッ。目は笑っていない)

アシカ「ゴメンネ。男デ」(推定身長約2メートルのアシカマスクマッチョ)

店長「ヴッ・・・ひぐっ、ご、ごめっ、う、うええぇぇぇぇ・・・」(ガチ泣きおじいちゃん)

幸生「いや全然構いませんよ!この章もいよいよクライマックスですし!」(皆違う意味で扱いづらい!)

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