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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第46話『終わったっぽい?』

第46話『終わったっぽい?』


救世主から筋肉マン。そしてアシカさんにシフトした彼は私の隣に座った。勿論一言断りを入れてからだ。


――この人は救世主で、親切で、礼儀正しいアシカさんだ・・・。大丈夫、大丈夫・・・。でも今すぐお家に帰りたい!ニャルラもいつの間にかいないし!


矢継ぎ早に出てくる情報に思考が追いつかない。寝起きにこの仕打ちは辛いな。一旦スマホを見ると、島永君から2つの動画が送られていた。


――『凄ないすか?』って何だ?多分、これは今すぐ見た方が良いやつだ。


「すみません。ここWi-Cm(ワイシム)置いてませんか」


「アルヨ」


――あ、今初めてBar味感じたわ。アシカさんはマスターじゃないけど。


変なポイントでほっこりした私は、リュックの中身を確認するのをすっかり忘れていたのだった。


世界中で使用されている無線LAN『Wi-Cm』の有無を聞くと、アシカさんは二つ返事でIDとパスワードを教えてくれた。


Wi-Cmがない場所でスマホを操作すると、その分の通信容量はスマホ本体が負担することになる。私は月々、一定の容量を超過すると携帯料金が高くなるプランにしているため、極力外では開かない。目指せ毎月最低ライン。特に動画は数分でも多くの容量を喰ってしまうのだ。しかも月末なので余裕がない。ここはケチを承知でWi-Cmを使わせていただこう。


接続に必要なパスワードを入力すると、無事画面右上に扇マークが表示された。


「ハヅルカラ大体ノコトハ聞イタヨ。沖谷サンをココニ運ンダ後合流シタノ」


どうやら、私の鞄は覇弦さんが回収してくれたらしい。マジか。


「そ、そうでしたか・・・やっぱ巻き込むんじゃなかったかな・・・後が怖すぎる」


「沖谷サンが起キル前ニドッカイッチャッタケド、怒ッテル風ジャナカッタヨ。切羽詰マッテタ感ジ」


「はぁ・・・また、お礼します。アシカさんも、また後日改めて必ず」


気ニシナイデと言われても、まぁ気にするよね。私は動画の再生ボタンを押し、横画面にして音量を上げる。アシカさんにも見えるように位置を調節するが・・・この人の視野どんな感じなんだろう。


特に何も言ってこないので、この体勢のまま見続けると――何の変哲もないビルから、警察官に拘束された若者が固まって出てきた。


――!?


5人の見知らぬ男性が、半強制的にパトカーに乗せられてゆく。真顔のまま唇を噛んでいる者、青ざめている者、以前暴れている者、何かを喚いている者・・・中には成人しているのかが怪しい見た目の男もいた。


ニュースでしか見たことない光景に、これテレビ局に売ったらいくらになるんだろう。という感想が真っ先に頭に浮かんだ。最低である。


「コイツラ見タコトアル」


「・・・え?」


「片井妹ノ取リ巻キニヨクイルメンツ」


「はぁ・・・しおさんの愉快な下僕たちが警察にしょっぴかれてる・・・」


――もしかしてこの建物が、私が連れて行かれそうになった、レイプ現場・・・。


2つ目の動画は、最初からパトカーが映っていた。カメラがゆっくり左に動くと、しおさんが2人の女性警察官に抑え込まれている。開いた口が塞がらなかった。


――えぇ・・・。


しおさんは髪を振り乱し、やみくもに手足を動かして抵抗していた。しおさんの綺麗なオレンジの爪が警察官の頬に傷をつける。これ公務執行妨害じゃ・・・知らんけど。


「・・・コノ動画ドウシタノ」


「分かりません。後輩からなんですけど、凄くない?って言ってるんで、偶々通りがかった道でこんなことが起きていたから思わず撮っちゃったんだと思います」


あくまで島永君はこの件に関わっていない風を装う。全部をこの人に伝える必要はないからだ。


『よく撮れてるね。高く売れると思う』と返信し、スミックマがお辞儀をしているスタンプを送る。


――まさか島永君も動いていたなんて・・・家着いたらすぐ電話しよう。


「でも、これで多分・・・帰れると思います」


リュックを背負って立ち上がると、アシカさんが送ルヨと言ってくれた。別にいらないけど・・・。


「万ガ一ノコトガアッタライケナイカラ」


「それもそうですね。外暑いのにすみませ・・・」


――え。私アシカと並んで帰らなきゃいけな、い・・・。


アシカさんが私を一人にするのを不安がるのは分かる。分かるが・・・丁重にお断りしたい。だがしかし、相手の気分を害さないような言い訳もすぐには思いつかない。そんな葛藤を胸に抱いたまま彼に続いて廊下に出ると、店長が体育座りで泣いていた。隣には心配そうに見つめるニャルラの姿が。


「ええっ」


――ずっとそこで泣いてたの!?廊下暑いのに!自分が泣きたい時、場所なんて気にしない気持ちは分かるけど・・・一人きりの空間であればマジで暑くても寒くても汚くても構わないんだよね。


「沖谷サン送ッテ行ク」


アシカさんはそう告げ、出口へと向かっていった。私はお礼を言って後に続く。店長の号泣はスルーなのか。可哀想になってきたぞ。


「あ、この通り知ってる・・・」も何も、バイト先のすぐそばだった。この道よく通るぞ。


佐古駅まで行くことを告げると、アシカさんは私に歩幅を合わせて歩き出した。この人・・・アシカじゃなければ俗にいうスパダリの素質があるのでは。


「沖谷サンハオ酒飲メルノ?」


「はい。といっても甘党なので飲めるお酒が少なくて・・・まだまだ探し中です」


「ウチニ来タラサービススルヨ」


「ありがとうございます!必ず来ますね。私まだBarには行ったことなくて」


通行人の視線が肌に突き刺さりまくっているが、私は雑談に花を咲かすことだけを考える。


――知り合いに目撃されませんように・・・。


「俺ネ、ハヅルト友達ナノイヅルニハ黙ッテロッテ言ワレテルノ」


「えっ。私もです。何なんですかねあの人。スリルを味わいたいんですかね」


「スパイミタイデ嫌ダケド・・・二人共、俺ニトッテノ恩人ナンダ」


「へぇー。知らなかったです」


アシカさんは篠木の友達で、Bar『Ermite(エーミット)』勤務のバーテンダーだった。得意なカクテルはマリン・デライトだそう。聞くと、日本酒とコアントロー(ホワイトキュラソー)が入っているらしい。に、苦そうだ・・・。え?グレープフルーツジュースも入れるの?もっと苦くなりそう・・・私飲めるかな。苦いの苦手なんだけど。


覇弦さんとは篠木に会う途中で出会い、目を付けられたらしい。可哀想。一度彼に気に入られたら終わりだ。アシカさんは感謝してるっぽいけど。


「アシカさんは私のこと・・・ってすみません。電話だ」


私のスマホが、話に水を差すように振動した。横目でアシカさんを見ると、彼は『非通知』の表示を見たうえで頷く。


――プツッ。


電話を切った。市外局番以外の着信は取らない。これは防犯による行いであってマナー違反ではないのだ。自論だけど。


「エ、イイノ?」


「にー」


「いやだって、怖いし・・・怖いですし」


黙って後ろをついてきたニャルラも同意の鳴き声を上げる。私は一匹と一頭に同じ理由を述べた。


「多分アノ番号・・・」


――ヴーーッ。ヴーーッ。ヴーーッ・・・。


アシカさんが何かを言いかける前に、同じ番号からまたかかってきた。もう一回切ろうとしたが、慌てた様子のアシカさんに止められる。


「待ッテ待ッテ。出タ方ガ良イヨ!オ願イ!」


「うぅ・・・分かりました」


嫌な予感が半端ない。私は恐る恐るスマホを右耳につけた。


「はい・・・」


「幸生か!?」


「そうです」


篠木の声を聞いた瞬間、苦々しい顔になる。私はこっそり溜息をついた。まだ隣にアシカさんいるってのに・・・。


「今どこだ。一人か!?無事なのか!?」


「えーと。一人だけど、エビリー前にいるよ?買い物して帰ろ―かなって」


嘘ではない。アシカさんの単位は頭なので実質一人だし、たった今スーパーマーケット『エビリー佐古駅前店』を通過した。買い物はいつでもする気はある。


「しおんって奴と会っただろ。警察から『俺に付きまとう女・・・幸生を、しおんが俺の彼女として懲らしめようとした』ってクソ意味分かんねー電話がかかってきて。急いで佐古戻ったらしおんだけじゃなくて片井グループもヤベェことになってて・・・どういうことだ?とにかく幸生は何もされてねぇんだよな?」


――な、何か大変なことになってるってことは分かった。


質問したいのは山々だが、先に私の話を聞いてもらうことにしよう。


「だ、大丈夫・・・しおさんとは会って話したよ。篠木の彼女さんなんだって?」


「違ぇよ。冗談言ってんじゃねぇ。俺は――」


「全部終わったよ。多分ね」


私はわざと篠木の声に被せた。電話で話すことは嫌いじゃない。街中であることと聴衆人がいるのが不満だけど・・・やるしかない。


「篠木に金輪際近づくなって言われた。念書にサインさせられて、連絡先も全部消された。しおさんは金と人の力を使って私を調べて・・・最後は知らない男達に襲われて、動画とかも撮られちゃってバットエンドになるところだった。でも、そうならずに済んだよ・・・()()()()()()()()()()()()()、私は最悪の未来を回避することが出来たんだ」

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