第45話『怒り注意報発令中。ところにより涙』
今日の幸生’s 服
トップス…黒のロゴ入り半袖ロングTシャツ(背中に白文字でI admire the situation explanation T-shirt.)
ボトム…ブルーのスキニーデニム(シャツインはしてない。ベルトもなし)
ソックス&シューズ…黄緑のくるぶしソックス&黒のローカットスニーカー
第45話『怒り注意報発令中。ところにより涙』
「いいいいっいっ今更!?」
「謝って」
そうだ。誤ってもらおう。理由はどうであれ、私は一方的に暴力を振るわれた被害者だ。夢の中だからなのか、思考が単純化しているのが分かる。
バチン。と古米さんの真横でマグマの気泡が弾けた。甲高い悲鳴が聞こえるが、もう心配する気は起きなかった。
「ごめ、っごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「いいよ。仲直りの印といってはなんだけど、私の怒りを古米さんにもおすそ分けするね。これでもう1歩、私に近づくんじゃないかな。まぁあまり私のことを理解するのはオススメしないけど・・・それが今の古米さんの糧になっているのならまぁ・・・いっか」
「はい・・・はい・・・」
私は古米さんと同じ場所に行けないし、行きたくない。だけど――。
「何回だって、火の中水の中闇の中にだって会いに行くよ。ずっとは無理だけどね」
「でも、私一人じゃ・・・」
「大丈夫。時間はまだたっぷりあるよ」
私は古米さんの怒りを再現してみようと念じるが、マッチ棒の火程度の大きさしか出せなかった。やっぱり私は怒りを、静かに溜め込むタイプだな。放出するのは向いてない。
私の体をゆっくりと炎が包む。マグマはいつの間にか消えていた。
「待って!行かないで!まだ、私は・・・・染」
「古米さんの世界も、明るくて素敵だよ。憧れちゃう」
でもね、と私は今読んでいる小説の台詞を引用した。
「暗い場所でこそ、火は美しくて、映える・・・神秘的な存在なんだ」
――怒る前に、少しだけでいい。周りを見れる余裕があれば、きっと・・・。
古米さんは血相を変えて私を捕まえようと手を伸ばす。しかし、私はそんな彼女を見つめるまま――夢の世界から退出した。
(=^・・^=)
甘い香りで目を覚ますと、私は本革ソファーの上で横になっていた。火照った体は冷房ですっかり冷え、おまけに頭に冷たく重い何かが乗せられている。ゆっくり体を起こすと、膝の上に氷嚢が落ちた。え?私日射病にでもなったのか?
「にー!」
――ニャルラ・・・!
声を出す前に、裸眼で周囲を確認する。ソファーに木製の長机、目の前に黒の・・・スチールロッカー?があるこの部屋は一体・・・。少なくとも民家ではなさそうだ。
――バックヤード?スタッフルーム?みたいな所なのかな・・・。裸眼じゃよく分からないや。今何時だ?
「にー」
思考を一時中断し人を探すために立ち上がると、ニャルラが眼鏡ケースを運んできてくれた。それはつまり、木の中に隠したリュックを無事回収してくれたということだ。私は心の中で合掌する。結構高めに放り込んだから大変だっただろうに。
「上手いこといったんだ・・・」
「にー」
「痛・・・」
足を動かすと、左膝に鋭い痛みを感じた。そうだ、私転んだんだった。怪我の具合を確認したいが、青のスキニーデニムを脱ぐワケにはいかない。我慢するか。そう思っていると、ニャルラが私の上に飛び乗り、痛みを感じる部分に肉球を置いた。
「・・・?」
「にー。にー!」
「え・・・痛く、なくなった・・・」
ニャルラと膝を交互に見ると、ピンク色の泡のようなものが浮遊していた。
――いやアウトアウトアウトーーーー!
「ニャルラそれ、それっ!何とは言わないけど、絶対にその泡?肉球の形にしちゃ駄目だからね!」
小声で言い聞かせると、ニャルラは不思議そうに首を傾げた。泡のようなものはそのまま壁をすり抜けてどこかへと行ってしまった。
――怪我の痛みはあの泡が吸い取ってくれたことだし。手当はシャワー浴びてからにしよう。
「やーホット、膝小僧擦りむいたくらいで済んで良かった・・・」
浦本先輩に見つかってからの行動は、正直無我夢中すぎてよく思い出せない。
――まさか逃げた先におばあちゃんが乗ってた自転車があるなんて思わないって。しかもGPSはそのまま入ってたし。
あの時の発言や行動は完全に直感で選んだものだった。もっとよく考えて行動すれば、浦本先輩がぶっ飛ばされずに済んだのか・・・後悔しても仕方がないが、気にはしてしまう。
――ニャルラも・・・玩具のナイフをくわえて来た時にはもっとマシなもん持って来んかいってめっちゃ文句言っちゃったけど・・・何故か効果てきめんだったしなぁ。
「にー」
眼鏡を持ったまま急に黙った私を、ニャルラが不思議そうに見る。
――そうだね。まずは、現状確認とお礼を・・・。
視力を取り戻し、数度瞬きする。んーっと伸びをして部屋の外に続くドアを開けると――目の前にアシカがいた。
「うわーーっ!」
「ァーーーッ!」
「「あァーーーッ!」」
「ウルセェ!」
当然のように叫ぶと、目の前のアシカ――のマスクを被った人物も私の声に驚いて叫び、最後は綺麗にハモった。そして悲鳴を聞いた筋肉マンが怒った様子でこちらに来る。彼も、首から上がアシカだった。つぶらな瞳に細く白いひげがとってもチャーミングである。
「起キタノ。モウ平気?体調ドウ?」
「・・・ぁ、え・・・?」
――あのマスクってアシカだったのおおおお!?全然分かんなかった!いや分かるか!覇弦さんも何あげてんだ!え!?何でアシカが2人もいるの!?そういう
店!?いやどんな店だよ!
「うっ、ううっ・・・えぐっ」
私はポカンと口を開け、心の中でツッコミまくる。その間、私を驚かした方のアシカはマスクの中でしゃくり上げていた。
「何デ俺ノスペア勝手ニ被ッテルノ。店長」
「てえっ!?」店長ォ!?
「だって、だって・・・」
「にー」
廊下は暑いので、私は2人を部屋に入れる。店長と呼ばれた方は白シャツグにグレーのジレベスト、グレーの蝶ネクタイを着けていた。肌寒いからなのかグレーのカーディガンを羽織っている。恐らく性別は男性。手のシワを見るにかなりお年を召されていると予想するが、未だ顔が隠れているため年齢が分からない。店長の服装から連想される職業は・・・。
――いや分かんないわ。私服の可能性だってあるし。
「ここってお店ですよね。何屋さんなんですか?」
「Barダヨ」
「成程・・・?」
――コ、コンセプトBar的な・・・?
店長は左手に持った水色の杖でどこかを指す。その先にはポールハンガーがあり、私のリュックが引っかけてあった。
「あ、ありがとうございます」
アシカさんは取りに行こうとする私を手で制し、代わりに取ってくれた。
「座ッテテ」
「はい」
優しっ。
「オ水イル?」
「ありがとうございます。お願いします」
気遣いが凄い。
「店長モ泣キ止ンデ・・・エ?ソレデソンナ・・・」
店長をなだめ、話を聞く様子は身長差も相まって完全にアシカの親子である。立場逆だけど。
「コノ人イツモハ普通ノカッコシテルンダケド、沖谷サン俺ノ顔見エテナカッタデショ?」
「そうですね」
多分見えてたら絶対に助けてなんて言わなかった。よくここに来るまでに通報されなかったな。
「驚イチャウカモシレナイカラ、店長ガ気ヲ使ッテ俺ニ合ワセタンダッテ。俺ハ顔以外モ怖イラシイカラ」
――まぁ確かに、同じアシカでも初見が筋肉ムキムキ巨体アシカよりかは、私と背丈が近いおじいちゃんアシカの方が幾分恐怖心は薄れるけど・・・。
「そうだったんですね。まぁ、驚いただけで怖くはないですよ。私アシカ好きですし」
別に好きでも嫌いでもないが、空気を読んでそう言っておく。店長さん。私はアシカさんの後ろに隠れている店長に向かってお礼を述べた。彼は鼻をすすりながら首を振る。マスク取って鼻かんだ方が良いんじゃ・・・。
「店長ガ泣キ虫ナノハイツモノコトナノ」
「はぁ。あの・・・急に大声だしちゃってすみません。お店のスペースをお貸しいただきありがとうございました。お陰様ですっかり元気になりました」
「・・・ぁ」
「え?すみませんもう一度お願いします」
「ア・・・さ・・・すか?」
謝罪とお礼を込めて頭を下げる。すると、アシカ店長はぼそぼそと何かを喋った。
――どうしよう。全く聞き取れない。
失礼を承知でもう一度言ってもらおうと店長に近づいた次の瞬間、彼の体は宙に浮き、アシカさんによってドアの外へと放り投げられた。
「ァーーーー!」
バタン、ガチャ。と、流れるように扉と鍵が閉まる音が聞こえ、思わず目を向いた。
――いや、鍵は困るんだけど・・・。
そう意味を込めてアシカさんを凝視してしまう。いくら覇弦さんの知り合いとはいえ、正体不明の屈強なアシカと鍵のかかった知らない部屋で二人きり。警戒メーターが急上昇するが、慌ててその思考を止める。
「ゴメンネ。店長ノ言ウコトは気ニシナイデ」
「実は何ておっしゃったのか分かんなくて。アシカさんは聞こえ・・・あ、そう言えばお名前は」
「ソノママデイイヨ」
「えっ」
「ソノママ。聞コエナイママデイテ。名前モアシカデイイヨ」
有無を言わさない口調に、はい以外の言葉は出てこなかった。店長は一体何を言ったんだ・・・。
店長「ウチのアシカをお婿さんにどうですか?」




